自分がステップアップできる、「聞こえる」マイク
小泉:本日はSENNHEISER MD 435についてインタビューさせていただきます、よろしくお願い致します。早速ですが、お使いいただいてのファーストインプレッションをお聞かせください。
しなの:いつもスタジオでマイクを借りていて、今回始めて自分のマイクというものを使いました。私の曲では語りの部分が多いんですけど、語りがとてもクリアに聞こえました。これまで自分がちゃんと歌えていなかったのかわかってしまって。マイクひとつでこんなに変わるんだなって。なんていうか、、、、頑張ろうって思いました(笑)。
SENNHEISER ( ゼンハイザー ) / MD 435 ダイナミックマイク
小泉:なるほど(笑)。レコーディングでも思っている音と出ている音の差を感じて上手になっていくということが起こりますが、それがリハーサルやライブでわかってしまったんですね。
しなの:歌えば歌うほどちゃんと練習しなきゃなっていうのがわかってしまって。どこのピッチが悪いとか歌っている途中でわかります。「こうやって聞こえてるよ」っていうのを教えてくれるなって。全部自分でわかっちゃうので、リハから使ってたらうまくなるなって思いました。
小泉:普段使っていたスタジオのマイクとは大きな差があったんですね。
しなの:そうですね。特にサビとかでガッツーン!と高音に行く部分とかは聞こえ方が大きく違っていました。こんなふうに聞こえてたらいいなという音が聞こえてきて。
< スタジオでの練習風景 >
今まではリハでメンバーに指摘されてもわからないことが多かったんです。自分ではちゃんと出来ているつもりだったので。それがMD 435にしたら自分でわかるようになりました。「あーこういうことか!ごめんなさい」って思いました(笑)。このマイクに追いつけるように練習していきたいです。
小泉:自分でミスがわかるようになるというのは大きいですね。
しなの:いいマイクで歌うと音がいいとか、うまく聞こえるんだろうなとか、そういうイメージがあったんです。でも全然そんなことなくて(笑)。自分がどれだけ未熟かというのに気づかせてくれたマイクです。うまく聞こえるというより、うまくなれるマイクですね。
小泉:語りの時と歌の時、どちらも綺麗に聞こえたのでしょうか。
しなの:はい、どちらも。語りの部分って文字をたくさん詰め込んでいるんですけど、そういう細かい部分の聞こえ方が気持ちよかったです。聞こえて欲しい言葉がクリアに聞こえました。耳に届くまでの時間が短い感じです。
声が届いている感覚がパフォーマンスを改善してくれる
小泉:リハーサルからお使いいただいているようですが、ライブではいかがでしたか。
しなの:ライブってお客さんが入る前と入った後で聞こえ方が違うじゃないですか。その差が少ないというか、ムラが無いなと思いました。お客さんがいてもいなくても、音がちゃんと耳に入ってくるんです。
小泉:ライブでも、スタジオでも、お客さんがいてもいなくても、どんな環境でも音が届くということでしょうか。
しなの:今までのマイクだとギターとか他の楽器が鳴っていると聞き取りにくい時があったんです。私も自分の声が聞こえてないし、たぶんみんなも聞こえてないなって。でもライブだと勢いでやってしまうことも多くて。
< ライブでの印象を語るしなのさん >
でもMD 435だとお客さんにちゃんと届いている感じがしました。伝えたい言葉を歌にしているんですけど、一文字一文字をちゃんと拾って届けてくれているなって。お客さんに届いているなって思えるとこっちものってくるじゃないですか。「ちゃんと聞こえてる、大丈夫!」みたいな。
小泉:リハーサルからライブまでどの場面でも使えるマイクということなんでしょうね。音質について、しなのさんの歌だと低音もしっかり響かないといけないと思うのですが、低い方はいかがでしょうか。
しなの:低いところはすごく「響くな」って思いました。喉を開けて下げてガッツリ歌うと、音が潰れちゃうことがあるんです。でもMD 435だとめっちゃ喉あいてるなっていう感じがしました。低音に関しては上手に聞こえます(笑)。
小泉:高音はミスがバレるけど、低音は上手に聞こえるんですね(笑)。
しなの:低音は潰れちゃうと聞こえないじゃないですか、ベースとかドラムがきて、聞こえないから音を出して、そうすると喉が閉まるっていう悪循環。MD 435だとその悪循環がないんです。
小泉:そんなに頑張らなくても低音の響きを拾ってくれるイメージでしょうか。
しなの:そうです、ライブハウスみたいに大きい音で出すと低音が気持ちよかったです。なんていうんですか、鼓膜にキテる感じ(笑)。空気が揺れて鼓膜が振動する感じがしました。全部じゃないんですけど、自分の出したいドスの効いた低音のイメージと、モニターから返ってくる音がパツっとはまることがあるんです。それが気持ちいいんです。
小泉:しなのさんの声に合っているのかもしれませんね。ライブではイヤモニとモニタースピーカー、どちらが多いんでしょうか。
しなの:イヤモニ使ったこと無いです。
小泉:するとスピーカー返しなのに高音も低音もよく聞こえるということなんですね。
しなの:そうなんです。イヤモニだったらもっとよく聞こえそうですね。
距離の変化が少なく扱いやすいハンドマイク
小泉:ライブで使うハンドマイクということで、持った時の重さや質感などの印象を教えて下さい。
しなの:結構ずっしり来るなと思いました。ただ、重いというほどではなかったです。あと、個人的にはもっとガッて来て欲しいなと思いました(笑)。
小泉:ルックスが、ということですね(笑)。その他ハンドマイクでの使い勝手、取り回しなどはいかがでしたか。
しなの:私はスタンドに立てて使うことが多いんです。ハンドマイクだとマイクとの距離が変わっちゃうじゃないですか。特に私は結構動くのでいつも距離が難しくて。でもMD 435は距離の変化が少なくて、使いやすかったです。
小泉:歌っている時に距離を変えてもニュアンスがあまり変わらないということでしょうか。
しなの:はい、調整がやりやすいという印象でした。
< 扱いやすいMD 435 >
小泉:かなりMD 435を使いこなしている印象を受けたのですが、しなのさんなりの、このマイクをうまく使うコツというのはありますか。
しなの:めちゃめちゃ声張ったときに、ちょっとだけ離れる。私声大きいんですよ。他のマイクでも近すぎるとガーってきちゃって、声を小さくしないといけないんです。それはMD 435でも同じなんですけど、小さい声でもよく拾ってくれるので他のマイクよりは調整が楽でした。ちょっとだけ離れれば大丈夫というか。
小泉:ちょっとというのはどのくらいでしょうか。
しなの:え〜どのくらいだろう、ちょっとです(笑)。歌う時のイメージがあって、糸を引っ張って伸ばすようなイメージでマイクに向かって歌っているんです。音が大きい時は糸を伸ばすように離れるんです。でも他のマイクだと糸が切れちゃうんですよ。自分の技術が足りないだけかと思っていたら、MD 435だったらできたんです。思い描いていた歌い方ができるマイクですね。
小泉:MD 435はどういう人にお勧めのマイクでしょうか。
しなの:言葉をちゃんと届けたい人、熱いメッセージを届けたい人にはお勧めです。一人一人のお客さんのために、近くで歌ってあげたいとか、そういうイメージの人にはピッタリだと思います。私は言葉とか、届けるとか、そういう熱いことばっかり考えて技術がおろそかになる女なんです(笑)。
小泉:しなのさんみたいになりたい歌い手さんたくさんいると思いますから、そういう人に使ってもらいたいですね。
しなの:いますかね?やめたほうがいいですよ、苦労するぞ〜(笑)。
小泉:今日はありがとうございました。ライブが楽しみです。
しなの:ありがとうございました、楽しかったです!
< 終始笑顔が魅力的だったしなのさん >
しなの椰惠 プロフィール
1998年生まれシンガーソングライター。実体験を元にした痛いほど赤裸々な歌詞で話題を呼び、2020年5月ニッポン放送の「ANNO (ZERO)」に初の冠パーソナリティーに選出。生歌唱と独特なトーク展開などがリスナーの間で話題になった。 中止になったが、同年に開催予定だったRADIO CRAZY, COUNTDOWN JAPANへも出演が決まっていた。
しなの椰惠さんに引き続き、しなの椰惠さんさんのリハーサル、ライブのオペレーションを担当されているエンジニア、奥村さんにもお話を伺いました。
密度の濃い、情報量の多いハイグレード・ダイナミックマイク
小泉:奥村さんはしなのさんにMD 435を勧められたということですが、経緯をお聞かせください。
奥村:MD 435がまだ日本で発売される前に海外サイトの広告で見つけたんです。とても気になってすぐに問い合わせました。モデル名が4から始まるじゃないですか。僕はMD 421世代なので、SENNHEISERの4始まりのマイクということで、仕様、価格など含めてとても気になったんです。
小泉:情報通ですね!そこからすぐに手に入れて使ってみたんですね。
奥村:届いてみたらすごく良かったんです。担当するしなのさんに合いそうだったので、ぜひ使ってもらいたいなと思って勧めました。
小泉:最初に音を聞いた時の印象を教えてください。
奥村:情報量が多いなと思いました。詰まっている、密度が濃い印象でした。マイク本体もダイヤフラムまでの距離が近くて、ダイヤフラムが大きいなと。その影響もあるのかもしれません。
小泉:確かにグリルが特徴的ではありますね。
< 奥村さんが注目したのはダイヤフラムまでの距離 >
奥村:オンマイクだとほんのちょっとの距離で変わるじゃないですか。そのほんのちょっとが絶妙で、作り込まれている印象を受けました。
小泉:マイクの老舗ならではの作り込みですね。SENNHEISERのマイクもダイナミックからコンデンサーまで色々ありますが、奥村さんがダイナミックを選ぶ時はどのようなシチュエーションなのでしょうか。
奥村:コンデンサーマイクって、かぶりも鮮明な音質で入っちゃうじゃないですか。広い会場の場合はそれも含めて使える時があるんですけど、ライブハウスのような狭い、過酷な会場だとコンデンサーだとかぶりの情報量が多すぎるんです。すぐ後ろにドラムがいるとか。そういう時はやっぱりダイナミックだなと思っているんです。 あとはダイナミックマイクの荒々しさが丁度よくサウンドの中で生きてくる時。そういうシチュエーションでダイナミックマイクを使うことが多いです。
バンドサウンドにいい意味でなじまない、埋もれないサウンド
小泉:ライブで使う場合指向性が重要になると思うのですが、MD 435の指向特性についてはどのような印象をお持ちですか。
奥村:MD 435とMD 445の両方を試したんですが、両方とも予測できる単一指向性という印象でした。癖があるわけではなくて、狙いたいところを拾ってくれる感じです。自分たちでコントロールできるので、使いやすいですね。
小泉:実際にステージで使ってみて特筆すべき点はありましたか。
奥村:フィードバックするポイントが少ないなと思いました。音の情報量が多いんですが、情報量が多いままモニターを作れます。モニター音が作りやすいマイクですね。そんなに切らなくても大丈夫な音です。
小泉:情報量が多いと言ってもただ音が詰め込まれているわけではないんですね。
奥村:モニターって上げてくれと言われることが多いんですが、しなのさんからは十分聞こえているから下げて欲しいと言われました。情報量が多いからよく聞こえる、そしてフィードバックしない。作りやすかったです。
小泉:それはPAとしては嬉しい特徴ですね。下から上まで出ている周波数特性だと思うのですが、音の分布に関してはいかがでしょうか。
奥村:嫌なところがなく、綺麗な音です。そしてガッツもある。バンドサウンドの中にボーカルがスッと入るようなイメージです。馴染みやすいというよりは、馴染まずにボーカルが埋もれない。
使い方を開発したいと思える高いポテンシャルが魅力
小泉:音を聞いてみて、MD 435はどういうボーカリストに合いそうな印象を受けましたか。
奥村:e 935を使っている人には勧めてみたいです。音は違うんですが、密度は濃いので、そのままスムーズに使ってもらえると思います。e 935からのステップアップには丁度いいんじゃないかなと。全部聞こえちゃうので、サボれませんけどね(笑)。
小泉:しなのさんも仰ってましたね(笑)。
奥村:スタジオのマイクを使って、どうもマイク乗りが悪い、しっくり来ないなと感じている人はぜひ試してもらいたいです。違う可能性が見えてくると思います。 アーティストさんご本人が買うマイクとしても良さそうですが、PAのオペレーションをする側としても選択する可能性はありますか?
奥村:もちろんあります。ボーカル用としての採用になると思いますね。MD 445については違う使い方もできるのかなと思っています。MD 445はMD 435よりさらにダイヤフラムまでの距離が近いので、ボーカルで使う場合はLCFをちゃんと効かせないとポップノイズがドーンと出ちゃうんですよ。キックと同じくらい。ということは、ボイパに使えるなと思っているんです。あとはギターアンプでもリッチなローが欲しい時に使えるんじゃないかなと思っています。
小泉:ポテンシャルはあるので、まずは1本持っておこうという感じでしょうか。
奥村:そうですね。MD 421だって最初は違う用途で設計されているけど、僕らはタムだの、キックだの、そういう使い方をするじゃないですか。MD 445にはそういうポテンシャルを感じます。1本2本と言わず10本単位でストックしていても良いマイクだと思いますよ。
小泉:新しい使い方を想像できるマイクというのはどれも良いマイクですからね。MD 435、MD 445の使い方を見つけていくのも楽しそうです。大変参考になりました、ありがとうございました。
奥村:ありがとうございました。
< 新しいマイクのポテンシャルを楽しそうに語る奥村さん >
奥村岳児 プロフィール
株式会社サンフォニックス / PAエンジニア
シンガーソングライターの「しなの椰惠」のリハーサル及びライブのオペレートを担当
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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