ポリフォニック・シンセサイザーにおけるJポップ黎明期のソロとアンサンブル
前回はピンクフロイドのモノフォニック・シンセサイザーのソロなどを取り上げました。今回はJポップにおけるポリフォニック・シンセサイザー黎明期におけるソロやアンサンブル、またそこに関りを持ったミュージシャンなどを紹介したいと考えています。
サザン・オールスターズの「勝手にシンドバット」から始まった記憶
サザン・オールスターズといえば天才的メロディーメーカーである桑田佳祐さんが思い浮かびます。私は18歳の時にサザンの「勝手にシンドバット」を聴き、サンバのビートに乗ったあの曲を好きになりました。大体、私はラテンのリズムが大好きなのです。
荒唐無稽ともいえるボーカリストがTVで歌っているのを聴き、軽い衝撃を受けたのを記憶しています。サザンのボーカリストである桑田佳祐さんの作るメロディにはある種の普遍性があり、その後は国民的な大スターとなりメインストリームを走り続けています。
そんなサザン・オールスターズにも1つだけポリフォニック・シンセサイザーソロを見つけました。
山下達郎さん、初めてのポリフォニック・シンセサイザーソロ
山下達郎さんのアルバムやライブでシンセサイザーソロも耳にすることはほとんどありません。私の記憶に残っているシンセサイザーソロは達郎さんの名盤、『イッツ・ア・ポッピンタイム(六本木ピットインでのライブ)』での楽曲。ブレッド&バターの「ピンク・シャドウ」をカバーしたものです。そこでキーボードで参加していた坂本龍一さんはモノフォニック・シンセサイザーの名機、アープ・オデッセイでのイマジネーション溢れるソロを展開しています。オデッセイでのソロは強烈でポルタメントを上手くつかった歴史に残るシンセソロだと思います。
しかし、ポリシンセのソロとなると記憶にあるのは1つだけです。達郎さんのアルバムでポリシンセはパッド音やストリングス系の音色で使われていますが、ソロとなると見当たらないのです。それはアコースティックピアノなど、ピアノ系の音の方が楽器としての表現力が高いと考えているからなのだと思います。
■ 推薦アルバム:『人気者でいこう』/ サザン・オールスターズ(1984年)

1984年リリース、サザン・オールスターズの7枚目のアルバム。当時はシンンセサイザーのポリフォニック(復音)化が進行し、Jポップなどのバンドアンサンブルに大きくシンセサイザーが導入されることになります。サザン・オールスターズも新しいテクノロジーを積極的に取り入れたアルバム展開をしています。
その典型的な楽曲が「ミス・ブランニューデイ」。シンセサイザーの尖った音色を当時流行り出したシーケンサー(自動演奏装置)でリズム楽器と連動。機械的なタッチを強調した印象的なイントロを作り出した。ベースもシンセベース音、ドラムもドラムマシン。シンセ、ベース、ドラムといったリズム隊は全て機械によりシンクロさせている。スネアの音にも当時流行していたゲート・リバーブがかけられ、テクノロジーを前面に出した楽曲に仕上げている。この辺りの演出には後にYMOにも関わった藤井丈司が深く関わっていると思われる。当時、藤井さんは国内屈指のシンセサイザーマニュピレーターでMIDIなど、先端のノウハウを持っていました。テクノロジーに裏打ちされたサウンドはこのアルバムに彩を添え、機械主体の音楽が時代を席巻します。その黒幕だったのが藤井丈司さんだったのです。
推薦曲:「よどみ萎え、枯れて舞え」
ローランドのポリフォニック・シンセサイザー、ジュピター6が大活躍する楽曲。当時のサザン・オールスターズの曲でここまでポリシンセが主体となる曲はなかった。冒頭部のフルート的アルペジオやテーマを歌うブラス音、曲の背景に流れるストリングスなどは全てジュピター6によるものだろう。
楽曲最終部分でブラス音によるジュピター6のソロが聴ける。2つのVCOのピッチを微妙にズラし、厚みを付けた音色はジュピター6の最も得意とするものかも知れない。ソロ最終部でジュピター6鍵盤左部分のピッチベンダーを操作してベンドアップとダウンを試み、表情が付きにくいシンセサイザーソロに変化をもたせている。かくいう私もジュピター6の愛用者だった。とても使い勝手のいい、多彩な音がでるポリシンセでした。難を言うならば重すぎたという点。
ローランドを取材した際、ジュピターの操作パネルを開けるには特別なノウハウがあり、両サイドの金属パネルのビスの上部数本を外し、金属パネルの両サイドを広げ中央部のパネルを取り出すという超裏技を技術者の方に教えてもらった記憶がある(笑)。

Roland Jupiter-6, CC BY-SA 3.0 (Wikipediaより引用)
ローランドの大ヒットしたアナログポリフォニックシンセサイザー、ジュピター8の価格は98万円。アマチュアには高嶺の花だった。ジュピター6はジュピター8からポリ数を2音下げた6音。49万円で発売された。
このポリシンセも鍵盤を2 つのゾーンに分割し、各ゾーンで別々の音色を設定できた。また、アルペジエーターも装備していた。ジュピター6の最大のエポックはポリシンセにMIDIが搭載されたことだろう。MIDIは「Musical Instruments Digital Interface」の略で1981年に策定され、ケーブル1本で電子楽器同士を接続し、情報交換させる世界共通規格。例えばAとBのシンセサイザーをMIDIケーブルでつないでAを演奏すればAで弾かれた音情報がBにも伝わり、Bの音も同時に発音させることができた。
ヤマハ、ローランド、カワイ、コルグの日本メーカー4社とシーケンシャル・サーキット、オーバーハイムのアメリカメーカー2社の計6社の合意でMIDI規格がまとめられた。その陰にはローランド社長、梯郁太郎氏とシーケンシャル創業者であるデイブ・スミス氏の功労があった。両氏はこれが評価され、グラミー技術賞を受賞した。
■ 推薦アルバム:『ライド・オン・タイム』/ 山下達郎(1980年)

山下達郎のブレイクのきっかけとなった5枚目のアルバム。「ライド・オン・タイム」がTVドラマのタイトル曲として大ヒット。
ポリフォニック・シンセサイザーソロが山下達郎さんのアルバムには珍しくフューチャーされている。
推薦曲:「いつか(SOMEDAY)」
アルバム冒頭曲で詞は吉田美奈子氏によるもの。この楽曲に難波弘之氏によるポリフォニック・シンセサイザーソロが聴ける。難波氏は山下達郎のレコーディングには必ず呼ばれる山下達郎バンドの主要人物。アルバム初期には坂本龍一氏や佐藤博氏が務めていたが、その後は難波弘之氏が常駐となっている。
難波氏が操る楽器は音色からプロフェット5の可能性が高い。実際、難波氏はプロフェット5を所有しておりレコーディングでも使用しているため。
プロフィット5は5音ポリのポリフォニック・シンセサイザーで世界的ヒットを記録している。楽曲内のソロでは冒頭部から復音を生かし、ブラスアンサンブルの隙間を縫うようなメロディアスなソロを聴くことができる。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:サザン・オールスターズ、桑田佳祐、藤井丈司、山下達郎、難波弘之
- アルバム:「人気者でいこう」「ライド・オン・タイム」
- 曲名:「よどみ萎え、枯れて舞え」「いつか(SOMEDAY)」
- 使用楽器:ローランド ジュピター6、シーケンシャルサーキッツ プロフィット5など
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