サイモン&ガーファンクル ブレイク前夜 パートⅢ
今回は歴史的デュオ、サイモン&ガーファンクルが大ブレイクする直前にリリースされたアルバムとその楽曲を検証し、ポール・サイモンの音楽について考えます。
高い才能をもったポール・サイモンとアート・ガーファンクル
サイモン&ガーファンクルというデュオは私が聴いてきた中でも万人に受ける大衆性とある種の偏向性を併せ持った音楽家です。全米1位を獲得しても、しばらくすると消えてしまうミュージシャンも多い中、ポール・サイモンは今も音楽シーンに影響を与えており、高い創造性は衰えることを知りません。
一方、アート・ガーファンクルもエンジェルボイスといわれるワン・アンド・オンリーの声を持ち、俳優業もこなすという才能を持っていました。
稀代な音楽家ポール・サイモンとアート・ガーファンクルとの歌唱が組み合うことでアメリカ史上稀に見る音楽が生まれたのは誰もが認めることです。
しかし、音楽ファンにとっての僥倖は長くは続きませんでした。サイモン&ガーファンクルは音楽性の違いなどから、5枚のアルバムをリリースしただけであっけなく1970年に消滅してしまいます。
とても懐かしく、繊細で危うく、琴線に触れる音楽の出処
ポール・サイモンはプライベートでは神経症であり、精神科医に通う恋多き男であった。彼の音楽を聴くとその断片を覗くことができる。ポールがそういう男だからこそ多くの音楽ファンが彼の音楽に魅せられたのは間違いない。健康的で悩みもなくアッケラカンとしたアメリカ音楽が多い中、深い心の襞から絞り出すようなある種の「毒」をもった音楽を人は好むのだ。そのある種の「毒」こそがポール・サイモンが持ち合わせたが音楽的才能ではないかと私は思う。
華やかである反面、暗く陰鬱な都市ニューヨーク。光と影の同居する街にかすかな光を求めてもがく人間の嗚咽や魂の叫びを彼の音楽に聴くことができる。たとえそれが明るい曲であっても、その裏にダークな色彩を感じる。私はポール・サイモンの音楽に滲むそういう部分を愛するファンの1人だ。
今回、紹介するアルバム『ブックエンド』にもそんなポール・サイモンの横顔を垣間見る事ができる。
■ 推薦アルバム:サイモン&ガーファンクル『ブックエンド』(1968年)

サイモン&ガーファンクルの3枚目のアルバム。この『ブックエンド』というタイトルはニューヨーク、セントラルパークのベンチに座る老人達をブックエンドに例えたもの。
アルバムジャケットはアル・ジャロウやスパークス、アル・クーパーなどを撮影したファンション写真の巨匠、リチャード・アベドンが担当している。素晴らしいポートレート!
A面は冒頭の「ブックエンドのテーマ」からA面最後のブックエンドのテーマ」でサンドイッチにする構成。この辺りはプロデューサー、ジョン・サイモンの技を感じる。
アルバム的にも前作と比べまとまりがあり、「アメリカ」や「冬の散歩道」など、楽曲的にもポールの曲作りの力が向上しているのが分かる。米、英ともチャート1位を獲得。「明日に架ける橋」や「ボクサー」へたどり着く大ブレイク前夜の傑作。
推薦曲:「旧友~ブックエンドのテーマ」
大都市ニューヨークの孤独感、疎外感などを公園に座る老人を切り口として描いたポール・サイモンの傑作。旧友からブックエンドへの流れなどを聴くとポール・サイモンの楽曲制作力向上が窺える。アコースティックギターのバッキングに乗る2人のハーモニーがニューヨークに住まう人々への孤独感を際立たせている。当時のアメリカ社会の断片が見えてくる。
推薦曲:「アメリカ」
サイモン&ガーファンクルの重要曲の1つ。恋人とアメリカを旅するシーンがテーマになっている。
グレイハウンドバスで旅をする日常の何気ない会話による表現が素晴らしく、映画の1シーンのように思える。
バック・ミュージシャンも華やかでドラムス、ハル・ブレイン、オルガンはラリー・ネクテルが弾いている。
2人の会話が洒落ていて、バスに乗り合わせたギャバニースーツの男はスパイで彼が締めているボウタイ、本当はカメラだから注意しろなど、ジョークが飛び交う。希望を持って旅だった2人だが、男は突然喪失感に襲われ、その時に彼女は眠っている…。
歌詞内に登場するキャシーは元恋人の名前でポールの心の奥底に沈む自身の想いをダブらせてストーリーを展開している。
ラリー・ネクテルのハモンド・オルガンの音色も含めたプレイにセンスの良さが際立つ。広大なアメリカを旅する景色が見えてくるようだ。
推薦曲:「ミセス・ロビンソン」
この「ミセス・ロビンソン」はサイモン&ガーファンクルの楽曲でも最高位に属する楽曲。アルバム『パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム』の同楽曲とはアレンジ、歌唱が異なる。一般的にはこの「ミセス・ロビンソン」がオリジナルとして捉えられている。最高位に属する意味はアレンジが素晴らしいところとそれに合わせた2人の歌唱に力があることだ。旧作はポール・サイモンによるギターカッティングから始まるが、今作は数本のギターを重ねたイントロが素晴らしい。このイントロアレンジだけでの効く価値のある楽曲。シングルで全米1位を獲得。
推薦曲:「冬の散歩道」
典型的8ビートの楽曲。サイモン&ガーファンクルの楽曲の中でもストレートなロック的要素を前面に出したアレンジが施されている。
季節は流れていくが希望を捨てずに行こう…的なポール・サイモンの明るい面が強調されている楽曲。旧友やブックエンドといったフォーキーな曲に対し、強いロックの曲が入っているのも当時のフォークからロックへという時流が反映されているのかもしれない。
この曲は日本でも何度かチャートに上っているが、TVドラマのタイトル曲として使われ広く知られることになった。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ポール・サイモン、アート・ガーファンクル
- アルバム:「ブックエンド」
- 曲名:「旧友~ブックエンド」 「アメリカ」「ミセス・ロビンソン」「冬の散歩道」
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