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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ピンク・フロイド編 ~音楽を彩った電気鍵盤とシンセ名盤~ その4

2020-07-08

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

今回取り上げるのは「ピンク・フロイド」とキーボーディストのリック・ライト(Richard William Wright)です。ピンク・フロイドの名盤、名曲、キーボードプレイの聴きどころをご紹介します。


■ピンク・フロイド創世記

プログレッシブ・ロックの雄といえるのがピンク・フロイドです。ピンク・フロイドは1967年にイギリスでファースト・アルバムをリリース。「シー・エミリー・プレイ」がシングルヒットしました。メンバーはリック・ライト(key)、シド・バレット(g)、ロジャー・ウォーターズ(b)、ニック・メイスン(Dr)の4人(後にギタリストはシドからデヴィッド・ギルモアに交代)。ピンク・フロイドはイエスのようなテクニカルなバンドではなく、音楽的コンセプトを分かりやすい形でアルバムに反映させたバンドです。その真骨頂はアルバム『狂気(The Dark Side of the Moon)』で聴くことができます。


■ピンク・フロイド / キーボード奏者:リック・ライト&使用機材

リック・ライトの使用楽器、70年代当時はミニモーグシンセサイザー、EMSシンセサイザー、ハモンドオルガン、ファルフィッサーオルガン、メロトロン、ウーリッツアーエレクトリックピアノ、生ピアノなど。

MiniMoog synthesizer(イメージ)

MiniMoog synthesizer(イメージ)

リック・ライトもミニ・モーグを好みました。また、EMSシンセサイザーも使用しています。EMSシンセサイザーは操作パネルにマトリックス方式を用い、ピンを刺して音作りをします。SE(サウンド・エフェクト)的サウンドに特化した機材として使われました。EMS サウンドは『狂気』の「走りまわって(On the Run)」などで聴くことができます。


■リック・ライトの音楽性

リック・ライトは技術を前面に出すミュージシャンではありません。テクニカルな演奏はピンク・フロイドには必要ありませんでした。ライトはバンド全体を包み込み、幻想的ムードを楽曲に加えることを得意としていました。リックはジャズを好み、アルバム『狂気』の「虚空のスキャット(The Great Gig in the Sky)」ではテンションノートである9thを上手く使ったピアノバッキングもしています。また、アルバム『神秘(A Saucerful Of Secrets)』ではコード展開だけで聴かせるパートもあります。ライトは楽曲を際立たせるには「何」が必要かを分かっている音楽家でした。

ピンクフロイド『神秘』

ピンクフロイド『神秘』(1968年)


■推薦アルバム:『原子心母(Atom Heart Mother)』(1970年)

『原子心母(Atom Heart Mother)』

推薦曲:「原子心母(Atom Heart Mother)」

ピンクフロイド5枚目のアルバム。ヒプノシスのアートワークでも知られる。アルバムはイギリス初の1位を獲得。オーケストラを全面に出したタイトル曲は、これがロックか?と思わせる壮大さがあり、曲中に弦楽器の奏でるテーマにハモンドオルガンによるコードの分散和音で聴かせるパートは必聴。単調なメロディーを繰り返すが、コード進行が美しく、まさにピンク・フロイドの世界が展開されます。


■推薦アルバム:『おせっかい(Meddle)』(1971年)

『おせっかい(Meddle)』

レスリースピーカー

推薦曲:「エコーズ(Echoes)」

ピンク・フロイド6枚目のアルバム。アルバム最大の聴きどころは楽曲「エコーズ」で20分を超える大作。リリース当時、曲頭の「キッ」という音は一体何の音だ?と話題になりました。この曲を象徴するかのような不思議な音は生ピアノをオルガン用に使う「レスリー・スピーカー」に入れて録音したもの。レスリースピーカーはタンスのような形をしていて内部に回転するホーン型のスピーカーがあり、このスピーカーを早回しにしたり、遅く回転させたりして独特なオルガンの音を作るスピーカー。

エコーズ冒頭の音は生ピアノをこのレスリーに入力し、ホーンを高速回転させて録音したものと思われます。この音、素敵ですから必聴!です。「音」だけで楽曲のムードを決めてしまうのがピンク・フロイドのフロイドたる所以ですし、リック・ライトの創造性の高さを知ることができます。


■推薦アルバム:『狂気』(1973年)

『狂気』

推薦曲:「走り回って」

ピンク・フロイドの最高傑作、『狂気』は商業的にも音楽的にも大成功を収め、ビルボードチャートのトップを獲得。1973年から1988年までの741週間チャートインしたという「お化けアルバム」で、特筆すべきは楽曲の素晴らしさとアイディアあふれるSE(サウンド・エフェクト)との融合です。
フロイドはこのアルバムから大々的にシンセサイザーを導入。「コインの落ちる音」や「心臓を思わせるシンセ音」、「人が走る音、吐息」など、SE(サウンド・エフェクト)を効果的に使い、ブログレッシブな世界を演出しています。
「走り回って」ではEMSシンセサイザーのシーケンサー(自動演奏装置)を使っています。単純なパッセージの機械的リフレイン(当時のシンセでは10音程度が限界だった)に足音や吐息が被ると見事なピンク・フロイドの世界になります。このフレーズにシンセフィルターの変調をかけ、リアルタイムで音色を変化させています(グロール効果)。今となってはアマチュアでも簡単に作れる音と曲ですが45年以上前にこの音を聴いたフロイドファンは思考停止状態に陥りました。


■推薦アルバム:『炎~あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』(1975年)

『炎~あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』

推薦曲:「狂ったダイヤモンドパートⅠ&Ⅱ(Shine On You Crazy Diamond)」

名盤、『狂気』の後、大きなプレッシャーを背負い、リリースされたアルバム。
「狂ったダイヤモンド」はかつてのメンバーである、シド・バレットへのオマージュ曲。パートⅠ、Ⅱともミニモーグの管楽器を思わせる太く、存在感のある音がテーマを唄います。モーグ特有の音色です。単純で分かりやすいメロディーを唄うシンセサイザーの音色は発信機(オシレーター)自体に存在感のあるミニモーグだからこそ、耐えうるものです。ミニモーグを多くの音楽家が選択する理由がここにあります。
もう1つ、リック・ライトのボーカルの素晴らしさについてコメントし、このコラムを終えます。リックのボーカルはフロイドのフロイドらしさを演出するもので『おせっかい』の「エコーズ」や『狂気』の「タイム(Time)」のサビをリックが歌っています。フロイドらしいメロディーはリックのボーカルに支えられているといっても過言ではありません。そして、あのタッチはリックのボーカルでしか出せないものなのです。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、楽曲など

  • ピンク・フロイド / リック・ライト
  • アルバム /「原子心母」「おせっかい」「狂気」「炎~あなたがここにいてほしい」
  • 曲名:原子心母、エコーズ、走り回って、狂ったダイヤモンド
  • 使用楽器:ミニモーグ、EMSシンセサイザー、ハモンドオルガン、メロトロン、ウーリッツァー電子ピアノ、生ピアノなど

鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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