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蠱惑の楽器たち 52.GM音源13 シンセ・パッド・カテゴリー

2022-12-07

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

■これまでのGM音源シリーズ
GM音源01 いにしえのGM音源
GM音源02 ピアノカテゴリー
GM音源03 クロマチック・パーカッション・カテゴリー
GM音源04 オルガン・カテゴリー
GM音源05 ギター・カテゴリー
GM音源06 ベース・カテゴリー
GM音源07 オーケストラ・カテゴリー
GM音源08 アンサンブル・カテゴリー
GM音源09 ブラス・カテゴリー
GM音源10 リード・カテゴリー
GM音源11 パイプ・カテゴリー
GM音源12 シンセリード・カテゴリー

パッドとは、詰め物という意味で、アンサンブルの隙間を埋めるようなサウンドの総称です。 主役になるような音ではありませんが、全体を包み込むような雰囲気づくりに役立ちます。 また、このカテゴリーは実在する楽器から離れて、シンセならではの抽象的な音が並びます。
下動画でTTS-1による各音色のサンプル音が聴けます。

089 000 Fantasia (2 voices) 音域 C2-C7

FM音源に対抗して開発されたRoland LA音源を搭載したD-50のキラキラサウンドです。柔らかいシンセストリングス系の音とCrystalのような金属的なアタック音を組み合わせたサウンドで、アナログシンセでは実現できなかった音色です。またFM音源は柔らかいパッドサウンドが苦手なので、LA音源ならではのサウンドと言えるかもしれません。 Fantasiaは、現在でも電車の発車メロディなどで使われているので、聴いたことがある人も多いと思います。

Roland D50, public domain (Wikipediaより引用)

LA音源は、特徴的なアタックにサンプリングされた短いPCM波形を使い、その他を基本波形で構成していました。音作りの面でも扱いやすく、メモリをあまり必要としないため、コストパフォーマンスにも優れていました。その後メモリが安価になるとPCM中心の音源に移行していきますが、限られた条件の中での創意工夫は、とてもクリエイティブに思えます。このカテゴリーの音色は、その当時のRolandサウンドの面影が多く残っています。

090 ウォーム、サイン

090 000 Warm Pad (1 voice) 音域 C2-C7

Warm Padという名称は、多くのシンセサイザーのプリセットにも存在します。そのサウンド傾向はどれも似ています。抽象的な名称の中では、イメージが統一できている音色の代表かもしれません。実在の楽器がない音色の場合、抽象的なイメージを名称によって統一できると、何かと便利なのですが、実際にはルールがないためバラバラです。
TTSのWarm Padは複雑なゆらぎがある音ですが、1ボイスのようです。 70年代からある分周回路のストリングマシーンの延長線上のアナログサウンドですが、主張をなくし、パッドとしての役割に徹した感じがします。アンサンブルに入ると地味な音で存在自体に気づかないぐらいですが、さまざまなシーンで使える柔軟性があります。実在する楽器から離れて、独自の方向へ歩み出した音色です。

090 001 Sine Pad (2 voices) 音域 C2-C7

サイン波を主とした2ボイスで、規則的な周期がある波形です。 サンプリングの原理上、高域になると周期が速くなっています。 Warm Padがストリングス系としたら、こちらはエアリード系のパッドと言えそうです。

091 000 Polysynth (2 voices) 音域 C2-C7

SynStrings + Sawの2ボイスで、強烈にスウィープしたシンセブラス風のパッドです。派手ではありますが、アナログシンセのような重厚さはなく、軽めのすっきりした音です。TTSは、どの音色も淡白な印象なのですが、アンサンブルでは重宝する音になります。

092 ボイスパッド

092 000 SpaceVoice (1 voice) 音域 C2-C7

SFやホラーに似合いそうなコーラス・パッドです。アナログシンセでもFM音源でも作るのが難しい音色で、LA音源以降のPCMならではの特徴が生かされています。

092 001 Itopia (2 voices) 音域 C2-C7

UtopiaならぬItopiaです。現実とは違う理想郷のイメージでしょうか。 Choir Aahs等の聖歌隊的なコーラスには、元々神聖なイメージがあります。そこにエアリード系の音がプラスされることで、不自然になりすぎない範囲で、空想世界が強調されたように感じます。

093 000 BowedGlass (2 voices) 音域 C2-C7

名称からもグラスハープあたりをイメージしていると思われます。やわらかい音ですが、透明感のある金属的な響きも感じます。 音作りとしては、おそらくエレピを重ねて、さらに加工しています。TTSのパラメータで、アタックタイムを短くすると、コツコツというエレピ特有の音が聴こえてきます。

094 000 Metal Pad (2 voices) 音域 C2-C7

金属的なアタックと組み合わせた、ややスウィープしたパッドです。 おそらくピアノやギターあたりの音を加工していると思うのですが、元の音が分からなくなるぐらいのサウンドになっています。エンベロープをいじっていくと元の音が何なのかおおよそ分かってきますが、 低い音はチェロのような響きもあります。

095 000 Halo Pad (2 voices) 音域 C2-C7

2ボイスで、Choir AahsとSyn.Stirngs2あたりを使っていると思われます。 聖歌隊的なコーラスが入ると、何でも神聖なイメージになります。そこにSyn.Stirngs2がスウィープした人工的サウンドを加えることで、作りもの感が演出され、神聖なイメージは影を潜めます。

096 000 Sweep Pad (1 voice) 音域 C2-C7

名称の通り、強烈にスウィープした人工的なサウンドです。シンセなどでは、よくスウィープという言葉が出てきます。ギターでもスウィープピッキングと呼ばれている奏法があります。そもそもスウィープは箒で掃くような動作を意味しますが、そういう動きを連想させる変調された音のことをざっくりとスウィープと呼んでいます。アナログシンセが登場してからすぐに使われ始め、定番サウンドとなっています。エレクトリックギターなどでもエフェクターを使用すれば、それらしいサウンドは得られますが、シンセほどの自由度はありません。スウィープ系の音は、既存楽器では難しかったシンセならではの代表的なサウンドのひとつと言えるでしょう。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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HP https://achapi.cloudfree.jp

 
 
 

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