THE DARK SIDE OF THE MOON 50th ANNIVERSARY 狂気50周年記念イベント
〜 日比谷野音でPINK FLOYD TRIPS〜』
2023/06/18(日)日比谷公園大音楽堂


今まで生きてきて、これほど好天を祈った日は他にあっただろうか。そう思えるくらい天気を気にしていたファンの方も多かったと思います。なんせ、今や説明不要のピンク・フロイド・トリビュートバンド、原始神母によるライブイベントを待ちわびていたのですから。その名も『THE DARK SIDE OF THE MOON 50th ANNIVERSARY 狂気50周年記念イベント 日比谷野音でPINK FLOYD TRIPS』。タイトルを見ただけでも、日本の洋楽史上に大きな1ページを残すこと間違いなしのライブイベントです。そして6月18日、日比谷野音には伝説の「光を求めて」やってきた多くのファンが集結。
その圧倒的な熱量を迎えるようにグッズ売り場も魅力的で、かくいう私もフェイスタオルを購入。
買い物袋はこの日の演目の目玉の一つ、『ライブ・アット・ポンペイ』に出てくる機材ラックのデザインをオマージュしており、コレクター心をくすぐります。

他にもTシャツなど欲しいものはまだまだあるのですが、過去に発売されたグッズも含めて原始神母のサイトで購入できるようです。買い逃した方、当日売店のビール飲みすぎてお財布がスッカラカンになっちゃった方はチェックしてみては!
さて、場内に入ってステージを眺めた瞬間から忘れられない光景でした。目に飛び込んできたのはステージ上部に悠々と佇んでいるドラ。
ライブはピンク・フロイドの1971年のライブ映像作品『ライブ・アット・ポンペイ』の再演からスタート。映像の中ではドラを叩くロジャー・ウォーターズのパフォーマンスも重要なポイントだけに、ライブが始まる前からこのステージセットにテンションがあがります!ステージ上に、カメラ撮影用の照明機器が設置されているという再現度も感動的です。
また、ライブ開演前に流れていた、鳥のさえずりや川のせせらぎのSEは72年や88年のピンク・フロイドの来日公演でも行われていた演出だったようです。
さていよいよ開演時間。『ライブ・アット・ポンペイ』の再演が始まります。

『ライブ・アット・ポンペイ』はイタリアのポンペイにある遺跡で行われた無人ライブを収録した1972年の映像作品。『狂気』発表前の極めて実験精神旺盛な時期におけるフロイドのライブを記録した作品という事もあり、アルバム『ウマグマ』と共に、モンスター・バンドになる前のライブ・パフォーマンスを窺い知れる作品として重宝されてきました。ここ野音で、再演が太陽の下で始まると想像しただけで鳥肌が立ちます。
そしてついにメンバー登場。『ライブ・アット・ポンペイ』の始まりです。
後のアルバム『狂気』のオープニングを思わせる鼓動のSEをバックに鍵盤の大久保治信さんとベーシスト扇田裕太郎さんが登場。

大久保さんによるシンセサイザーの不協和音、それに対峙するような扇田さんによるドラの響きが、さっそくポンペイにトリップさせてくれます。扇田さんは映像作品で見られるロジャーのふてぶてしいアクションも再現。そしてバンドのリーダー木暮"shake"武彦さんをはじめメンバーが次々と登場し、ライブのオープニングを迎えるファンのテンションもクライマックスに!!
1、Echoes Part I
三國義貴さんのピーンという再現度バッチリなピアノの音は、2021年に観た『おせっかい』再演ライブでも鳥肌が立ったものですが、野音に響くこの音色もまた格別です。ピアノと、木暮"shake"武彦さんのスライドバーを使用した美しいギターサウンドが風になびきながら身体に届いてきます。まさに極上の音浴。
そしてイントロが盛り上がってくると、ボーカリスト、ケネス・アンドリューさんが白いスーツで登場し、メインテーマ部分が始まります。
ステージに立つ長髪のメンバーの方々の佇まいときたら、実にカッコいいです。毎日のように体重が1キロ増えた、減ったと一喜一憂している私にとって、ロックはやはりルックスが重要だという事をこれでもかと思い知らされるような光景でした。

三国義貴さんによるオルガンサウンドはヘヴィーに響き、ハードロックのバンドQUATERMASSを思わせるようなカッコよさも感じます。中間部、ギターとオルガンがバトルするインプロ部分では、扇田裕太郎さんのベースが2021年の再演の時よりもファンキーに響きます。それに呼応するようにドライブする柏原克己さんのドラムがグルーヴィーにうねるためか、shakeさんのギターがオリジナル以上にアナーキックで自由奔放に聴こえます。しかし、それでもギルモアワールドを決して崩さない、フロイド愛溢れるプレイなのが、原始神母によるフロイド・トリップの愉しさ。ずっとこのまま聴いていたいと思っていたのも束の間、無情にも時は過ぎていき扇田さんの高速ベースピッキングで「エコーズ」のPART1が終了。
2、Careful With That Axe Eugene
「ユージン、斧に気をつけろ」という邦題が印象的なこの曲を原始神母のライブで体感するのは初めてです。ピンク・フロイドの初来日、箱根公演を体験しているかのようなリアルタイム世代の方も、この再現度に鳥肌が立ったのではと思います。
三国義貴さんのメロトロンと溶け合うように響き渡る、木暮"shake"武彦さんの泣きのギターとコーラス、オクターブベースリフを弾きながら怪しくささやく扇田裕太郎さんのボイス。盛り上がるパートでは、ただ爆発するように盛り上がるのではなくサイケ感をたっぷり残した感じである所が、フロイド心を満たしてくれます。


3、A Saucerful Of Secrets
「このライブの目玉はどこなんだ」と思うほど、全てが見どころになっていると改めて感じたのがこの2ndアルバムのタイトル曲「神秘」。アルバム『ウマグマ』のライブ・バージョンで聴き入っていたような思い入れ度の強いファンも多かったのではと思います。

中盤、柏原克己さんの高速フィルイン・ドラム、三国義貴さんによるフリージャズなピアノ、ポンペイのデヴィッド・ギルモアと同様に座りながらアヴァンギャルドに鳴らす木暮"shake"武彦さんのギター、そしてフロイド・ファンにはたまらない大久保治信さんのフューチャー・ヴィンテージなシンセサウンドに聴き惚れます。

エンディングの勇ましいコーラスではケネス・アンドリューさんが登場。女性コーラスの冨田麗香さんと廣野ユキさんも加わり、迫力あるサイケデリック・サーキットは大円団を迎え、この曲の素晴らしい再演に初期フロイド心が熱くなる名演でした。

4、One Of These Days
「神秘」再演の感動や余韻に浸る間もなく、名曲「吹けよ風、呼べよ嵐」の風の音とベースの音が襲い掛かります。オリジナルのポンペイの映像では、ギタリストのデヴィッド・ギルモアの姿があまり見られないだけに、木暮"shake"武彦さんがスライドバーでストラトを弾く姿に見入ってしまいました。ギターの音色はほんのり先ほどの「神秘」の名残もあり、余韻を壊さないファン心へのディープな配慮がなんともうれしいです。ベースがうねる中鳴り響くshakeさんの開放的なギタープレイは同時にジェフ・ベックも思い起こさせます。

5、Cymbaline

ほんのりと空が夕暮れとなりはじめた時に始まったこの曲。風になびくように響き渡るケネス・アンドリューさんの力強くも美しいボーカルが印象的で、昨年の『雲の影』再演において聴かせてくれたバラードナンバーを思い出しました。木暮"shake"武彦さんによるコーラスがかかったストラトのサウンドが、美しいボーカルをより一層引き立てています。冨田麗香さんのパーカッションが、この再演にコズミックテイストをトッピングしているところも実に微笑ましいです。そして三国義貴さんのメロトロン、大久保治信さんのピアノが溶け合うハーモニー。なんて爽快な野外コンサートなんだろうとうっとりしていると、ベーシストの扇田裕太郎さんが再びドラの前に!ついにあの曲が始まります。
6、Set The Controls For Heart Of The Sun

2ndアルバム『神秘』に入っていた、ロジャー・ウォーターズ作のサイケ・チューン「太陽讃歌」。この曲についてはアルバム『ウマグマ』でのライブ演奏バージョンに聴き入っていたファンも多いかと思います。原始神母による今回の再演は『ウマグマ』、『ライブ・アット・ポンペイ』同様にドラの轟音によってスタート。後追い世代の私にとっては、ロジャーのソロ来日公演でもドラのイントロは味わう事ができなかっただけに、このサウンドを身体ごと浴びられてポンペイ心がマックスになりそうでした。少し琴にも似た繊細な木暮"shake"武彦さんのギターサウンドと三国義貴さんのメロトロンが絡み合い、それを柏原克己さんのマレットを使用したドラムサウンドが力強く支えます。ささやくように歌うケネス・アンドリューさんと、後ろの方で凛々しくドラの前に立つ扇田裕太郎さんとのコントラストはまさに嵐の前の静けさ。フロイドのライブ・バージョンは、中盤に近づいてくるとドラを少しずつ鳴らし始め、ギターとドラムが激しくなり1stアルバムに入っている「星空のドライブ」にも通じるパフォーマンス。原始神母によるライブ・パフォーマンスはその迫力を軽く凌駕します。ドラ、ギター、ドラム、さらにはヘヴィーかつ黒魔術的に会場内を左右に轟かせる三国義貴さんのメロトロン。ステージ上の全てがトランシーに盛り上がっていく様はフロイド・ファンには恍惚の絶頂ともいえる瞬間でしょう。
その驚異的なサウンドは、まるでオーディエンスが太陽の生贄になる儀式に連れていかれたかのようで実にスリリングです。ここまでアトラクティブな再演ライブを、日比谷野外音楽堂という場所で行えるのは原始神母だけでしょう。そして歌に戻ると、儀式の後の呪文のように静かに終わっていきました。身体に貼り付けたくなる程心地よいエコー、力いっぱいにサウンドを炎上させていくバンドのエナジーが織りなす最高のパフォーマンスが凝縮した「太陽讃歌」の再演。この曲が終わる瞬間を見ながら、太陽は更に沈んでいく。本当に至福の時です。
7、Echoes Part II
そして『ライブ・アット・ポンペイ』と同様に2つのパートに分けての再演となった「エコーズ」。沸騰させるかのようなSEに始まり、木暮"shake"武彦さんのスライドバーによるギター、三国義貴さんのシンセが加わり、よりダイナミズムを増幅します。

三国さんによるオルガンサウンドがはじまると、はじけるように大久保治信さんのエフェクトがかかったピアノサウンドが鳴り響きます。この美しさといったらゼラチンの海の上で舞う妖精のよう。またステージ上の撮影用ライトも大きな効果を発揮し、もう最高のポンペイ浴!
バンド全体の盛り上がり部分では、shakeさんの素晴らしいギターカッティング、扇田裕太郎さんのファズがかかったようなベースサウンド、オリジナル以上にヘヴィーな柏原克己さんのドラミングが鳴り響くなか、ケネス・アンドリューさんが登場。扇田さんと共にボーカルをとり、オリジナルより太いshakeさんの泣きのギターと絡み合い、その絡み合いはギターとピアノにリレー中継します。最後はエンディングのSEがビートルズの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」張りに襲い掛かる、ど迫力な「エコーズ」の再演でした。原始神母による『ライブ・アット・ポンペイ』の再演は、二度と忘れられない名演となりました。
第一部の『ライブ・アット・ポンペイ』の再演が終わった後に木暮"shake"武彦さんが放った言葉に、このライブの素晴らしさが集約されていたと言えるでしょう。
「21世紀の東京のど真ん中で、こういう音楽が流れるのは爽快な気分」
原始神母による、初夏に催された最高のフロイド再演ライブ・第一部の内容をお送りしました。さて次回は第二部、夕暮れから夜が更けるまで野音で放たれた『狂気』の全曲再演の模様をお贈りします!
さて、このブログを見て、原始神母のライブを見たいと思った未体験の方、当日いけなかった方のために、実にうれしいニュースを一つ。
原始神母の歴史的なステージングを大阪にて体感できるイベント『狂気50周年記念イベント〜Pink Floyd Trips in Osaka〜』が8月26日(土)に開催されます。

会場も昭和洋楽心をくすぐる外観と内装が魅力のホール「味園ユニバース」というこだわりです。主な内容は第1部にフロイドのライブ映画『ライブ・アット・ポンペイ』の再演、第二部は言わずと知れた名盤『狂気』の再演。第1部ではColo Müller率いるVJクリエイター集団「COSMIC LAB」とのコラボが実現し、ポンペイの遺跡が、狂気のプリズムがサイケデリックに蘇ります。実験精神が旺盛な時期のフロイドを、独特な会場のムードのなか映像演出と共に再演ライブが進行するという、ウルトラトリップできること間違いなしの公演。先日の公演に来られなかったファンの方はもちろん、日比谷野外大音楽堂でのステージを見た方も、恍惚と興奮が行き交うセンセーショナルなステージを体感してみてはいかがでしょうか!
■ THE DARK SIDE OF THE MOON 50th ANNIVERSARY 狂気50周年記念イベント
〜Pink Floyd Trips in Osaka〜
2023/8/26 (Sat)
Pink Floyd Trips in Osaka
[第一部] ライブ・アット・ポンペイ
[第二部]「狂気」全曲再現+・・・
チケットなどの詳細はホームページをチェック!
原始神母 LIVE INFORMATION / ライブインフォ
■ 原始神母
『THE DARK SIDE OF THE MOON 50th ANNIVERSARY 狂気50周年記念イベント〜 日比谷野音でPINK FLOYD TRIPS〜』

原始神母 メンバー(敬省略)
木暮"shake"武彦(Guitar)
三國義貴(Keyboards)
大久保治信(Keyboards)
扇田裕太郎(Bass, Guitar, Vocals)
柏原克己(Drums)
ケネス・アンドリュー(Lead Vocals)
冨田麗香(Chorus)
廣野ユキ (Chorus)
ラヴリー・レイナ(Chorus)
画像提供:原始神母
最後に!サウンドハウスで取り扱っているフロイド心をくすぐるアイテムをここでひとつ!
HELLFORLEATHER ( ヘルフォーレザー ) / Real-DG
デイヴ・ギルモアモデルのレザーストラップ。ギルモアの赤のストラトに装着されている物と同様の仕様になっています。両端のエンドピン穴ピッチは約121、124cm。
これをつけてブライアン・フェリーの「Slaved To Love」を弾きたい。