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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~珠玉のピアニスト佐藤博さん取材記パートⅢ~ その71

2022-03-25

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

■ ピアニストでありシンセシスト…佐藤博の歴史的ソロアルバムの数々!

今回も前回に続き、山下達郎さんが日本トップピアニストとコメントされたキーボーディストであり、作曲家、プロデューサーでもあった佐藤博さん取材記のパートⅢです。

私は1995年、TVニュースの取材で日本を代表するキーボードプレイヤー、佐藤博さんを取材しました。佐藤博さんは国内の著名アーティストのアルバムに多数参加。名演を残す一方、自身のソロアルバムも制作しています。2012年にご逝去。
今回は前回紹介できなかった佐藤さんのスタジオの様子やインタビューなどを交え、佐藤さんのソロアルバムを中心に構成します。

■ 佐藤博さんのスタジオは機材の山!

佐藤さん宅は閑静な住宅街の一角にあり、スタジオは普通のお宅の中に作られていました。中央にマザーキーボード(鍵盤)が置かれ、周囲にはヤマハのDX7Ⅱ、オーバーハイムのエクスパンダー、ローランドD–550(D-50 の音源モジュール)など、沢山のシンセサイザーに加え、ドラムマシンやデジタルリバーブなど、高級エフェクターも数多く鎮座していました。
佐藤さんは新しい機材が大好きで、佐藤博名義のソロアルバムは殆どご自身で制作されています。そのベースになっていたのが、佐藤さんのプライベートスタジオです。私もシンセサイザー等の機材好き。取材中は機材話に花が咲きました(途中から取材はどうでもよくなりました)。
君はすごく詳しくて驚いたと佐藤さんは仰っていました。機材オタクの私は当時、「キーボードマガジン」と「サウンド&レコーディングマガジン」を毎月、読んでいたので機材の話を喋り過ぎたのだと思います。
佐藤さんのスタジオには私が欲しい高価なシンセサイザーやエフェクターが沢山あって、機材オタクにとっては涎が出そうなシチュエーションでした。
取材の合間に佐藤さんはビル・エバンスを弾いてくれたり、私のリポート用の音楽をアドリブで弾いてくれたりました。私はスタジオのミキサーアウトから、その音をTVカメラに録音しました。今も佐藤さんのスタジオで過ごした時間を昨日の事の様に思い出します。至福の時間でした。

■ 佐藤さんが語った自分の音楽について

佐藤さんを取材したのは日本盤のCDと輸入盤CDの価格差についてでした。
日本とアメリカ等の英語圏ではリスナーの数は桁違いで、分母が大きな分、価格は下がります。日本国内だけでは多くのターゲットは見込めません。また、国内盤には歌詞カード、ライナーノーツ等も入っています。どうしてもCD1枚の単価は高くなります。それに加えて東京という世界的にも土地価格が高価な場所に建つ、スタジオ費用が高額であることは推して知るべしです。日本盤CDが高価になるのは仕方がありません。

「国内、国外関係なく、世界に通用する、普遍性のある音楽、残っていく音楽、自分自身の音楽を作っていくのが僕の仕事だ」というのが佐藤さんの答えでした。

また、95年当時に作家が音楽を作った時の収益等にもお答えいただきました。
CDが1枚売れた場合、作曲者は1曲に付き100円、作詞者にも100円が入ります。
作家がソロアルバムを出してCD1枚に10曲を入れたとします。自分で作詞、作曲した場合、200円×10曲=2000円。100枚売れて20万円。1000枚売れて200万。
CDの制作費、写真撮影費用、デザインパッケージ費用などもあります。それに加え、一流ミュージシャンへのギャラ、高額な機材費用、高額なスタジオ費用等々を支払った場合、簡単に食べていける数字ではない事が分かると思います。
ミュージシャンは大変な仕事だと私は思いました。

以前、オルケスタ・デル・ソルのメンバーに聞いた話ですが、
「ライブハウスに出演したギャラはその晩に飲んで終わりだよ」と云っていました。
ミュージシャンは華やかなわりに厳しい職業なのです。

■ 推薦アルバム:佐藤博 『THIS BOY』(1985年)

佐藤博、85年のコンピレーションアルバム。名盤、「アウェイクニング」からの曲やシングルリリース曲、新曲など、バラエティに富んだ楽曲が揃っている。
佐藤さんは多数のシンセサイザーを駆使し、素晴らしいブラスサウンドを作っている。

推薦曲:『シャイニー・レディ』

ポップで印象に残る佐藤博印の爽やかな名曲。佐藤さん制作の印象的なブラスサウンドが曲の骨格を作っている。

推薦曲:『スイート・インスピレイション』

御徒町ファンクブラザースはオーバーハイムエクスパンダーやヤマハDX7Ⅱなど複数のシンセサイザーをMIDIで繋ぎ、分厚いブラスアンサンブルを構築している。野太いブラス部分はオーバーハイム、ザラっとしたホーンのブレス音部分等はDX7Ⅱで出していると思われる。

オーバーハイムXpander(アナログシンセサイザー)

ヤマハ DX7Ⅱ(FM音源)

推薦曲:『アンジェリーナ』

松田聖子に唄わせたいポップナンバー。サビから入るメロディが印象的。この曲も佐藤さんお得意のブラス音が鳴り響くが、上記のブラス音にオケヒット音が加わっており、より派手なブラスサウンドに仕上がっている。

■ 推薦アルバム:佐藤博 『アクア』(1988年)

88年リリースの佐藤博のソロアルバム。佐藤博らしいポップチューンが並ぶ。この中に「アクア」という曲がある。取材後日、水泳選手の取材に出かけた際、私はこのアルバムジャケットからインスピレーションを得て、プールに映り込んだ水面を撮影。カットをスローモーションにして編集し、1分30秒程の天気予報のバックグランド映像として放送しました。勿論、BGMは『アクア』。完パケしたVHSテープを佐藤さんにお送りしました。

推薦曲:『シート・フォー・トゥー』

佐藤さんの曲で一番のシングルカット向けと思われるポップ・チューン。佐藤博メロディーが冴えわたっている。お得意のブラスサウンドが炸裂し、2コーラス目の頭と大サビ部分でブラスセクションがフェイクして入るのがオシャレ!また、大サビ部分の女性コーラスの挟み方はグルーブ感を伴う秀逸なアレンジ。アウトロ部分のシンセブラスと佐藤さんのアコースティックピアノのかけ合いは聴きどころです!

■ 推薦アルバム:佐藤博 『タッチ・ザ・ハート』(1989年)

佐藤博9枚目のソロアルバム。佐藤さん自身によるリズムプログラミングも聴きどころ。松原正樹(g)、鈴木茂(g)、伊藤弘規(g)、青山純(g)、本田雅人(sax)など、腕利き達が支えている。佳曲揃いのアルバム。

推薦曲:『ストップ・ザ・レイン』

この曲を最初に耳にした時に浮かんだのがスクリッティ・ポリッティの名盤、「キューピット&サイケ」でした。パーカッションやシンセ音など、打ち込み系が複雑に入り組んでいて、佐藤さんもあの辺りを研究されたのかなと思いました。真偽のほどは分かりません…(笑)。
そんな複雑さとは裏腹に佐藤博印の爽やかなポップチューン。必聴!私、大好きです。

推薦曲:『アナザー・ランド』

佐藤さんお得意のソフトなボーカルから始まる。サビ部分、青山純のドラムのノリが抜群!ドラムとギターの単音バッキングが作り出すグルーブ感が、この楽曲に疾走感を与えている。


■今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:佐藤博、鈴木茂、松原正樹、鳥山雄司、鈴木茂、伊藤弘規、青山純、本田雅人など
  • アルバム:「THIS BOY」「アクア」「タッチ・ザ・ハート」
  • 曲名:「シャイニー・レディ」「スイート・インスピレーション」「アンジェリーナ」「シート・フォー・トゥー」「ストップ・ザ・レイン」「アナザー・ランド」
  • 使用機材:フェンダー・ローズ・エレクトリックピアノ、アコースティック・ピアノ、オーバーハイム・エクスパンダー、ヤマハDX7Ⅱなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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