今回は具体的な例を使って、解説していきます。
ウェットにトランジェント調整

ウェットに対してローパスフィルターをかけるのは普通ですが、MFM2ではさらにトランジェントの調整が可能です。 籠らせずに、アタックだけを削るということができるので、音色によっては使い勝手の良い、他ディレイではあまり見かけない機能です。 下サンプルはアタックのきつい音で、フィルターなし、ローパスフィルター、トランジェント-100、トランジェント+50の違いを比較しています。ウェットの違いを聞き比べてみてください。 トランジェント成分だけのウェットを打楽器に使うと、聞いたことのない効果が得られると思います。
ダッキング
常時ディレイが鳴っていると、うるさいと感じる場合に有効な方法です。 ドライが鳴っている間は、ウェットを小さくし、ドライが鳴らなくなったら、ウェットが通常音量に戻ります。 MFM2ではコンプレッサーのサイドチャンネル(Source)を使うことで、ドライの音量に応じてウェットを圧縮します。

ドライとウェットを別チャンネルに分けたときの波形は下のようになっています。 ドライが鳴りやむと、ウェットのディレイが復活する感じになります。

バウンシング・ボール&ピンポン・ディレイ
MFM2でボールがバウンドしたようなイメージで、ディレイの間隔が時間経過と共に狭くなって行く設定にしています。下記のカーブを使ってディレイタイム等をコントロールできます。 多くのディレイでは実現出来ないと思います。 またよくあるピンポンディレイも兼ねてみました。これはディレイごとに左右を飛び交う設定です。

次の例はアタックの強い金属的な1音を入れています。その後の音は全てウェットです。
グラニュラー
一般的に言われているグラニュラーというよりは、ピッチシフトのためにグラニュラーを利用したようなFXです。 リバース再生もでき、通常のディレイでは出来ない複雑な振る舞いも可能です。 また粒のサイズを絶対時間だけでなく、ホストテンポに合わせることも出来ます。

ここでは、音を粒に分けて拡散したような使い方をしてみました。 はじめにドライのみ、次にMFM2を通した音です。ウェットがバラバラに砕け散るような音になっています。
フィルターにレゾナンス
フィルターにレゾナンスがあるというのは珍しいと思います。 癖のある主張したウェットを作り出せます。 サンプルはディレイラインのフィードバック部にフィルターを配置してみました。 1拍目がピアノ風の音、2拍目がディレイの音でシンセのような音に加工しています。 その繰り返しとなっていて、アコースティックと電子音の対比をイメージしています。

MIDI入力に反応するディレイ
MFM2ならではの機能で、多くのディレイにはないと思われます。 主にシンセなどMIDI入力を使った場合に有効で、鍵盤のON/OFFで振る舞いを変えられます。 サンプルではNote Onの間は無限にディレイがかかるようにして、Note Offでディレイタイムを変えて減衰していきます。
モジュレーター(コーラス、フランジャー)
高機能ディレイにはよくある機能で、ディレイの発展形であることがよく分かります。 MFM2では各要素をバラバラに扱えるので、設計することが出来ます。 ただ原理を知っている必要があります。 内部的にはLFOという低周波の発振器を使ってディレイタイムを揺らすことでコーラスは実現できます。 フィードバックを加えるとフランジャーとなります。

下は自作モジュレーターを作成したときのブロック図ですが、このような回路をMFM2で組むことが出来ます。

サンプルはドライ、ウェットの順で、典型的なコーラスを組んでいます。 多重演奏的になり、左右の広がりも得られています。
リバーブとして使う
一般的なデジタルリバーブはディレイを組み合わせたものです。 複数のディレイラインを組み合わせることで、複雑な反響を作り出しています。

MFM2ではDiffusorというFXがあり、オールパスフィルタを応用したものになります。 効果としては反射音の拡散を調整することが出来、金属的な響きを和らげてくれます。 またフィードバックマトリックスにも古典的なデジタルリバーブのパターンが用意されています。 その定型的なサンプルです。
あえて金属的な響きを強調した特殊効果です。リバーブとは違った響きを作り出すことができます。
コムフィルターとして使う
一般的なディレイからすると変態的な機能かもしれません。 コムフィルターとは日本語で「くし形フィルター」と呼ばれ、極短いディレイを使って特定の周波数の共振を引き起こします。その周波数スペクトルが「櫛」のようなかたちから、そのように呼ばれています。 これによって音程のない音に、音程を付けられるようになります。 基本原理はディレイですが、音楽で扱う一般的なディレイとは、かけ離れた使い方となります。 MFM2には鍵盤もあり、MIDIで音程をコントロール出来るようになっていますが、なぜ?と思う人も多いのではないでしょうか。
下の波形はMFM2で、パルス波に対してコムフィルターをかけて、音程を作ったものです。 パルス波が、音程に応じてディレイされているのが確認できます。 オクターブ違いなので、間隔は2倍の関係になっています。

打楽器に音程を付けてみました。はじめのカウントのような音は素の音で、その後コムフィルターで音程をいじっています。
まとめ
簡単にMFM2の紹介をしてみましたが、一般的なディレイではなく、ディレイラインと、関連機能の詰め合わせプラグインだということが理解できたと思います。 ユーザーが設計して使う必要があるため、やや敷居は高いプラグインですが、その自由度の高さは他では味わえないものがあります。
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら