
<SENNHEISER HD 400 PRO>
音楽制作の世界では老舗マイクブランドとして名を馳せるSENNHEISER。オーディオの世界ではハイエンドヘッドホンブランドとして名高く、多くのオーディオファイルはオーディオリスニングヘッドホンの選択肢に加えるブランドでもあります。オーディオ向けヘッドホンが多い同社ですが、HD 400 PROという「スタジオリファレンスヘッドホン」がラインナップに加わりました。
HD 400 PROがどのようなヘッドホンなのか、制作現場においてどのように活用できるヘッドホンなのかレビューしてみます。
常識を覆す「軽さと音質の両立」

<重量物が排除された軽量な筐体>
箱から出した最初の印象は、「軽い」ということ。それもそのはず、HD 400 PROの重量はわずか240gしかないのです。小型のイヤーカップを耳に載せるオンイヤータイプでは240gを下回るモデルがありますが、耳を覆うイヤーカップのモデルとしてはトップクラスの軽さです。HD 400 PROの筐体は金属部分がなく、軽さに注力した製品であることがひと目でわかりました。
一方、オーディオ機器の世界では重さと音の良さがある程度比例する傾向があるため、軽いことにある種の疑念を抱く人も少なくないでしょう。筆者も軽さに心配を覚えた1人ですが、その先入観は見事に覆されます。
そのサウンドはローエンドからハイエンドまでフラットに展開される「モニターサウンド」。全く脚色を感じないタイトでレスポンスの良い音が聞こえてきました。低域、高域、どこも誇張されていない、音源が持つそのままの音です。高域が誇張されないため寂しく感じるかもしれませんが、これが本来の音源の音なのだと感じました。
低域についても240gの軽量ボディから想像できないタイトなローが聞こえてきます。軽量なオンイヤータイプはヘッドホンが耳を押さえる強さによって低域の聞こえ方が大きく異なることが弱点。しかしHD 400 PROはオンイヤーではありませんから、安定した低音を聞くことができます。
オーディオ用途のヘッドホンではジャンルによって得意・不得意が存在することが多々ありますが、HD 400 PROはオールマイティに使えるサウンドです。6〜38,000Hzという非常に広い周波数特性も相まって、1台あれば様々な音楽ジャンルに対応できるでしょう。ヘッドホンを複数所有する場合でも基準となる、リファレンスとなりえるサウンドです。
スピーカー環境と同じような長時間作業を可能にする設計と仕様

<開放型なので長時間使用時も圧迫感が少ない>
良いヘッドホンだったとしても長時間の作業に耐えられるかは別問題。特に密閉型の場合は良い音と引き換えに一定の圧迫感がありますから、長時間作業をするとあるところから極端に疲弊するようになります。筆者は密閉型のヘッドホンを愛用してきたのですが、久しぶりに開放型モニターヘッドホンを使ってみると、圧迫感のなさに感動しました。
長時間作業をしても疲れを感じることがなく、それどころかヘッドホンをしていることを忘れてしまい、音を作りこんでしまいました。さすがにスピーカーでも確認しないと、と思い、ヘッドホンを外しました。

<前方に傾斜して取り付けられたドライバーユニット>
スピーカー環境と違和感が無いことには3つの要素が影響していると考えられます。軽量と開放型は述べた通りですが、もう一つの要素はドライバー(ユニット)のマウント方法です。
イヤーカップを覗くとわかりますが、HD 400 PROのドライバーはわずかに前方に傾斜して取り付けられています。わずかな角度の差ですが、これがスピーカー環境との違和感の少なさに大きく影響していると感じました。
ヘッドホンモニターではPAN 100%の位置が耳を通り越してしまうことがよくあります。スピーカー環境と比較して広がりすぎということになるのですが、HD 400 PROはわずかに前方に傾斜したユニットのおかげで音が適度な広がりに留まります。よって、スピーカー環境に近い広がり感になっているようです。
ヘッドホンでスピーカー環境を再現するdearVR MIXとの連携

<DEAR REALITY dearVR MIX>
HD 400 PROはDEAR REALITY社のdearVR MIXプラグインとも連携しています。このプラグインは最新のテクノロジーによって、ヘッドホンでスピーカー環境の音を再現するプラグインです。ヘッドホンをしたまま同社が設定した理想的なミキシングルームの音でミキシングできるほか、カーステレオやリビング、キッチンなど厳しい再生環境も再現でき、ヘッドホンをしたまま様々な環境での仕上がりもチェックできます。

<HD 400 PROが選択できる>
このプラグインではHeadphone Compensationという機能によってヘッドホンの特性にあわせた補正が行われますが、同機能の対象としてHD 400 PROが登録されています。HD 400 PROはそのままでも十分なモニターサウンドを提供していますが、dearVR MIXと組み合わせることで活用の幅が広がりそうです。
なおdearVR MIXは別売りでDEAR REALITY社ウェブサイトから直接購入できるようになっています。ゼンハイザーでサポートは行っておらず、DEAR REALITY社に直接問い合わせる必要があるとのことです(英語)。

<可動部もしっかりした造り>
総合的には、軽量な外観とは裏腹に音楽制作向けに緻密に設計されたプロフェッショナルライクなヘッドホンであることがわかりました。可動部についても十分な強度を持ち、安心して使用できます。むしろ重量級のヘッドホンよりも気軽に使うことができて好印象となりました。

<付属する2種類のコード>
余談ですが、コードも交換可能でカールコードとストレートコードが付属。使い方にあわせて選べるだけでなく、断線時も交換が可能であり、長く愛用することができそうです。
最後に、識者の方には不要の情報でしょうが、注意点もあります。
HD 400 PROだけでなく、開放型は音が漏れるヘッドホンですから、録音用モニターには使用できません。また、HD 400 PROはインピーダンスが120Ωと高めであるため、ヘッドホンアンプも相応のドライブ能力が求められ、安価なオーディオインターフェース等、出力の小さいヘッドホンアンプでは音量が小さくなります。
これらの注意点を踏まえて導入すれば、高級モニタースピーカーに匹敵するリファレンスサウンドを誰でも手に入れることができるでしょう。
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