毎年1月にはNAMMショーという音楽祭が、アメリカのロサンジェルス郊外、アナハイムで開催される。アナハイムと言えば、ディズニーランドがある所でも有名だ。しかしコロナ禍の影響でこの2年間、NAMMショーは静まり返っていた。そしてついに2023年、NAMMのドアが再び開放された。そして今、アナハイムのNAMMショー会場真横にあるヒルトンホテルのロビーで夜の11時前、快適なロックバンドの生演奏を、大観衆と共にドでかい音で聴きながら、この原稿を書いている。正に夢のようなひと時だ。。。
と書き綴っているうちにバンドが交代し、何と今晩、最後の演奏を飾るのはVan Halenのコピーバンドだ!Van Halenは大学生の時代から一番好きなロックバンドだった。彼らがメジャーデビューする以前から、地元ロサンジェルスでは何度も見てきた。リードギタリストはエディー・ヴァンヘイレン。70年代に誰も見たことも聴いたこともないギターのタップ奏法を編み出し、自由自在にステージで弾きまくっていたギターの天才だ。何しろ、便器に座りながらもギターを弾いているという熱心な練習姿勢は良く知られており、とにかく彼のステージ演奏はいつ見ても、間違いひとつない完璧なパフォーマンスだった。
そんなエディーの演奏に惚れ込み、高校時代からバンド活動をしていた筆者は、USCという大学でビジネスを専攻しながらも、実はスタジオギター課に属し、リー・リトナーという著名ギタリストの恩師でもあるデュークミラー師について3年間、ギターを弾き続けていた。いつかロックスターになるのが、若き日の夢だった。あ、中学生の時までは、テニスのプロになるのが夢だったが、それがギターにとって代わったのだ。そして大学を卒業するやいなや、すぐにハリウッドに行き、77年に開校したばかりのG.I.T(Guitar Institute of Technology)に入学。1年間、ギターを弾きまくることになる。そしてロックスターの夢を持ち続けていた自分は、クラスメートのBILLと、彼の知人でCheap Trickという著名バンドのドラマーと一緒にバンドを組み、ハリウッドでデビューすることを目指した。
夢を持ち続けることは大事だ。が、よくもハリウッドまで足を運び、プロのロックスターを目指したものだと、今でも自分の行動を不思議に思うことがある。ところがそんなある日、自ら組んだバンドがハリウッドでデビューしようとしていた直前、何とバンドを辞めてしまい、突然のごとくギタリストの夢が終焉したのだ。人生はあきらめが肝心とも言うが、まさにそのとおり。どこかでふっきれて、「こりゃ、無理だ!」と自分に言い聞かせ、人生の方向転換を決断した。そしてアイビーリーグのビジネススクールに願書を出して、大学院に行くことを目指すことにしたのだ。もちろん入学できればの話なのだが、その道も険しかった。
当時、自分はまだ22歳。大学院でもビジネススクールでは入学時の平均年齢は26-7歳と言われていた。就職経験もなく、大学時代の成績もオールAとは程遠かった。。。普通では無理と考えてしまうが、ギターをやめるからには学業では成功しようと、必死に願書を書きまくった。おそらく、大学を3年で卒業してハリウッドでギターを弾いていたという異色の経歴を持つ日本人として評価されただろうか、歴代最年少で著名校に合格してしまった。夢はかなうものだ。これもギターのおかげかもしれない。
そうこうしているうちに、この熱いロサンジェルスNAMMショーの超ホットなライブ・コンサートも終わりを遂げようとしている。ふと、半世紀の自分の人生が走馬灯のように蘇る。そうなんだ、48年前にVan Halenと出会い、ギタリストとして自分の人生が変わり、行きつくところビジネススクールを卒業し、最終的に音楽の会社、サウンドハウスを創業することとなる。そして創業間もなく、Eddie Van Halenのエンドーサーとして名を馳せた米国最大の楽器メーカーPeavey社の代理店となり、自分がEddieのEVHギターと5150のギターアンプを販売する総責任者として、日本中のギタリストにEddieの手がかかった商品を提供した。この繋がりも、夢の延長線にしては、できすぎているのではないか。
そして今、夜のロサンジェルス郊外、アナハイムのホテルにて、立ち見しながらVan Halenのコピーバンドを思いっきり楽しみ、そして恥も外聞もなく、ノートパソコンを開きながら原稿を打ち込んでいる自分がいる。周りは聴衆で大混雑。歩く隙間もない。大勢が、歓声をあげながら、ロックコンサートの大音響を楽しんでいる。当然、自分も原稿を書きながら、のりのりだ。まあ、真横にはサウドハウスのスタッフ仲間もステージを見入っているので、自分がずっとパソコンを打っていたところを見て、きっとRickは、「やばい!」と思っているに違いない。それでもいい!ついに最後の曲になった。最後の一曲は楽しもう。ここでノートパソコンを閉じることにする。グッド・タイミングだ! 夢はこれからも続く!!
