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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~夏に聴くべき定番音楽!ボサノバクロニクルパートⅣ~ その87

2022-08-13

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

ボサノバを世界に広げた歌姫、アストラッド・ジルベルト

前回に続き、夏必聴!のボサノバ名盤、名曲を作曲家や演奏家などから検証するパートⅣです。
今回のメインテーマはボサノバの歌姫、アストラッド・ジルベルトです。
アストラッドはパートⅠでも書きましたが、「ボサノバの法王」ジョアン・ジルベルトの奥様(後に離婚)です。
アストラッド・ジルベルトは1964年リリースのボサノバの歴史的名盤、「ゲッツ/ジルベルト」でスタン・ゲッツ(Ts)とジョアン・ジルベルト(G&Vo)、アントニト・カルロス・ジョビン(P)らと共演をし、その名を世界に広げました。このアルバムでアストラッドが歌ったのは「イパネマの娘」と「コルコバート」の2曲でした。

■ ボサノバディーバのファーストアルバム:アストラッド・ジルベルト『おいしい水』(1965年)

アストラッド・ジルベルト24歳のファーストアルバム。「ゲッツ/ジルベルト」の翌年 にリリースされた歴史的名盤。アントニオ・カルロス・ジョビンがギターで参加。
ブラジル人ピアニスト、ジョアン・ドナードも花を添え、プロデューサーが「ゲッツ /ジルベルト」のクリード・テイラーと役者は揃っている。 アルバムはアストラッドの清涼感溢れる歌唱に魅了される。
「ワンス・アイ・ラブド」「おいしい水」「メディテーション」「ハウ・インセンシティブ」「ジンジ」「ドリーマー」など、ボサノバの重要曲が網羅されている。

上記の楽曲の全てがアントニオ・カルロス・ジョビンだというのも驚愕すべき事実で、当時のジョビンがどれだけ冴えていたかを知ることができる。

アストラッドの歌唱は歌い上げるようなベタベタしたものではなく、どちらかと言え ば、そっけない印象を受ける。特に歌が上手い歌手ではない。その歌声はサラっとし ていて湿度感が無く、ボサノバというジャンルにフィットしている。

光るプロデューサー戦略!若い美女の英語歌唱と演奏者アサイン

アストラッド・ジルベルトが名を馳せた理由はマーケット大国アメリカでボサノバを 英語で歌ったこと。
ボサノバの女性歌手はエリス・レジーナ、ナラ・レオン、ホーザ・パッソスなど多くのディーバが存在する。彼女達はポルトガル語でボサノバを歌う。ボサノバを自国語で歌うのは当然のことだ。しかし、ポルトガル語だけで歌ってもボサノバはローカルソングの域を出ない。
アメリカでアストラッドに火が付いた背景にはプロデューサーの戦略が見え隠れする。 プロデューサーは「ゲッツ/ジルベルト」を大ヒットさせたクリード・テイラー。
クリードはブラジルで生まれたボサノバには普遍性があり、大衆にウケることを理解 していた。ローカル音楽であるボサノバを世界へ広げるには、ポルトガル語ではなく英語で歌うことが重要だった。

アメリカのマーケットには「売れてなんぼ」という商業主義が付いて回る。プロデ ューサーであるクリード・テイラーは「売るための手段」に長けていた。
当時、ジャズ界のスターであったスタン・ゲッツを看板にし、ジョアン・ジルベルトとアントニオ・カルロス・ジョビンを邂逅させた。「ゲッツ/ジルベルト」の演出だ。

アストラッド・ジルベルトのファーストアルバムでは「ゲッツ/ジルベルト」でピアノ を弾いたアントニオ・カルロス・ジョビンにギターを弾かせ、リオのファーストコールピアニスト、ジョアン・ドナードを充てるなど、プロデューサーワークが光る。

また、「ゲッツ/ジルベルト」で用いた女性シンガーに英語で歌わせる手法は、このアストラッドのファーストアルバムでも貫かれている。

推薦曲:「ワンス・アイ・ラブド」

イントロ無しでワンス・アイ・ラブド~とアストラッドの歌声が聴こえた刹那、リオデジャネイロからの涼風が吹いてきます。 アルバムのオープニングとして最適なジョビンの名曲。清涼感漂う低湿度なアストラッドの声質はボサノバを歌うために生まれてきたと思わずにはいられない。
ジョアン・ドナードによるピアノのフィルインがジョビンメロディの輪郭を際立たせていく様が絶妙。

推薦曲:「おいしい水」

この「おいしい水」を聴いたことの無い人は世の中にいないのではないかという程の周知されたジョビンの超名曲。  アストラッドとジョビンの印象的スキャットにジョアン・ドナードの生ピアノが重なる時、この曲がエバーグリーンな光を放つ。
その後にくるAメロもサビも素晴らしいメロディライン。2分20秒程の短い楽曲に世界が魅了された。
 アメリカのジャズミュージシャン達もこの曲の虜になり、多くの名演が生まれている。 

推薦曲:「ハウ・インセンシティブ(お馬鹿さん)」

憂いを含んだマーティー・ペイチのストリングスから幕が開けるジョビンの名曲。 哀愁(サウダージ)タップリの湿ったメロディなのに湿度を感じない。
美しく印象的なメロディはジョビンの真骨頂だ。メロディモチーフの音の高さを変え、九十九(つづら)の様に重ねる曲作りはジョビンお得意の手法。
メロディの変化はコード進行にも反映され、演奏するジャズ・ミュージシャン達の心に火を付けたのではないかと想像する。この曲はパット・メセニーグループも取上げるなど、多くのカバーを生んでいる。

ボサノバ・クロニクルの次回、パートⅤはジョビンの重要曲をジャズミュージシャン達がプレイしたアルバムと楽曲を取り上げます。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:アストラッド・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョアン・ドナード
  • アルバム:「おいしい水」
  • 曲名:「ワンス・アイ・ラブド」「おいしい水」「ハウ・インセンシティブ」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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