音響製品の仕様に関して、ぱっと仕様書を見て、取扱説明書を一読しただけで「あっ、なるほど」とすぐ理解できるあなたは、素晴らしいプロ領域の方でしょう。
正直いって、難解な専門用語が出てきたりすると、何だろうこれはと、その専門用語の説明を調べていくと、さらに分からない用語がでてきてと、「?」スパイラルに巻き込まれることがあります。
仕様書、取扱説明書は敢えて、フラットに誰が読んでも、平等な理解が得られるように作成される場合が大半です。
ですから、時に分かりにくく、説明不足と感じられる場面が多くあるでしょう。
イメージしやすくできないかを念頭に、分かりにくい部分を明瞭にし、この記事では、少しでも製品のことを理解いただき、さらに製品の使い勝手が良くなればと思い一筆執りました。
今回はこちら「CLASSIC PRO CPXシリーズ」をテーマに書いていきます。

CPXシリーズは、今やCLASSIC PROのステレオ(2CH)パワーアンプの定番機種となり、出力W数に応じて5種類の機種が選べるようになっており、様々な場面に合わせて、活用が見込めます。
中でも今回フォーカスしたいのは、時々ご質問いただくことがある機能。
「入力SENSITIVITY(入力感度)」についてです。
というのも、他の機能は商品ページを見るとだいたい分かると思います。
ただこの部分は、説明書でも十分理解できるかなという内容で、少し深堀できればと思います。
まずは、説明書の文書を見てみましょう。
以下のような内容です。
「感度切替スイッチ 0.775V、1.4V で入力感度の切り替えをします。」
どうでしょう。
PAに精通されている方、音響が得意な方は、何を言っているかピンとくるかと思います。
反対にこれからPAを頑張ろうという方にとっては、突然「0.775V」とかこんなに中途半端な数値出されて、何?と思う方もいらっしゃるかと思います。
一般的に業務用オーディオ機器では、「0.775Vrms」=「0dBu」と定義されています。
ここの詳しい説明は今回割愛しますが、そう定義されているものだと思っていただければ。
そして「1.4Vrms」は「0.775Vrms」の約2倍(電圧)の数値だということを頭に思い浮かべてください。ちなみにdBで表すと、「1.4Vrms」=「(約)+6dBu」となります。
(このあたりdB換算に関しては、dB換算表等を参考にして頂ければ、少しイメージがつきやすいかと思います。)

ここまでで分かったことは「0.775V」と「1.4V」の違いは、入力感度が1.4Vの方が2倍程大きく、業務用LINE入力(+4dBu)に対応しているということです。
つまり、端的に言ってしまうと、業務用LINE入力より低い入力信号であれば、「0.775V」の設定で良いということになります。
入力信号の大きさに合わせて、感度を切り替えることで、歪みを抑えたり、本来のアンプの出力性能を引き出すことができるということです。
さらに深堀していきます。
YAMAHA公式のFAQページでは、入力感度に関して、以下のような説明があります。
【パワーアンプ共通】入力感度とは何でしょうか?
アッテネーター最大時(通常0dB)に定格出力が得られる入力信号レベルです。また、アッテネーター最大時にこの数値よりも大きな信号が入力されると出力がクリップするレベルでもあります。引用サイト:https://yamaha.custhelp.com/app/answers/detail/a_id/6919
アッテネーターとは、アンプのフロント部分に付いているツマミです。
ボリュームのような機能ですね。
「アッテネーター最大時」=「ボリューム最大時」という風に考えると分かりやすくなるかと思います。要はツマミをフルアップした状態が、アッテネーター最大時です。
フルアップ時に、設定した入力感度の信号を入れると、そのアンプの定格出力が得られ、なお且つCLIPが点灯する、そういう仕様ということです。
今回「CPX600」を使用して、この部分について実証検証を行いましたので、その様子を併せてご覧いただきたいと思います。
まずはSENSITIVITYの設定、0.775Vの場合を見ていきます。
今回は分かりやすくするため、CH1で0.775Vの設定、CH2で1.4Vの設定としてその時のCPX600の挙動を見ていきます。
SENSITIVITYを0.775Vへ設定しました。 ↓

次に、CH1のINPUTへ入れる入力信号を調整します。
今回はファンクションジェネレーターを使用し、安定したレベルの信号入力を行うため、正弦波1kHzを入力していきます。 ↓

念のため、ジェネレーターの信号が適切なレベルであるかを、テスターのAC計測で実測します。 ↓

おっと忘れてはいけません。
CPX600のOUTPUT1側に、8Ωのダミーロードを接続しておきます。
スピーカーですと、かなり爆音になってしまいますので、こういった場合はダミーロードを使用します。
今回以下のダミーロードを用意しました。 ↓

ではさっそく実験していきます。
ここまで内容を今一度整理しますと、CPX600には「0.775Vの入力信号」を入れて、「出力に8Ωの負荷」がかかっている状態です。
フロントのボリューム(アッテネーター)を少しずつ上げていきます。
仕様通りにいくと、アッテネーター最大時にCLIPが点灯します。
「0の状態」

「12時方向」

「15時方向」

「FULLアップ」

FULLアップ時にCLIPが点灯しました。
この時のダミーロードの先端にかかる出力波形をオシロスコープで測定すると 40V (RMS) 付近を示しています。さらに、正弦波の山部分が少しギザギザと形が崩れかかっています。

CPX600の仕様上、定格出力は8Ω/ステレオで
■ステレオ出力(8ohms):200W x2
実測では、40V付近で定格出力なので
40(V)×40(V)÷8(Ω)=200(W)
「200W」、仕様の通り定格200Wの出力が得られています。
1.4Vに設定した場合も、見ていきましょう。
※同じことの繰り返しなので、ところどころ省いていきますが、ご容赦ください。
1.4V SENSITIVITYを設定

1.4Vの入力信号を準備します。

今回はCH2へ入力、CH2OUTPUTへ8Ωのダミーロードを繋ぎます。
その状態で、ボリューム(アッテネーター)を上げていきます。
「0の状態」

「12時方向」

「15時方向」

「FULLアップ状態」

FULLアップでCLIPが点灯しました。
出力波形測定に関しても、0.775Vのときと同様なので、ここでは割愛します。
このように、パワーアンプ入力感度の設定とは、
「入力信号レベルに合わせた、アンプの本来の実力を発揮できるようにセッティング」
するものであり、実は重要な要素の一つであることが分かりました。
パワーアンプによって、この感度設定の部分は表記が違ったり、セッティングできる幅が違ったりします。
もしお手元のアンプにそのような機能があったならば、一度見直していただくと良いかもしれません。