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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その129 ~隠れたJポップ名盤特集パートⅡ 国内編~

2023-04-13

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

隠れたJポップ名盤特集パートⅡの主役は桑名晴子さん!

今回の隠れたJポップ名盤特集パートⅡは桑名晴子さんです。
桑名晴子さんは1978年にロサンゼルスやハワイで録音したアルバム、『ミリオンスターズ』でデビューした大阪市出身のボーカリストです。
兄は1979年に「セクシャル・バイオレットNO.1」を大ヒットさせた桑名正博さん。化粧品メーカーのキャンペーンソングとして注目を集めました。
桑名晴子さんは1986年にインディーズ独立し、ギターの弾き語りをメインにした独自のソロ活動を展開。伊勢神宮や東大寺、清水寺など神舎仏閣で世界平和を祈念した歌の奉納という特異な活動でも話題を集めました。
桑名さんのアルバムはどれもレベルが高いですが、メディアへの露出は桑名正博さんほどではなく、広く認知されるに至らなかったというのが当時の記憶です。東京ではなく関西を活動のベースにしていたという背景もあったのかもしれません。
私がこのアルバムに出会ったのは5年前。先輩からアルバムを借りたことから始まりました。それまで桑名晴子さんというミュージシャンは全くのノーマークでした。

隠れ名盤?とした桑名晴子さんのアルバムは…

数年前、私はJポップという音楽をほとんど聴いていませんでした。たまに山下達郎さんのピットインライブを聴く程度。先輩から借りたので「話のネタに…」と車内のCDプレイヤーに入れました。
しかし思いの外、なかなかいいのです。その理由は昔聴いた耳慣れた名曲のカバーだったことと演奏家の出す音の良さにありました。
その名曲は細野晴臣さん、山下達郎さん、ブレッド&バター、大滝詠一といった私の尊敬する大御所達の楽曲で、それらがアレンジの妙によって蘇ったという印象を持ったのです。
その主要人物が前回、鍵盤狂漂流記で紹介したギタリストの松下誠さんの存在でした。

■ 推薦アルバム:『ムーンライト・アイランド』/ 桑名晴子(1982年)

アルバムのミュージシャンは松下誠をはじめとする…
初めて聴く音楽は数回聴くと脳や体に記憶され、だんだん良くなっていくという人の生体反応があるといいます。このアルバムがある種、異色なのはJポップの名曲と言われる楽曲のカバーがアルバムの多くを占めていることです。耳慣れた名曲により私のハードルが下がっていたのは間違いありません。
しかし、それだけでなく、アルバム全体に漲る出音の良さや疾走感、卓越した演奏の上に乗っかる桑名晴子さんの歌唱も単なるカバーアルバムを超えたところに位置していました。
このアルバムに参加したミュージシャンはギタリストが松下誠さんと芳野藤丸さん。両者共、私が学生の頃聴いた大好きなギタリスト達です。リズムセクションは渡辺直樹さん(B)、岡本敦男さん(Dr)という、これまた大好きだったスペクトラムのリズムセクションです。
ギタリストとリズム隊を合わせた4人はAB'Sメンバーです。AB'Sも20代の初期にバンドでコピーをしていました。そういう意味ではバックのミュージシャンの音に反応したのは「脳と耳が覚えていた」という、いたって自然な事だと自身でも納得してしまいました。
そこに加わるのがKUWATA BANNDで名を馳せたキーボードの小島良喜さん。小島さんは井上陽水さんのバンドでは松下誠さん共演するなど、国内でも腕利きのキーボードプレイヤーです。井上陽水さんのバンドでは、ほとんどジャズというバッキングやソロでその腕を披露。
そんな腕利き達がこのアルバムの屋台骨を支えているとなれば悪いはずがありません。このアルバムを聴いていると松下誠さんのファーストアルバムの断片を多くの箇所で感じ取ることができます。
こんな素敵なアルバムがあったのなら当時、リアルタイムで聴きたかったと後悔したほどです。

推薦曲:「Choo Choo ガタゴト」

シンコペーションの効いたアレンジにグルーブするリズムとの合体はニューオリンズのセカンドラインあたりをベースにしたオリジナルとは異なる趣を持つ。桑名晴子さんのキュートな歌唱が光る。
細野晴臣さんのオリジナル曲で75年のティンパン・アレイのアルバムでも取上げられている。ミュージシャンが列車でツアーをするという生活をテーマにした楽曲。Choo Chooとは列車を意味するアメリカの幼児言葉。

推薦曲:「Down Town」

「Down Town」はシュガーベイブのアルバム『ソングス』からの最大ヒットチューン。EPOなど多くのミュージシャンがカバーしている山下達郎さん作の名曲。
いきのいいギターカッティングから始まる。オリジナルは日本語で歌われているが、このアルバムでは英語で歌われている。このメンバーが演奏すると推進力とスピード感が際立つ。

推薦曲:「あの頃のまま」

比較的オリジナルに忠実にカバーされている。サビのコーラスアレンジは松下誠さんのアルバムを想起させる。2コーラス目のアコースティックピアノとフェンダーローズを操る小島良喜さんのフィルインが洒落ている。
オリジナル曲は1979年ブレッド&バターの『Late Late Summer』に収録。作詞作曲は松任谷由美。アレンジは細野晴臣さんと松任谷正隆さんという豪華な布陣だった。

推薦曲:「夢で逢えたら」

大瀧詠一が作詞、作曲した名曲のカバー。吉田美奈子さんやシリア・ポール、ラッツ&スターなど、多くのカバーが生まれた。この楽曲もオリジナルを忠実にカバーしている。

推薦曲:「夜の海」

グルーブする渡辺直樹と岡本敦夫が生み出すリズムはこのバンドの真骨頂。その上に乗るギターのオクターブ奏法が楽曲にはまっている。
この楽曲の白眉は小島良喜さんのアコースティックピアノのソロ。ブレイクからメロディアスでシンプルに歌う。バックに流れるコーラスワークはあの名盤「ファースト・ライト」そのもの。アウトロ部のギターソロも見事でイイ音!


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:松下誠、吉野藤丸、小島良喜、渡辺直樹、岡本敦夫など
  • アルバム:「ムーンライト・アイランド」
  • 曲名:「Choo Chooガタゴト」「Down Town」「あの頃のまま」「夢で逢えたら」「夜の海」
  • 使用楽器:アコースティック・ピアノなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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