u-he TWANGSTROMは、プラグインとしても珍しいスプリングリバーブです。 スプリングは「ばね」を意味していて、文字通り「ばね」を使って残響を得ていました。 元々スプリングリバーブは小型軽量安価を重視した結果、品質を犠牲にして誕生したリバーブなので、時代と共に高品質なデジタルリバーブに置き換わって行きました。 しかしスプリングリバーブは通常のリバーブでは代用できない濃いキャラを持ち合わせているので、うまく用途開発できれば強力な手段になると思います。
まずはスプリングリバーブの雰囲気を聞いてみて下さい。 はじめドライ100%で徐々にスプリングリバーブを深くし、最後にはウェット100%になります。 通常のリバーブとは明らかに違った混沌とした金属的な残響があり、とても個性の強い濃い音です。
スプリングリバーブの歴史と構造
スプリングリバーブは電気楽器が開発され始めた1930年代頃に考案され、一般的に使われるようになったのは1950年以降です。 主にギターアンプやオルガン、シンセサイザー用のリバーブとして使われました。 当時リバーブと言えば巨大で重いプレートリバーブや残響室を意味し、手軽に持ち運べるリバーブはスプリングリバーブぐらいしかありませんでした。 スプリングによって残響は得られますが、それは代用品という扱いが強かったと思います。 しかし今では他に無い響きとして、再び注目される時期に来ているように思います。
ギターアンプ
現行ギターアンプの中には本物のスプリングリバーブが付いたものもあります。 ギターキャビネットの中には写真のようなスプリングリバーブ本体が取り付けられています。

Spring Reverb CC BY-SA 4.0, Wikipediaより引用
雰囲気だけ真似してみます。ピチャピチャした音と特定の周波数の共鳴があり、ばねが鳴っていることがあからさまです。残響装置としては欠点だらけですが、エレクトリックギターの特定のジャンルでは、楽器の音色の一部として定着していきました。
シンセサイザー、ハモンドオルガン
セミモジュラーシンセのARP2600とハモンドオルガン C3にもスプリングリバーブは内蔵されていました。
ARP2600にインスパイアされて開発されたのがu-he Bazilleで、スプリングリバーブのエミュレートも搭載されました。 そのBazilleから独立してスプリングリバーブ単体として登場したのが、このTWANGSTROMになります。
1970年代にハモンドオルガンC3を使った派手なパフォーマンスがキース・エマーソンやジョン・ロードらによって行われていました。 乱暴にオルガンを揺らすなどしてショックを与えることで、内蔵されたスプリングリバーブが衝撃音(悲鳴)を発しました。

Arp2600bluemarvin CC BY 3.0, Wikipediaより引用
Hammond c3 Public domain, Wikipediaより引用
スプリングリバーブに振動を与えながら雰囲気だけ真似してみます。 最初から何度も入る爆発音のような音が、強制的にスプリングを振動させた音です。 リバーブというよりは、ほとんど特殊効果音です。
スプリングリバーブの構造
構造は、名前通りのスプリングが数本張られています。 そこに音声信号を磁力に変換しスプリングを揺らします。 ダイナミックスピーカーの原理に近く、コーン紙がスプリングに置き換わったようにも見えます。 そして振動しているスプリングを再び電気信号に変換し、元の音にミックスします。 この原理から想像できると思いますが、スプリングを手で振動させれば、その音が出力されます。 つまり揺らしたり、衝撃を与えれば、そのまま音に変換されるということです。 音色は空間の自然な響きを追及した通常のリバーブに対して、いかにもスプリングが響いているという音色です。

物理モデリングのTWANGSTROM
リバーブの内部アルゴリズムは、ディレイの延長線上で作られたものか、インパルス応答を使ったコンボリューションが大半を占めます。 いずれも長所と短所があります。 ディレイ系は動作が軽い反面、リアリティが不足する傾向にあります。 コンボリューション系はリアリティはありますが、計算量の増大と動的に扱うのが難しいという短所があります。
そんな中、TWANGSTROMは物理モデリングを採用している時点でユニークなリバーブと言えます。 物理モデリングは、音が鳴る物理現象を数学的モデルにして構築して行く手法です。 スプリングの長さや、太さ、張力、組み合わせ等を計算し、そこに振動を与えることでリアルタイムに音を生成させることができます。 物理モデリングでは条件が一致することは稀で、常に違った振る舞いをし、リアルタイムに音が変化し続けます。これは本物の挙動に近く、特に複雑な振る舞いをする音に有効です。 欠点としては計算量の増大は明らかですが、優れたモデルを構築する必要があり、ここがしっかりしていないと、リアリティは望めません。 TWANGSTROMのコア・プログラミングはRepro、Satin、Presswerk、Colour Copy等も手掛けるSascha Eversmeierさんで、物理モデリングはアナログ技術と並んで得意なようです。
TWANGSTROMは、物理モデリングの優位性を利用して、音声信号ではなく強制的に物理振動を与えて音を出すこともできます。 プラグインなのでオートメーションで振動を与えます。 以下はその例ですが、同じ衝撃を与えても物理モデリングのため、積み重なった微妙な差から毎回振る舞いが異なります。リアルタイムに変化する音は物理モデリングの強みと言えます。
扱いやすいが奥が深いパラメータ
TWANGSTROMは、一見取っつきやすいUIですが、各パラメータはu-heらしく、挙動を掴むまで、それなりの知識と分析が必要です。 下はスプリングの種類と配置ですが、とても視覚的で実際の揺れも確認できます。 物理モデリングを生かして、リアルタイムにパラメータを操作するのもよいと思います。

スプリングリバーブの魅力
通常のリバーブは、基本的にナチュラルな空間の響きの再現を目指します。 しかしスプリングリバーブは積極的に音を加工する方向で使うことで、その強烈な個性が生きてきます。最後にスプリングリバーブらしい色付けをピアノとドラムで作ってみました。
ピアノ:金属的な不気味な雰囲気
スプリングリバーブの強烈なカラーを音色の一部として使っています。 ピアノ風の音ですが、スプリングリバーブによって重厚な金属的な響きを強調しています。 ナチュラルさなどは皆無で、デフォルメした絵のような音です。
ドラム:演出過剰
空間表現とかナチュラルなドラムサウンドは無視していますが、強力な着色にはスプリングリバーブは威力を発揮します。
TWANGSTROMの詳細は、個人のホームページで解説して行きたいと思います。
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