ジェフ・ベックの訃報に接し
ギタリストで作曲家であった、ジェフ・ベックさん(以下、敬称略)が1月10日お亡くなりになりました。享年78。心より、ご冥福をお祈り申し上げます。
ジェフ・ベックは1970年代にはエリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベックという3大ギタリストの1人としてメディアなどで話題をさらったギタリストです。
死因は細菌性髄膜炎と伝えられています。私は某国営放送のニュースを見てとても残念に感じました。
私のジェフ・ベックの印象は何時までも歳をとらない若々しいギタリストでした。
最近ではYouTubeなどでミュージシャンのライブ映像を見る機会も増えました。ジェフ・ベックの映像も多く見ています。そこでのジェフ・ベックは髪も真っ黒で若手ミュージシャンと共演し、溌剌としたプレイを繰り広げていました。
最近、自分自身の音楽的骨格を作ったミュージシャンが旅立つことが多く伝えられています。チック・コリア、ジョー・サンプル…ジェフ・ベックもその1人でした。
今回は鍵盤屋から見たジェフ・ベックの回顧録を書かせていただきます。

Jeff Beck, CC BY 2.0 (Wikipediaより引用)
ジェフ・ベックを知ったのは大学の軽音楽部
私がジェフ・ベックの音楽を聴いたのは大学時代でした。17歳から愛読していた「プレイヤー」という雑誌でジェフ・ベックの存在を知りました。当時、プログレシブロックを聴いていた私は3大ギタリストへの興味は薄く、積極的にジェフ・ベックを聴くということはありませんでした。当時のフェバリットギタリスはキング・クリムゾンのロバート・フィリップ、イエスのスティーブ・ハウ、ピンク・フロイドのデビッド・ギルモアなどのプログレ系。ハードロック系はディープ・パープルのリッチ・ブラックモア、ユーライア・ヒープのミック・ボックスなどでした。
大学の軽音楽部に入り、先輩達のバンドがジェフ・ベックの名曲「スキャター・ブレイン」や「分かってくれるかい」などをコピーしていました。
ジェフ・ベックはピックを使わず指先でギターの弦を弾く独自の方法でアームを使い、あのニュアンスを出していました。ロックをベースにしながらもジャンルに固執することはなく、ジャズに接近し新たな音楽を想像するなど、エリック・クラプトンやジミー・ペイジとは違った道を歩みました。
私は全てのアルバムを聴いている訳ではありませんが、1975年リリースの「ブロウ・バイ・ブロウ」や「ワイアード」はロックの古典として歴史に残るものであり、稀代のミュージシャンとして歴史に名を遺すギタリストであると考えています。
「ブロウ・バイ・ブロウ」は今聴いても素晴らしいアルバムだと思います。当時ギターインスト・ミュージックであのようなアルバムを作るミュージシャンはいませんでした。あのギターリフ、メロディ、リズムの捉え方などはそれ以前には聴いたことがないものでした。
私はギター弾きではありませんが「ブロウ・バイ・ブロウ」の先進性は容易に理解することができます。
■ 推薦アルバム:ジェフ・ベック『ブロウ・バイ・ブロウ』(1975年)

1975年発売当時のLPレコードの邦題は「ギター殺人者の凱歌」。一体どういうタイトルか!と高校生ながらに思った記憶があります。今となってはロック・ギタリストのインスト・アルバムは珍しくありません。しかし当時としては前例がなく、ギターインストが商業的に成功するかどうかはかなりの冒険だったと想像されます。しかしジェフ・ベック初ソロ・アルバムは全米4位の大ヒットを記録。歌のないロックは売れないという業界の定説を覆し、ギターインストというジャンルを確立させました。トーキング・モジュレーターの使い方も上手く、様々な箇所に工夫が凝らされています。
またアルバムの内容的にもキーボーディストのマックス・ミドルトンという、ジャズに寄ったミュージシャンを使い、ロックとジャズの融合を思わせる内容になっています。
推薦曲:「スキャッターブレイン」
この曲のリフが素晴らしい。一体これから何が始まるのだろうという期待感に溢れている。ロックの歴史の中で様々なリフが創造され、名曲を支えてきた。このスキャッターブレインのリフはロック史上に残る名リフだと思う。このアルバムにはジェフ由来のフレーズやリフが満載で音楽的素養の素晴らしさを満喫できる。そういう意味でも先進性の高いアルバムだと思う。ジェフのアドリブは硬質でスピード感に溢れ、楽曲を牽引する役割を果たしている。
一方、マックス・ミドルトンのフェンダーローズピアノによるジャジーなアドリブも冴えている。それに絡むストリングスアンサンブルも晴らしく、ピアノソロへの合いの手も秀逸だ。ロックに弦が絡みここまでスリリングなアレンジをあまり聴いたことがない。ブレイク後、終わりか?と思う中、ジェフの手癖と思われるソロが入り、更にリフが始まる。ドラマティックな展開は想像を超えている。この辺りの構成は見事という他はない。ひょっとして演奏は終わった筈がまたジェフが弾き出し、ドラムがそれに合わせた形でメンバーもそれに加わったため、その録音をそのまま使った可能性があるのではと思ってしまう(これは想像です)。
ジェフの出すギターサウンドは今もギタリス達が出す音に強い影響を与えているのが分かる。
推薦曲:「哀しみの恋人たち」
ジェフのギタリストとしての表現力が際立つ曲。マックス・ミドルトンがフェンダーローズピアノのビブラートやボリュームノブを上手く操作し、楽曲に表情を付けている。ドラマーのリムだけのフィルインも素敵。
大学時代、私のバンドのギタリストにどうしてもこの曲を演りたいと言われ、トライした。案の定、全くものにならなかった。この曲はジェフ・ベックの演奏能力が際立つトラックでジェフの技術がこの曲の根幹を支えている。アマチュアは演るべきでないことを痛感した(涙)。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ジェフ・ベック、マックス・ミドルトン
- アルバム:「ブロウ・バイ・ブロウ」
- 曲名:「スキャッターブレイン」 「哀しみの恋人たち」
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