今更ながらGM音源を推してみようと思います。GM音源は1991年に登場し、DTM、ゲーム、カラオケなどに貢献しましたが、2000年に入ると、徐々に影が薄くなって行き、今ではすっかり忘れられた存在となってしまいました。それでもDAWなどを使う人にとっては、GM音源を知ることで、役立つことが多々ありますので、シリーズとして書いてみたいと思います。
今回はGM音源の概要となります。まずは、20年前のGM音源(TTS-1)を使ってクラシック、ジャズ、ロックのさわりだけをカバーしてみたので聞いてみて下さい。昔の音源と考えれば健闘していると思います。外部エフェクトは、リバーブと、歪んだギターにアンプシミュレータを使っています。
GM音源とは何か?
MIDI音源の互換性を重視して作られた規格がGeneral MIDIで、略してGMです。1991年に楽器メーカーが集まって策定されました。ロゴマークが付いた製品がGM準拠の音源となりますが、現在はロゴマークが見当たらない製品も多いです。GM音源はマルチティンバー音源で、ひとつの音源で16パートを同時に演奏出来るため、オーケストラなども、それらしく再現できます。そしてメロディ音色128個+ドラムキットと規格で決められているので、同じMIDIデータであれば、どのメーカーのGM音源でも同じように鳴らすことができます。実際には同じ楽器の音でもメーカーごとに違うため、全く同じにはなりませんが、それがまた楽しいところです。

GM音源は、実在する楽器を多く扱う性質上、実際の楽器を録音し、それを鍵盤に配置するサンプリング(PCM)が主流です。規格としては音声合成方式は自由なので、例えばFMを使ったGM音源を作ることも可能です。
SMF(Standard MIDI File)というMIDIデータのフォーマットがあり、GM音源で再生する場合に、よく使われます。SMFであれば、どのGM音源でも同じように再生できます。
1999年にGM音源を拡張したGM2が策定されました。初期のGM音源と区別するためにレベル1、レベル2という言い方もされます。GM2では音色が増え、エディットも出来るようになりましたが、圧縮オーディオフォーマットの台頭、記録媒体の低価格化などにより、ゲームのような再生用途では、あまり普及しませんでした。現在売られているハードウェアも初期のGMレベル1準拠が多いようです。
GM音源の系譜
元々はハードウェア音源として1991年に誕生しました。初期のGM音源として有名なのはRolandのSoundCanvasシリーズでしょう。

DTM用途として誕生しましたが、ゲーム用音源としても広く使われました。それまでパソコン用ゲームの多くは、パソコン内蔵のFM音源を利用していましたが、1990年代半からサウンドカード内蔵のGM音源へと切り替わっていきます。技術的にはE-MU社が開発したSoundFontが使われています。このころのゲームがオーディオデータを使わず、MIDIデータを使う理由はデータサイズにあります。メモリも記憶媒体も高価だったためデータは可能な限り小さくする必要がありました。

90年代後半にはGM音源のソフトウェア化が進みます。Windows98では標準でMicrosoft GS Wavetable SW SynthというRoland製GM互換音源が付属されました。これは長く維持され続け、Windows11でも健在です。ただ音質は最低限で、エフェクトもないため鑑賞するための音源とは言い難いです。音源本体は以下にあります。
C:\Windows\System32\drivers\gm.dls
現在、無料のDAWであるCakewalkには、DXiプラグインのTTS-1(2003年)というRoland製GM2音源が付属しています。このコラムは、動画を含めてTTS-1を使って音サンプルを作っています。20年程前の音源ですが、バランスがよく、使いやすいGM音源だと思います。

他のDAWでもSoundFontを利用すれば、無料でGM音源を利用することが可能です。E-MU社が開発したSoundFont規格については、またの機会に紹介したいと思います。

現在入手できるGM音源の有料プラグインはRoland CloudのSOUND Canvas VA(VST/AU/AAX)があります。Rolandの歴代SCシリーズを再現しているようです。

ハードウェアでは、電子ピアノ、ワークステーション型キーボードなどには、現在でもGM音源が搭載されているモデルがあります。いずれもGM音源であることは、説明書を見て、ようやく確認できる程度で、完全にオマケ扱いになっています。GM音源をアピールする時代は完全に終わっています。

現状のGM音源搭載楽器を調べてみると、ドイツのMiditech社が昔ながらのGM音源搭載ミニキーボードやGM音源モジュールを販売していました。

おそらく音源チップはフランスのDream社のSAM2695(GM音源レベル1)が使われていると思います。このチップはアナログ音声入力も備えているので、カラオケ的な用途でも利用できそうです。

そして90年代から変わらず、カラオケ機材に使われ続けています。実際にはGM音源を拡張した専用音源となっていますがGM音源という括りでも大きな間違いはないと思います。 カラオケで重宝するのはキー変更だったり、曲データが小さいため通信で送るのに有利という点です。現在は演算処理能力が上がったため、オーディオデータでもリアルタイムにピッチ変更ができます。また通信速度が上がったためデータ容量問題もなくなっています。 それでもGM音源を中心に制作されていて、部分的にオーディオデータと組み合わせてリッチな音を作っています。制作コスト、制作スピードの点でGM音源ベースは何かと手軽のようです。
現在の音楽制作でGM音源は必要?
上記のような系譜でGM音源が普及し、そして衰退していきました。現在においては、容量を小さくする必要性も薄れ、GM音源ならではの機能も特別ではなくなりました。少なくとも鑑賞目的ではGM音源の必要性はないようです。
しかし楽曲を制作する側からすると、GM音源にはまだまだ魅力があります。特に初心者はGM音源から入ると下記のようなメリットがあります。
多くのジャンルをGM音源1つでカバーできる
GM音源には各ジャンルの主要楽器の音色が揃っています。また16パートの同時演奏ができるので、オーケストラなども再現できます。またアンサンブル重視で音が作りこまれているのでバランスを取りやすいというメリットもあります。楽器数の少ないアンサンブルだと、1音色の表現力不足が目立ち始めますが、それでも、ある程度は技術でフォローできます。ひとつひとつの音のクオリティよりも、すぐにアンサンブルを作れるところがGM音源の良さなので、スケッチ用途では、とても便利といえます。
GM音源で楽器と音楽を広く浅く学ぶ
MIDI鍵盤を押してGM音源を鳴らすだけでは、各音色の理解は深まりません。その音色のオリジナル楽器を知る必要があります。楽器の構造、演奏方法、音域、どのようなジャンルで、どう使うかを知っていれば、適切な表現が可能になり、音源の能力を引き出すことができます。逆に素晴らしい音のする音源を持っていても、使い手の知識が不足していては、本領を発揮できません。ある程度以上のクオリティの音源であれば、使い手次第で化けることがよくあります。
GM音源はレベル1でも128音色+ドラムキットと、膨大な量の音色があるように思えてしまいますが、実際は、よく使われる楽器だけ集めた最小限のセットです。このセットを一通り理解すれば、手っ取り早く各ジャンルの主要楽器を学ぶことができます。またGM音源は細かな調整ができないため、音を作りこむことはできません。これはデメリットというよりも、短時間で、広く浅く学ぶにはメリットにはたらきます。
マルチプレイヤーになれる
DAWを使う人の多くは、特定の楽器を演奏しますが、それ以外の楽器は、あまり知らない傾向にあります。作曲やアレンジをする場合、それでは通用しないので、昔はマルチプレイヤーになる必要がありました。GM音源の出現で、随分敷居が下がったと思いましたが、いつの間にかGM音源も忘れられています。DAWによって楽曲制作が手軽になった現在だからこそ、GM音源を使って、なんちゃってマルチプレイヤーになるメリットは大きいと思います。
いろいろな音色を持っているGM音源ですが、一つ一つの音色には歴史があり、文化があります。それを学びながら、GM音源を楽しむことは、とても有意義なことだと思います。
次回からはGM音源の各音色について解説します。
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