女川から電車を乗り継いで仙台空港に向かい、そこから神戸空港まで飛行機でひとっとび。そしてモノレールに乗り継いで三宮に向かい、JR神戸線に乗り換えて舞子駅まで到達すれば、高速舞子のバス停まで速足で階段を駆け上るだけで徳島行きのバスに乗れる。こうして宮城県女川から徳島までの旅が完結する。その夜、すべては分単位のスケジュールどおり順調に進み、あと一駅で舞子に到着するという手前の垂水駅のホームに電車が到着しようとした時のことだ。
午後9時50分ごろ、電車が急ブレーキで止まったのだ。もうホームには入ってきているし、ホームにいる旅客も目に見えるのだが、ドアが開かない。そしてしばらくの間、沈黙の時となる。次に降りる舞子駅の改札口が一番前方にあることから、最前列の車両に自分は座っていた。そしてなんで動かないんだろうと、首をかしげていたところ、車掌からアナウンスがあった。「お客様との接触があったため、今少々、お待ちください」という。接触があったとはどういうことだろうか。電車がホームに入ってきた際、鞄かなにかが触れてしまったのだろうか。何だかさっぱりわからない。5分ほどすると、繰り返し「接触があったため」という説明のアナウンスが流された。もしかして。。。
暫くすると、救急車のサイレンの音が鳴り響いてきた。そして救護隊の服装をした人が担架をもって大勢、ホームに集まってくるのが窓越しに見えた。ということはやはり人身事故?しかも自分は一番前の車両に乗っていたので、もしかするとこの車両がひいてしまったのかと考えていたその時、救護隊の方々が懐中電灯をもって車両とホームの間を照らして、「だいじょうぶですか!」と大声で叫んでいるのです。つまり、自分の真下にケガをしている人がいるのだ。おそらく電車が止まる直前に飛び込んでしまったのだろう。
突然、車両検査という名目で、車中の電灯も消されてしまった。人身事故ならそんなに早く電車が動くことはないはずなので、早く脱出しないと徳島行の最終バスに間に合わない。徳島行の最終バスは高速舞子を夜11時発だ。だんだんと焦りがつのってきた。そして午後10時半を過ぎたころ、事故から40分もたったあと、遂にアナウンスがあった。「車両を持ち上げるので、最後部の車両からみなさん降りてください」と。なんと、やはり、降りることになったのだ。
それから慌てて垂水駅周辺の宿泊施設を調べてみると、まったく無し。そんな大きな駅ではないのだ。これはまじで野宿覚悟だ。タクシーをと考えても、車が乗り入れるような駅でもなく、人が歩いているだけの小さい駅だ。そして駅の改札口を出た時、時計を見ると既に午後10時40分。「あ、、もうだめだ。。。」と、思ったその瞬間、思いがけぬ光景が目に入ってきた!
垂水駅からなんと、明石海峡大橋が大きく見えるのだ。どう見ても1㎞少々先に思えた。そしてグーグルマップで見ると、ちょうど2㎞。「おい、走っていけば、間に合わない距離ではない!」、「2㎞ならいける」、と思い、駅員に舞子までの道はわかりやすいですか、と聞くと、だいたい一本道ですよ、と言われ、「絶対にあきらめない!」と奮い立ち、キャリーバックを引きずりながら、一目散に走り始めたのだ。汗だくは覚悟、絶体絶命の大ピンチ。が、止まったら間に合わない。とにかくひたすら全速力で明石海峡大橋まで走るぞ!マラソン時代のトレーニングを彷彿させる過酷な試練にチャレンジ!
しかしキャリーバッグを引きずりながらではスピードが出ない。しかも私服だ。「やっぱり無理か、もう10分もないぞ。。。」と寂しい夜の県道を汗だくで走り続けていた、ちょうどその時、天の恵みだろうか。遠くから赤い点が目に入った。何と、タクシーの空車が向かってくるではないか。大きく手を振ると、ありがたいことに止まってくれた。「急いで舞子駅まで!」とお願いしたところ、するりとUターンして飛ばしてくださり、何と、バスの出発時刻ぎりぎりに間に合ったのだ。絶対にあきらめない、最後まであきらめない!という思いが、徳島行の最終バスに乗る、という夢を実現させたのだ。
そこから先も簡単ではなかった。なぜなら、車は徳島空港に止めてあり、空港近くの国道沿い、松茂の「とくとくターミナル」でバスから降りなければならないからだ。到着は夜半を過ぎることからタクシーもない。そこで最後のチャレンジ!松茂バスターミナルから真夜中、徳島空港まで走ることにしたのだ。しかもキャリーバッグは邪魔。これじゃ早く走れない、ということで、バスの中でランニングウェアに着替え、鞄の中に服をぎゅうぎゅうに詰め込んだ。そしてバスから降りると、生い茂る樹木を探し、その中に鞄を突っ込む!「よし、全速力で徳島空港へ!」と、真夜中の空港街道をマラソン!途中、所どころ真っ暗で足元が見えず、転ぶのが怖かったものの、なんのその。とにかく早く車をゲットしたく、ノンストップで走り続けた。
この夢話のような実話はハッピー・エンディングで終わる!無事に車を空港で見つけ、その後、叢から鞄を見つけて、何とか徳島駅まで夜の1時に辿り着き、それまで待っていてくださったホテルにチェックインすることができたのだ。旅の達人とは、いかなる時でも、どんな危機的な状況でも、決してあきらめることなく、ひたすら開路を見出すために全力を尽くし続ける、ということを改めて実感した、大切なひと時となった。

明石海峡大橋の夜景