サウンドハウスが提言する「音楽のまち女川」のプロジェクトが始動した。正直に言うと、前途多難であり、成功する確率は2割もないとみている。これまで事業計画において失敗をしたことのない国内屈指のネット通販企業、サウンドハウスだけに、悲観的すぎないか、と言われるかもしれない。しかしながら、現実を直視すると、問題は山積みだ。
まず、遠方地という不利なロケーションだが、これは徳島の小松島、和田島の拠点における実績からもわかるとおり克服できるはずだ。女川には幹線道路が国道1本しかない。それでも何とかなるものだ。よって人の問題にスポットがあてられることになる。
「音楽のまち」づくりというからには、音楽を愛し、音楽を奏でるスタッフをより多く雇用し、地元で音楽教室を運営しながら業務を展開することを目先の目標としている。このプランは叶えられそうな予感がしている。なぜなら、雑誌やネットで募集広告を打ち出してから、多くの方々の応募が連日送られてくるからだ。ありがたい話だ。当初は全国からの応募を期待していたが、ほぼ全員が宮城県内からの応募となっている。それでも十分かもしれない。
しかしながら、地方創生と雇用促進を手掛け、過疎化を食い止めるためには、女川に住む人を増やさなければならない。周辺のベッドタウンは栄えても、女川の人口が増加しないならば、真の発展には結びつかないと考える。よって、どうしたら女川に移住し自らの夢を託したいと考えるようなスタッフを各地から探しだすことができるかが、成功する鍵のひとつとなる。
とはいえ、たとえ何人もの方々が今、女川に移住を希望しても、現状、女川には住まいが見当たらない。町営住宅も所得制限のハードルがあり、ちょっとした収入があると入居できないと聞いている。空き家やアパートはほぼ皆無。それゆえ、会社が土地を購入し、自ら社宅を建てていくしかないのが実情だ。今、それを手がけている。資材が高騰する最中、工事は大幅に遅延しているが、いずれは竣工する見込みだ。この社宅造りは、町の発展に多少なりとも貢献することになる。
一番大きな問題は、やはり人。特に子どもたちの絶対数が少ないこと、高校進学とともに女川を出て石巻や仙台へ移動してしまうこと、一度女川を出ると戻ってくる若者が少ないこと、そして女性の割合がどうみても少なすぎる町であることが懸念事項だ。特に最後の点については、漁師と原発の町、という産業構造から、どうしても男の町、というイメージがつきまとう。そして女性が働ける環境がうまく整備されてないことも、女性が住みづらい町のようにも見受けられる。しかも聞くところによると、若い世代でのDVの問題が顕著になってきており、家庭環境が崩壊している世帯がかなりの数にのぼることが懸念される。これでは子どもたちが女川に戻ってきたいと思うわけがない。手立てはあるのだろうか。
だからこそ、サウンドハウスは女川に「音楽のまち」を創生することをアピールし、世間に訴えることとした。そして若い人たちが、自分のやりたい仕事を見つけることができるまちづくりの一端を担うことを試みることにした。成功の鍵を握るのは人であり、なかでも、子どもたちの存在が極めて重要だ。子どもたちが放課後に音楽を楽しむようになり、楽器を練習し、みんなと一緒に演奏できるようになれば、それだけでも女川での思い出、思い入れは一層、増すことになる。音楽を教える先生や仲間との交流から、横の繋がりも増え、地域の人々との交流も増えるだろう。そしてオンラインの演奏会を通じて、女川で育った人々が世間に知られることにより、きっと地元への愛着心が倍増するはずだ。
と夢みているのだが、前途多難に変わりはない。ひとつずつ、できるところからコマを進めていくことにする。夢を実現するために。
