Cheena:この記事の前にPart1、Part2を読むことをおすすめします。
⇒ 大海の孤島を捜して~ATLANSIA~ Part1
⇒ 大海の孤島を捜して~ATLANSIA~ Part2
~Part 3 Contents~
- 1 - ATLANSIA Bridges
- 2 - SOPHIA & The CENTURY Basses
- 3 - ATLANSIA Finish
- 4 - ATLANSIA Pickups - Talk Again
- 5 - STEALTH, PENTAGONE FORTUNE Basses & Head Designs
- 6 - ATLANSIA Woodworks
Cheena:さて、前回はブリッジとトレモロの前で止めたんでしたね。
ネモト:そうだね。それじゃ続きをやりますか。
Cheena:アトランシアのブリッジは1弦ごとに分割されたソロブリッジが大半で、ギター用トレモロであってもいくつかをプレートに接続して構成するように作られていたりします。多弦をよく作る上での配慮ですね。
ネモト:Victoria専用とかあるから、ホントにこだわってんだなあ…ってなる。機種まで絞るってなかなかないね。
Cheena:Padalkaは確かソロブリッジを色々作っていたはずですが、オリジナルデザインとなると少なかった気がします…
逆説的な考え方ですが、大量生産に向かないCNC加工が主軸だから、とも言えます。金型や切り出しを伴う鋳造や板金に比べて単品のコストは上がりますが、マイナーチェンジを作るのは案外楽なんですよね。
ネモト:確かに。50個とかなら量産体制整えた方が高くつきそうだ。
バリエーションが豊富なのでこれも気に入っているのを各々いくつか紹介することにしましょうか。
1 - ATLANSIA Bridges
Cheena:正直変わり映えがしない気がするのでここは1つだけ紹介してあとはネモトさんに譲ります…まだまだいっぱいあるし……

Sophia Bass専用、Breeze Tailpiece 。単純にメカメカしくて格好いいというのが良いですね。
ネモト:私はまずはこれやね。
ATB-3"VICTORIA"
ちらっと書いたVictoria専用ブリッジ。

Victoriaが好きなんだ。これをチョイスした理由は申し訳ないけどそれだけなんだ。
あとはこれかな。
ATB-10"HEXER-2"

弦間ピッチは基本が18mm。二次加工で14mmに設定できるブリッジ。 15.5mmは昔から見かけるけど14mmってなかなかない。
Cheena:Hexer!名前の通りパーツが六角柱になっていて、インダストリアルな見た目が格好いいですね。
ネモト:六角形って近未来感もあって好きだったりする。独立じゃないブリッジもあるけど、やっぱり独立のイメージ強いよね。
Cheena:独立じゃないブリッジ、というとJupiterあたりのですか…Hip Shot Style Aみたいなやつ。
ネモト:ヒップショット感があるのはATB-02だね。
ATB-01ってのもあるよ。

Cheena:ありましたねえ。制作の簡便という意味ではかなり良いものだと思います。
ネモト:あと気になるのはこれか。
ATB-12。

ピエゾ内蔵のThe Century用ブリッジ。
スマートなデザインでとても良い。
Cheena:これ、フレットレス・サドルですかね?見た目は近いですが角度調整の機構が見えないのでそれとは断言しづらいですが……それとも最大限サドルに振動を伝えるための配慮なのかな。
※フレットレスサドル……調整によりバズ音を出すことができるサドルで、フレットレスベースのサウンドに近づけることができる。一般に木製で、金属製のものはシタール風のサウンドになるためギターに使用される。
ネモト:前後のブリッジマウントスクリューの締め込み方を変えれば全体的な角度調整ができるっぽい。それが意図したものなのかどうかは別として…。
Cheena:微妙なところですね。
ネモト:怪我の功名というか、意図していない使い方が後に定番になるなんてよくある話だし、気にしないのが1番だね。
Cheena:さてそろそろ次に……の前にさっき出た楽器を紹介しておきましょう。
2 - SOPHIA & The CENTURY Basses
Cheena:Sophiaは現在試作中の楽器だそうで、スパニッシュスタイル/クラシカルスタイルだけでない自由度の高い構え方ができるもののようです。

The Centuryはこちらで、どことなくPEの香りもするアコースティックベースです。フィンガーレストは楽器本体にネジ穴などを開けることなく固定されているとか……No.94 Hand Restとされています。5弦の位置にあるためにフィンガリングが全ての弦で同じように可能。説明を見る限り、ただの指置きと考えるよりも手をしっかり置いて使うもののようですね。

楽器本体とはあまり関係ない話ではあるんですが、The Centuryはアトランシアの中で随一表記揺れがあります。Theが全て大文字だったり、そもそも付いていなかったり…ということがあるため、見出しではアトランシアの基本的な表記法である「楽器名は全て大文字」に倣いつつ、CENTURYを固有名詞として扱うことでThe CENTURYと解釈しています。文中では全て見やすさ重視で大文字は最初だけですけどね。
ネモト:ソフィアのボディシェイプはかなり好みなので、60万未満で販売されたら買うかもしれないな…。それはそれとして、やっぱりこのアンティーク調の塗装はいいねぇ。
3 - ATLANSIA Finish
Cheena:No.92、NOSTALGIC MODERNIZED FINISHING……ですね。上の画像はどちらもこの塗装方式としては赤みが強めの方だと思います。パテントページP.10の画像を見ると結構、黒が強い例も挙がっていますね。


いやぁ、格好いい。
ネモト:ライトの当たり方によってはもっと茶色っぽく見えたり。塗り潰しもあるんだけど、木目が見えるイメージが強いよね。
Cheena:わかりやすい画像がありました。

これは結構木目が見えやすいやつです。裏面なので手前の張り出しがエルボーコンターですね。
ネモト:赤い。改めて思うけどこの質感いいな。そういや昔からシースルーレッドが多かった。
Cheena:格好いいですからね。
ネモト:確かに。それだけで十分か。
Cheena:さてそろそろ次に行きましょうか。何が良いかな。
ネモト:何にしようか。ピックアップとか?
Cheena:前々回は軽くしかやりませんでしたからね。行きましょう。
4 - ATLANSIA Pickups - Talk Again
Cheena:アトランシアといえばこれ!と言えるのはやっぱりARC/ARSピックアップですが、前回軽く紹介した通りの天面にカーブがかかったソープバー、ギターハム、などもオリジナルで作っています。
ネモト:ピエゾも作ってたり。ピエゾはマウント方式によってかなり音が変わる(例えば駒にクリップするタイプならクリップじゃなくて接着させるだけでも変わる)から、アトランシアのピエゾはどんな音がするのか気になる。マグネティックが気にならないわけではないけども。
Cheena:アトランシア、本当に演奏(試聴)動画みたいなものが無いですからね。そもそもユーザー数が少ないし…ライブでこう使われてます、とかじゃなくてこの楽器はこういう音がします、が聞きたいから尚更。
ネモト:確かにないね…。
1人の人がベース以外同じセッティングでひたすら弾く動画を見たい。作りたいという気持ちはあるけど金がない。
Cheena:味付け無しでシンプルに、Nu-Clear Custom Soundsのシールドか何かで繋いだJazz Chorusでお願いしたいですね。エフェクターは使ってもラックリミッターとオーバードライブぐらいかな。
ネモト:ジャズコは名機。PA時代にベース繋いでいいぞって言われた唯一のギターアンプだわ。
ARピックアップ、昔はボディに直接配置するだけだったのに今はプレートを使って配置したりすることもあってバリエーション増えてるね。
Cheena:ピックアップ回転用の(ARCは回転させることで音質が変わります。ARSは小型化した代わりに回転を封印しています)レバーが付いたものも多く見ます。それに、ポールピースの配置もまだ研究段階のものがあるようで…




ネモト:飽くなき探究心。私は多分真似できないな。一定の評価を得られるものができたらそれを基にしたものしか作らない気がする。性格的に。
Cheena:その「一定の評価を得られるもの」がまたぶっ飛んでるんですけどね。ARシリーズに関して言うなら、ポールピース2個では最大限に音質を変えようとすると90°回す必要がありますが6個なら30°で済みますし、実用的にも見た目にも良いものだと思います。
ネモト:良いデザインだね。ポールピースの高さ調整ができるようになったら更に凄みが増しそう。そこまでやる意味があるかは別にして。
Cheena:Dimazio DPみたいなポールピースが入ればいいですね。
ネモト:DP123はいいピックアップだった。
Cheena:Dimazioの公式サイトからだとカバーの色やポールのメッキが幾つか選択できます。ブラックビューティにしたい時はゴールドのポールを使用するといいですね。
ネモト:カバーの色を選択できるのは知ってたけどポールピースも変えられるのは知らなかった。いいこと聞いた。
Cheena:見慣れてるのはブラックですね。
さてそろそろ次に…まだ紹介してないデザインの楽器がありますが、どうします?
ネモト:やりましょう。
5 - STEALTH, PENTAGONE FORTUNE Basses & Head Designs
Cheena:Stealth、Pentagone、Fortune……どれもヘッドが極細。StealthがVictoriaやConcordに似て制作数も多くバリエーションも富むのに対し、PentagoneとFortuneは少ないようですね。
3種の中で一番Atlansia要素を多く持つ(と勝手に思っている)Stealthから紹介しましょう。



ネックデザインはNo.107 ”SLIMECK”とNo.108 “COMPACT HEAD”。Fender系デザインのネックが必要とする材から2本作れるのが利点とか。でもこれだとどのポストに弦巻くべきか、混乱しそうですよね……
ネモト:Stealthのヘッドは好きなんだけど弦交換の時に間違えるって話はよく聞くね。これに影響を受けて、省エネネックの設計をちょっと考えていたりする。実際に製作するかはともかくとして。Stealthは安くて、Victoriaが39万の時代に22万で売ってたから財布に優しい。今は高くなったけど、それでも最安値だからそこそこ安いのが見つかるはず…。5弦買ってもいいかもしれない。
Cheena:某通販で6弦が50万でした。6弦のヘッドならポストもL3R3配置なので間違えづらいですね。
ちなみにアトランシアは他メーカーでは当然とされているヘッド周りの設計を無視する傾向があり、たとえば
- 正面から見た時、ペグポストからナットに進入する弦が折れている
- リテーナーはトレモロ使用モデルにも積極的に採用する
- ヘッドストックは小さく、軽量化/少材化する
といった特徴があります。ちょっと不思議なところ。
ネモト:確かに、ヘッド周りは特徴が強い。
ほとんどのメーカーはヘッドデザイン2〜3しかないのにやたらと多いよね。
Cheena:モデル毎に最適なヘッドを設計してるから、というのがそれなりに説得力のある理由だと思いますが、ヘッドだけ別モデルの楽器というのも多数あるんですよね…
Jupiterの超小型JBみたいな風貌とPegasusの左右対称でアトランシアとしてはかなり大きめのヘッドが好きです。シンプルに格好いい。

ネモト:私もJupiter好き。Victoriaの釘抜きヘッドの方が好きだけども。

Cheena:釘抜きから着想を得たシェイプ、でしたっけ?アトランシアらしからぬ、というか、ヘッドに大きい張り出しがあるっていう意味ではスクロールヘッドとかとも似てるし、シェイプも相まって歴史ある伝統楽器のような風格があるし、何が言いたいかというと好きですね。
全部好きって言ってる…?否定できない……
ネモト:惚れてしまったら痘痕も靨、嗄れた声も愛しくなる、そんなもんよ…。
6 - ATLANSIA Woodworks
ネモト:アトランシアはシーズニングした年数を公表してるのも特徴かな。案外少ないよね。
Cheena:各種OVER 12 YEARSのボディ(2Pボディを主に、OVER 6 YEARSのこともあり。Pegasus Guitarのみ10 YEARS)にCANADIAN HARD ROCK MAPLEのネックですね。しかしこのHard Rock Maple、誰がいつ頃考案したか不明ですが……
ネモト:うーむ…。センス的にマツモク感があるけど、わからないな…。
Cheena:まあ、格好良さに力を入れて誤字に頓着しないのがアトランシアです。PadoukがPadokだったりします。
そういえば、アトランシアの使用している材については紹介していませんでした。
ネモト:充分なシーズニングをした材を使う、フレイム、キルト、バール等杢の出た材をほとんど使わない、アフリカ材はあまり使わないのが全体的な特徴かね。質実剛健。
Cheena:時々セン(ハリギリ)も使用しているんですよね。基本的に柔く耐久性が低いですが、見た目はアッシュに似るため他のメーカーでも時々使われているイメージです。
ちなみにセンは食用です。山菜!
ネモト:70〜80年代の国産楽器によく使われていたな。昔持ってたトーカイのベースもセンボディだった。鬼栓と糠栓の2種類に分けられ、1954年製のストラトキャスターにも使われていたと言われてるね。
センの芽は大ぶりで食べごたえがあるけどアク抜きが大変でな…。やる価値は十分にあるけど。
Cheena:山菜の話は止まらなくなりますね。まずい。
ネモト:美味いだろ。
Cheena:ネタに乗っかって頂きありがとうございます…。
ネモト:木材の話に戻しますか。指板材にメイプルをほぼ使わないのも特徴だね。
Cheena:そうですね。ほとんどが分厚いローズかエボニー、そもそも一体型で指板と呼んで良いのか怪しいところですが少弦シリーズは一応メイプルです。
発見できたのはStealthのもの、4弦と5弦だけですね。明るい。

あと、Galaxy Deluxeにしか出てきませんが、ハカランダはハカランダと表記していますね。
ネモト:ハカランダ使ってるやつあるのね、見逃してた。
Cheena:エボニーかハカ、というような扱いなので実際制作されたかは不明です。書いてあるあたり作ってそうだけど。
ネモト:私も作ったんじゃないかと思う。せっかく買った木材を何もせずに眠らせておくのはもったいないし。しかし、アトランシアの指板は厚いよね。何か理由があるのかな。
Cheena:結構な頻度で古典的な楽器を意識しているところを見ると(円錐指板の解説にも、ヴァイオリンなどでは一般的なことです、などと注釈を入れています)、コントラバスの厚みやRに寄せて作ってるんじゃないかなぁと思っています。何せ50-100Rコンパウンドですからね。
それに、分厚ければ万一指板調整が必要になっても削り代はたっぷりあります。こっちは流石に二次的に発生した利点だと思いますが…
ネモト:かなりRがキツいし、コントラバスの指板は余裕で20ミリ超えるから意識してるなら厚くもなるか。いっそ指板を膠で接着してれば完璧だったのに。
Cheena:まあ、フレッテッドであれば指板が削れることもなく、ゆえに交換は不要なので膠を使用する理由はないですね。日本の気候だと熱で溶融、湿気で分解、ついでにカビが腐らせにかかってくる。
フレット側に関しては交換時に指板へのダメージが少ないねじ止め式フレットとかを制作していたりするし、そういう意味でも消耗して良い部分への割り切りとしっかり維持するべき構造体の区別がしっかりされていますね。
ちなみにネックの厚み、おそらく指板含めた数値、は1Fで25mm、12Fで28mm程度と言われています。
ネモト:夏場の車中にヴィオラを置いといて、ケースを開けてみたらネックが外れていた、とかマジであったな…。
一般的なのは(私基準)ナットで22mm、12F25mmって感じだからやっぱり厚いのね。どうでもいいけど私が所有してるコントラバスは1Fで42mmだった。厚い。
Cheena:コントラバスは流石に構え方が違うので比較できませんが、どちらにせよ薄く細いネックが持て囃される時代ですからね。ぶっといネックはもはやAtlansiaとWishbassにしか残されていないのでは。
ネモト:太ネック好きだから寂しい限り。T.S Factoryとかギブソンとか「比較的太い」はあるんだけどな。
Cheena:そういうのも結構な頻度で薄く広い太さだったりしますし、厚く広い太さの、しかも丸いものはなかなか……既製の薄広ネックにメッセンジャー工法でもしてみましょうか。
※Messenger……現在は倒産している、アルミ・スルーネックにファズ内蔵などの独特な仕様のセミアコなどを作っていたアメリカのメーカー。
アルミネックをウッドパテでカバーすることで冷たさを克服した太いネックを作っており、しかもそのシェイプ(断面)は弓型に近いといわれている。
ネモト:そんなのあるのね。知らなかった。
パテ盛り盛りって楽しそうだけど、後できっちり成形するのは難しいだろうな…。
Cheena:多めに盛って乾いてからガンガン削って削りすぎたら盛り直して良い感じになったら塗装して……
見た目はともかくGrandfunk RailroadのギタリストMark Farner氏に愛用されていたし、打痕とか作ってもよほど深くない限りさっさと盛り直せばいいので案外合理的かもしれないですね。でも各方面に怒られそう……
ネモト:そこはほら、適当にシステム名をつけてあげれば大抵の人は納得するよ。ちょっと残念だけど人間なんてそんなもんさね…。
Cheena:剛性に優れる主材と加工に向く化粧材を用いた複合ネック、とでもしておきましょう。
ネモト:妥当なところ。
ぼちぼち話を戻しましょうか。
Cheena:そうですね。次は何に……と思いましたがこの記事もう7000文字越えてますね。軌道修正のため一旦終わりとしましょうか?
ネモト:そうしましょう。また次回!
※画像はATLANSIA公式サイト、公式Facebookより引用
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