ジャズミュージシャンがカバーしたボサノバの名曲
前回に続き、夏必聴!のボサノバ名盤、名曲を作曲家や演奏家などから検証するボサノバクロニクル、パートⅤです。 今回のテーマはこれまでにご紹介したボサノバの重要盤の楽曲をカバーしているミュージシャンとアルバム、楽曲を取り上げます。
■ ボサノバの重要盤:『ジョアン・ジルベルトの伝説』より「シェガ・ジ・サウダージ」(1959年)

ボサノバクロニクル、パートⅠで紹介したジョアン・ジルベルトの重要曲であり、ボサノバの永遠の名曲です。
私はかねてからカバーものでオリジナルを超えるものは無いという持論を持っています。何故ならばカバーのエネルギーがオリジナルを生み出すエネルギーを上回ることが稀有である考えているからです。
実際に名曲、ヒット曲などのカバー曲でオリジナルよりも出来栄えのいい作品に出会ったことが殆ど無い…というのが正直なところです。
しかし、イリアーヌが歌う「シェガ・ジ・サウダージ」を聴いた時、目から鱗が落ちました。
■ 推薦アルバム:イリアーヌ・イリアス『スリー・アメリカズ』(1997年)

推薦カバー曲:「シェガ・ジ・サウダージ」オリジナルを超える白眉なカバー
イリアーヌの10枚目のソロアルバム。
イリアーヌは1980年にエディ・ゴメス率いる先進的ジャズグループ、ステップス・アヘッドに参加したブラジル人ピアニスト。ブレッカー・ブラザースの兄、ランディ・ブレッカーと結婚し、離婚。現在はファーストコールベーシスト、マーク・ジョンソンの妻。
イリアーヌが歌う「シェガ・ジ・サウダージ」はギタリト、オスカー・カストロ・ネビスとのデュオトラック。くぐもった奥行のあるイリアーヌのボーカルとオスカーのギターはベスト・マッチングと断言できる。この楽曲の持つ「サウダージ」を見事に具現化している。
私は焼津市文化センターでイリアーヌのライブを聴きました。ベーシストは現夫のマーク・ジョンソン。「シェガ・ジ・サウダージ」もプレイしました。
「スリー・アメリカズ」のイリアーヌのボーカルやアルバムジャケットから想像するに、イリアーヌは小柄で儚なげなイメージでした。なにせ、私の一番好きな「シェガ・ジ・サウダージ」を歌っている女性です。
しかし、ステージ袖から現れた女性を見て目を疑いました。身長180センチ以上?体重80キロ以上?の相当大柄(失礼!)な女性でした…。「アルバムジャケット」とは大違いでした!(笑)
私の淡い恋心に似たイメージは崩壊しましたが、イリアーヌのピアノプレイは圧巻。 とてもパワフルだったことを追記しておきます。
■ ボサノバの超名盤:『ゲッツ/ジルベルト』より「イパネマの娘」(1964年)

■ 推薦アルバム:リー・リトナー『ツイスト・オブ・ジョビン』 (1997年)

リー・リトナーのツイストシリーズ第一弾。
リー・リトナーはツイスト(ひねる)シリーズとしてボブ・マーリーやモータウンなどをテーマに「ツイスト・オブ・マーリー」や「ツイスト・オブ・モータウン」などをリースしている。リトナーのカバーものでは、このアルバム「ツイスト・オブ・ジョビン」があらゆる意味でベストといえる。ジョビンの楽曲にスポットがあてられ、「おいしい水」「ラメント」「3月の雨」「ストーン・フラワー」「ジンジ」などボサノバの重要曲が並ぶ。
参加しているミュージシャンの顔ぶれ、演奏曲、演奏内容など、全てにおいて質の高いアルバムになっている。プレイヤーの演奏力が、このアルバムの奥行を深めている。
推薦カバー曲:「イパネマの娘[feat. オリータ・アダムス & アル・ジャロウ]」
数多の「イパネマの娘」の中で、このバージョンを選択したのはオリジナル曲を尊重し、そのムードを壊していないオリータ・アダムスとアル・ジャロウの楽曲解釈の良さだ。
冒頭のスキャットはジョアン・ジルベルトのそれをサンプリングしたもので、楽曲へのリスペクトも伺える。
生ピアノをプレイするのはイエロージャケッツのピアニスト、ラッセル・フェランテ。
ラッセルのピアノソロも楽曲のイメージを壊すことなく、儚げで美しい。「イパネマの娘」のソロの中では上位の出来栄えだと思う。
「イパネマの娘」のアドリブソロでサビ部分までのソロは多くありません。多分、ものになりにくいのだと思います。あったとしてもあまり感心するソロではないのです。そういう意味でオリジナルのスタン・ゲッツのソロは秀逸です。
私のバンドでも「イパネマの娘」はレパートリーの1つですが、サビ部分のソロは取って付けた様な、よく分からない形になってしまいます。ソロの流れとメロディ作りが難しいのです。どなたか妙案がありましたら教えてください。
ラッセル・フェランテの弾く、サビ部分のソロを聴きたかった!と考えるのは私だけでないと思いますが…(笑)。
■ 推薦アルバム:アストラット・ジルベルト『おいしい水』より「おいしい水」(1965年)

独特なジョビンメロディが印象的なこの曲も多くのミュージシャン達にカバーされている。 一度聴いたら忘れないメロディ。オリジナルアルバムを超える演奏を見つけるのは至難の業です。
■ 推薦アルバム:トニーニョ・オルタ『ジョビンへの手紙』 (1999年)

ブラジル人ギタリスト、トニーニョ・オルタの13枚目のアルバム。「シェガ・ジ・サウダージ」「メディテーション」「ディサフナード」など、アントニオ・カルロス・ジョビンの重要曲とトニーニョのオリジナル曲で構成されている。
推薦カバー曲:「おいしい水」
ラテンサルサ調のイントロからAメロでトニーニョ・オルタのギターがメロディをとり、Bメロではトニーニョがスキャットで歌う。サビでギターとスキャットというシンプルな構成。
ピアニストはマンハッタン・トランスファーやランディ・ブレッカー、ボブ・バーグらと共演歴のある名手、デイブ・キコウスキー。キコウスキーのピアノソロはジャジーでテクニカル。それを受けてのトニーニョのアドリブもかなりジャジーに…。アドリブの掛合いで異常な盛り上がりをみせるアウトロ部分はかなりの聴きごたえあり!
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤
- アーティスト:イリアーヌ・イリアス、リー・リトナー、オリータ・アダムス、アル・ジャロウ、トニーニョ・オルタ
- アルバム:「スリー・アメリカズ」「ツイト・オブ・ジョビン」「ジョビンへの手紙」
- 曲名:「シェガ・ジ・サウダージ」「イパネマの娘」「おいしい水」
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