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Rock’n Me 19 洋楽を語ろう:サイモン&ガーファンクル

2022-02-28

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。
第19回目では、サイモン&ガーファンクル(以下、S&G)について語ります。一言で表すと「1960年代の史上最強デュオ、歌声の調和と人間関係の不調和」といったところです。

S&Gは、その名の通り、ポール・サイモン(vo, g)とアート・ガーファンクル(vo)の2人から成るフォーク・ポップ・デュオです。簡単に歴史を書くと、「小学校の同級生」→「手を変え品を変えアルバムを出しても売れない」→「デュオ解消」→「忘れた頃にリバイバル・ヒットして再集結」→「1960年代後半、続々と名作を発表」→「俺は俳優になる(アート)」→「俺はソロになる(ポール)」→「1970年にデュオ解消」→「何回再結成しても喧嘩別れして消滅」←イマココです。たとえS&Gの名前を知らなくても、「サウンド・オブ・サイレンス」、「ミセス・ロビンソン」、「コンドルは飛んでいく」、「明日に架ける橋」などの名曲は、絶対どこかで聴いたことがあるはずです。

個人的に強烈な思い入れがあるのは、彼らの全盛期ではなく、再結成時のライヴ・アルバム&ビデオ『The Concert in Central Park(セントラルパーク・コンサート)』(1982年)です。これは1981年9月19日、ニューヨーク市セントラル・パークでのコンサートを収録したものです。全盛期で解散した2人が、生まれ故郷のニューヨークで一夜だけの再結成フリーコンサートを開く…そのインパクトを日本の例で例えるとしたら、BOΦWYが突然再結成して、代々木公園で一夜限りのフリーコンサートをやるようなものです。

■ サイモン&ガーファンクル『The Concert in Central Park』

本作品が発売されて数年後、当時高校生だった私は、東京の高田馬場ビッグボックスにあったショールーム「ビクターミュージックプラザ」でこのビデオに見入っていました。当時は最先端のメディアとしてCDが出始めた頃で、インターネットなんてなかった時代です。家庭用ビデオデッキ(もはや死語ですね)も普及していなくて、もし仮に持っていたとしても音楽ビデオソフトは1万5千円程度で、手が届く代物ではありませんでした。音楽ビデオソフトを見るためには、レコード屋(当時はこのように呼んでいました)や電気屋で流されるビデオの映像を見るしかありませんでした。その場合、アーティストや曲の選択も、早戻しも早送りもできません!

さて、アルバムに話を戻します。真面目で気難しそうな小柄のサイモン、知的だけど自由奔放で天真爛漫な大柄のガーファンクルはどこまでも対照的です。でも歌だけは阿吽の呼吸で、オープニングの”Mrs. Robinson(ミセス・ロビンソン)”は、10年以上のブランクがなかったかのような絶妙なハーモニーです。

■ サイモン&ガーファンクル “Mrs. Robinson”

その後も、集まった50万人(!)の観客を相手に、演奏だけで勝負します。スティーヴ・ガッド(dr)、アンソニー・ジャクソン(b)、故リチャード・ティー(key)というニューヨークのトップ・ミュージシャンたちを従えて感動的な演奏を聴かせました。最近、コンサートの裏舞台に関する記事を読みましたが、企画の段階から二人は衝突しまくり、開催すら危ぶまれる状態だったそうです。それでも、なんとか開催にこぎつけ、コンサートの終盤では、腐れ縁の二人を象徴するような”Old Friends(旧友)”を弾き語りで聴かせました。コンサート企画が潰れずにこの名作が残ったこの日は、文字通り「奇跡の一夜」でした。

当時の私が惹かれていたのは、サイモンのギター・テクニックやガーファンクルとのハーモニーだけではありませんでした。セッション・アーティストの魅力を知り始めた頃で、スティーヴ・ガッドなどのバック陣が画面にチラッと映るたびに「おーっ」と興奮していました。歌を邪魔しない範囲でオカズを加えて曲を盛り上げていくバンドの仕事ぶりは感動的です。ポールのソロ作品である”Late in the Evening(追憶の夜)”や”50 Ways to Leave Your Lover(恋人と別れる50の方法)”は、スティーヴ・ガッドの代名詞となった「あの」ドラム・フレーズを堪能できます。リチャード・ティーもフェイザーをかけたローズ・ピアノをたっぷり聴かせます。そしてアンソニー・ジャクソン!曲の土台を支えながら、遊ぶときには遊び回っています。例えば、サイモンのソロ曲”Kodachrome(僕のコダクローム)”が途中からテンポアップしてチャック・ベリーの”Mabellene(メイベリン)”のカヴァーにつながった後の展開です。歌が盛り上がるにつれ、アンソニーはどんどん遊びのフレーズに発展し、歌のバックなのにルートすら弾かない箇所も一部あります。なのに、この曲にはこのフレーズしかない、というハマりぶりです。

■ サイモン&ガーファンクル “Late in the Evening”

■ サイモン&ガーファンクル “Kodachrome/Mabellene”

時代は変わり、1991年の話です。私は当時、ボストンを旅していましたが、ラジオのDJが「明日、ポール・サイモンがセントラル・パークでフリーコンサートをやる」と語っていました。あのコンサートの再現かと盛り上がった私は予定を急遽変更し、300km以上離れたニューヨークまで足を伸ばし、1991年8月15日のコンサートに参戦しました。しかし、そんな日本人観光客にとって、ニューヨークはあまりにも厳しかったです。公園内をどれだけ歩いても人だらけで、ステージの様子は全く見えませんでした。遠くから”You Can Call Me Al”や”Late in the Evening”が聴こえていたことを覚えています。結局、人混みに埋もれるまま終わってしまい、その後のライヴ・アルバムや動画での演奏を見ても、自分が体験したものとはつながりませんでした。後になって知りましたが、このコンサート前、ガーファンクルが「俺も参加しようか」とポールに聞いたものの、ポールは拒否しました。

■ ポール・サイモン『Paul Simon’s Concert In The Park』

1993年には何度目か分かりませんが再結成し、12月2日に東京ドームでコンサートを行いました。私は観に行きましたが悪い思い出しかなく、「集金コンサート」とはまさにこれのことだ、と憤慨したのを覚えています。スティーヴ・ガッド、アルマンド・サバル・レッコ(b)、故マイケル・ブレッカー(sax)、故フィービー・スノウ(cho)などの豪華バックバンドを従えていたのに、その良さを全く削ぐような内容が頭から離れません。歌(特にガーファンクル)がひどい、二人がまとまっていない、バンドが黙々すぎ、演奏時間が短すぎ(確か1時間程度)...と、嫌な記憶ばかりです。せめて良い思い出は…と思い返すと、前座で出演した南こうせつの「神田川」がS&G以上に盛り上がったくらいです。

こんな思いを持っているのは自分だけかと思い、今日までずっと黙っていました(別に、誰にも聞かれていませんが)。しかし、この記事化をきっかけにネットで検索したところ、同じような意見が多かったので少し安心しました。その後、2009年にも来日しましたが、意地でも「行かねー」と思い、スルーしました。4大ドーム公演に加えて日本武道館の追加公演が出たくらいでしたから、お客さんは集まったのでしょうが、今となっては知る由もありません。

しかし、このような体験をもってしても、彼らの作品、特に『The Concert in Central Park』の価値は全く変わりません。幸いなことに、今はビデオソフトを大枚はたいて買わなくても、Youtubeで(しかも無料で)見ることができます。40年経っても色褪せないこの名作を、皆さんも是非楽しんでください。


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ジョシュア

1960年以降の洋楽について分かりやすく、かつマニアックに語っていきます。 1978~84年に米国在住、洋楽で育ちました。2003~5年に再度渡米、コンサート三昧の日々でした。会場でのセットリスト収集癖があります。ギター・ベース歴は長いものの永遠の初級者です。ドラム・オルガンに憧れますが、全く弾けません。トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズに関するメールマガジン『Depot Street』で、別名義で寄稿しています。
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