< MK4とMKS4 >
コンデンサーマイクがひとり1本の時代になり、様々なメーカーから低価格帯コンデンサーマイクが発売されています。楽器店にはたくさんのマイクが並び、ボーカルやアコースティクギターなど、自宅録音を楽しむミュージシャンにとっては素晴らしい時代になりました。
一方で、増えすぎた選択肢は購買時の迷いも生み出します。どのマイクを買ったら良いかわからなくなったという方も多いのではないでしょうか。
今回紹介するSENNHEISER MK4 は、マイクの老舗SENNHEISERがリリースするラージダイヤフラムコンデンサーマイク。老舗の低価格マイクとして、音に興味を抱く人も多いでしょう。様々なレコーディングで使ってみましたので、マイク選びの指針となるようレビューさせていただこうと思います。
調整機構は一切なし、初心者でも迷いなく使えるマイク
パッケージを開けると本体、マイクホルダーとポーチが同梱されています。ポーチはただの布袋に見えますが、緩衝材が含まれたポーチとなっており、マイクの保管や運搬で重宝しそうです。
< パッケージ内容 >
マイクホルダーには3/8”から5/8”への変換ネジが装着されており、購入したままの状態でほとんどのマイクスタンドに適合できると考えて良いでしょう。
< 付属する専用マイクホルダー >
マイク本体はいたってシンプルで、指向性切り替えやローカットフィルターなど機能設定のためのスイッチは一切ありません。多機能はプロの現場では重宝しますが、初心者の方にとっては使い方がわからなくなる要因にもなります。加えて、録音前の段階で音を調整する判断には多くの経験が必要です。 MK4は迷いなく使えるため、初心者の方には使いやすいマイクと言えるでしょう。
< 本体にスイッチはなくいたってシンプル >
録音後のボーカル編集に耐える密度の高い音
まずはボーカルレコーディング。MK4はハイエンドボーカルマイク e 965の音響特性をベースに設計されたため、もともとはボーカル用のマイクとも考えられます。
< リフレクションフィルターを併用してボーカル録音 >
最初にお伝えしたいのは、脚色の無い音であること。 低価格帯マイクは高域が誇張されたマイクが多く見られます。高域がよく聞こえると「抜けが良い」と思われ、音質が良いと判断されやすいためです。しかし単純に高域が誇張された音はミキシングで扱いにくいことが多く、「よく聞くとそんないい音でもない」という結果になりやすいのです。
MK4はパッと聞いた印象ではこもっているように聞こえるかもしれません。しかしよく聞いてみると密度の高いしっかりした音質で、こもっている訳ではないということに気づきます。高域が出ていないのではなく、全帯域がバランスよく出ているのです。SENNHEISERのブランドイメージに相応しいしっかりとした音です。
イコライザーやコンプレッサーなどのエフェクトに対しても高い耐久性を示し、エフェクトをかけても音が崩れず、生き残ります。安価なマイクはミキシングに耐えきれないものが多いのですが、それらとは一線を画すマイクです。ピッチ編集、タイミング編集をしても音が崩れにくいので、録音後の編集を必要とするボーカリストは試してみる価値のあるマイクでしょう。
指向性は単一指向性(特定の方向の音を中心に拾う)ですがやや広めの特性を持っていますので、部屋で使用する場合は反響音に注意。先の写真のようなリフレクションフィルターを用いて反響音を止めると良いでしょう。
高域が落ち着いて聞きやすい、同価格帯では貴重な特性
ボーカル以外のレコーディングでも使用しましたが、ボーカル録音と同様に誇張の無い、密度の高い音で録ることができました。
周波数特性について、データ上では3kHz以上の高域に緩やかなピークが見られますが、録音してみると中〜高域のピークは強く感じません。なだらかで自然なカーブを持っているためと考えられ、痛い音が出てこないので楽器を選ばず使いやすいと感じました。高域がキンキンするアコースティックギター、金管楽器をマイルドな音質で録りたい時に重宝するでしょう。
< アコースティックギターのマルチマイクにも >
耐音圧が140dB SPLと非常に高いため、ドラム録音でも安心して使えます。ライドシンバル用に使ってみましたが、落ち着いた密度の高い音によって程よく高域が抑えられたような印象になり、他の音と混ぜるとちょうどよい音になります。高域をマイルドな印象にしてくれるマイクは貴重な存在です。こういった落ち着いた玄人好みの音は高額帯マイクの仕事だと思っていましたが、MK4という選択肢が加わりました。
< ライドシンバルの音を程よく落ち着かせてくれた >
レコーディングエンジニアやPAさんなど、本職の方にとってはこの価格が魅力となるでしょう。本数を揃えたい時、その質の高さから有効な選択肢となりそうです。ステレオ収録用に2本揃える場合も高額帯のマイク1本分の価格で揃ってしまいます。ピアノのステレオ収録に使ってみましたが、鳴りの良いピアノの場合はちょうど良い音に落ち着いてくれるので、良い結果が得られました。
< 2本揃えてステレオ収録 >
さらにクオリティの高い録音を実現する専用サスペンション
MK4は本体内に振動を吸収するショックマウントを内蔵しているため本体だけでも問題なく録音できますが、ドラム録音など振動が心配な場合は、別売りオプションのMKS4サスペンションを使うと良いでしょう。
< 振動が心配な場合はMKS4サスペンションの使用がお勧め >
MKS4サスペンションはマイクのフロント側にはフレームがないため、一般的なコンデンサーマイクのサスペンションよりも至近距離でのセッティングが可能です。特にボーカル録音において有効で、MK4の高耐音圧性と相まって近接効果を最大限に活用した録音を行うことができます。
サスペンションの使用は、振動に起因する低域ノイズの低減に有効です。ドラム録音など振動が多い場合はもちろん、自宅でのボーカル録音でも効果的にノイズを低減することができます。ボーカル録音ではノイズの少ない音が録音できることで大きくクオリティアップを図れますから、積極的にMKS4サスペンションを導入すると良いでしょう。
エフェクトに耐える音質が、ミキシングの楽しさを引き出す
総じて玄人好みのマイクだと感じますが、初心者の方も十分に使えるマイクです。言い換えればプロが使う高額帯マイクのような特徴が低価格で手に入る貴重なマイク。ミキシング時にエフェクトに耐える「音の耐久性」というのはとても重要な要素です。耐久性があるということは後から音質を調整できるということでもあります。音質だけでなくノイズが少ないことも耐久性に貢献しています。
もし高音域が不足すると感じたとしても、後からイコライザーで数dB足すだけで不満は解消されるでしょう。MK4はイコライザーをかけることにも耐えます。ミキシングを自分でする人にとってとても楽しいマイクであろうと感じました。
マイクと言えばNEUMANN U 87 Aiがファーストコールであり、これだけマイクがたくさん売られる時代になっても変わっていません。理由は音質が良いのはもちろんのこと、音に耐久性があるのです。U 87 Aiで録音された音はミキシングや編集に耐えてくれることがファーストコールのひとつの理由でしょう。SENNHEISER MK4は低価格ながらも耐久性を備えた数少ないマイクとなるかもしれません。ボーカルに、アコースティックギターに、様々な用途で活躍できる損のない玄人好みのマイク。自宅環境に加えてみてはいかがでしょうか。
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら