幼い頃、よく核戦争の夢を見た。第2次世界大戦の直後から世界は冷戦状態に突入し、ソビエト連邦(旧ロシア)とアメリカがいつ、核戦争をおこしてもおかしくないほどの危機に直面していた。そのような社会政治情勢の最中、子供たちが観る映画は戦争ものばかり。中でも「猿の惑星」は有名だ。核戦争によって人類が滅亡し、地球が猿にのっとられているというストーリーはあまりに過激だが、大変リアルに映画化されたことから大ヒット作となった。そんな映画やテレビ番組ばかり観ていたこともあり、核爆弾が投下され、家の中に隠れる夢を何度も見た。今、それが現実になろうとしているのだろうか。
1960年代、その冷戦の時代を象徴したのがベトナム戦争だ。連日、アメリカ空軍が北ベトナムを爆撃し、ベトナムの共産化に対して徹底的な抗戦をしかけた。アメリカの若者が大勢徴兵され、命を落とすことになる。その結果、アメリカを筆頭に先進国では反戦運動が巻き起こった。戦争に反対し、抗議をする若者たちのデモは日増しにエスカレートし、徐々に紛争と化して、社会全体が大混乱の坩堝にはまってしまった。そして日本もその影響をまぬがれることはなかった。学生運動は暴徒化し、東大の安田講堂占拠や全学連の暴徒化には、誰しもが驚き、日本の将来に不安を感じたことだろう。
その学生運動と並行して平和の大切さを訴えたのが、多くのミュージシャンだ。反戦運動家のリーダーとして歌い続けたアメリカのジョーン・バエズ、ボブ・ディランはあまりにも有名だ。その後、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングや、サイモン&ガーファンクルが登場し、ヒット曲を次々とリリースした。イギリスではビートルズやローリング・ストーンズらが、反戦歌に参加することとなる。すごい面々だ。歴史を振り返ると、戦時下においては必ずミュージシャンが立ち上がり、平和の大切さを訴えるために歌い続けてきた。
それから半世紀の間、世界ではおよそ平和な時代が訪れ、特に日本では戦死者が一人もないという、かつてない平和な日々を過ごしてきた。その平和神話が今、崩れ去ろうとしている。ロシアによるウクライナ侵攻は留まる所を知らず、いつ、戦略核兵器が使われてもおかしくない最悪の状況に陥っている。先進国と一致団結してロシアの侵攻に異議を唱え、経済制裁に踏み込んだ日本も、もはや敵国とみなされているが故に、ロシアの攻撃対象になっているに違いない。あげくの果ては、ロシアと結託している中国が、虎視眈々と台湾への侵攻をめぐり、その機会を窺っている。平和な時代は終焉を遂げたのだ。
世界が核戦争と一般市民の大量虐殺という危機に直面している時、日本人、特に今の若者は何を考えているのだろうか。作詞作曲家、シンガーソングライターは何を思いめぐらしながら、歌を創作しているのだろうか。ヒットしたい、有名になりたい、という思いから、ひたすら若者の恋心、失恋、男と女の情事に関するありきたりの歌ばかりが世間を賑わしてないだろうか。そして猿真似といわんばかりに、みんなが同じ踊りをしながら、恋心を唄う。。。それは決して悪いことではない。しかし、平和な時代はもはや、終焉しているのだ。今こそ、日本のミュージシャンは立ち上がり、世界の平和を訴えつつ、子供たちが未来に希望をもてるような歌を、世間に紹介する時ではないだろうか。
そんなミュージシャンを何とかして応援したい。そのためにサウンドハウスができることがあれば、何でもしたい、というのが創業者の願いだ。果たして、そんな思いがそもそも、社員に通じるかどうかさえわからないことが、もどかしいこの頃である。
