世界を駆けたデジタルシンセサイザーブームの火付け役
エレクトリックピアノを用いた名盤とその時代背景などをテーマにお送りしている鍵盤狂漂流記ですが今回は 前回 に続き、デジタルシンセサイザーの革命とも言われたヤマハDX7が出すエレクトリックピアノの音、DXエレピをテーマにした第2弾です。
世界中のミュージシャンから愛されたDX7。発売以降はその音質と利便性、低価格という背景から、何の楽曲を聴いてもDXエレピという現象がおきていました。
今回もDXエレピをテーマにしたよもやま話です。

ヤマハDX7 出典:ヤマハHP
更なる革新!DXの最終兵器、DX7Ⅱの登場。理想の進化系現る!

DX7Ⅱ 出典:ヤマハHP
大ヒットシンセサイザーDX7の音源部分が2台分に増設されたヤマハ渾身のデジタルシンセDX7Ⅱ。ヤマハではDX7、2台分の音源を内蔵したシンセサイザー、DX5というシンセ、更にDX5の機能がパワーアップされたDX1という最高級機もラインナップされていました。しかしDX1は当時1,980,000円、51kg、DX5は598,000円、19kgと高価で重かった為、普及することはありませんでした。
3年後にリリースされたDX7Ⅱはユーザーが待ちに待ったドリームマシンでした。
DX5と同じ機能でDX7と同等の価格(258,000円)!
更にフロッピーディスクを装備したDX7FD(298,000円)も同時発売されました。メモリーする音色が格段に増えました。
音源が2台分になったことの利点はDXエレピを弾くユーザーにとっては朗報でした。
DXエレピ音を重ね、ピッチを僅かにズラすことで音に厚みや深みを加えることができ、DX7Ⅱはユーザーにとっては夢のようなデジタルシンセサイザーでした。これまでのシンセサイザーの歴史を振り返ると私はヤハマDXシリーズのリリースこそが最大のエポックであったと考えています。

ヤマハDX1 出典:ヤマハHP

ヤマハDX5 出典:ヤマハHP
■ 推薦アルバム:TOTO『ファーレンハイト』(1986年)

1986年リリースのTOTO 6枚目のアルバム。リード・ヴォーカルがファーギー・フェレデリクセンに変わり、作曲家のジョン・ウイリアムスの息子であるジョセフ・ウィリアムズが参加している。アルバムにはマイケル・マクドナルド(cho)やデイヴィッド・サンボーン(sax)、ジャズトランペットの巨匠マイルス・デイヴィス(tp)も参加し、話題をまいた。
とはいえゲストの影は薄く、楽曲も含め、あくまでTOTOの音になっている。
このアルバムではDXエレピが大活躍しているが、打ち込み中心の楽曲ではベース音としてもDXが使われている。
DX7のベース音はその音の太さからミニモーグに対抗するシンセベースとして使っているミュージシャンも多い。DXはエレピだけでなく、ベース音としても求心力の高いデジタルシンセサイザーとして知られている。
推薦曲:「アイル・ビー・オーバー・ユー」
TOTOバラードの名曲と言われる楽曲。全編でDXエレピが使われている。基本的なピアノバッキングだけではなく、オブリガートではDXエレピに加えてDX7の別の音色を組み合わせた音も聞こえてくる。
1981年にMIDI(ミディ)というデジタルインターフェイスが公開される。デジタルシンセサイザーとデジタル機器などをケーブルでつなぎ、マザーキーボード側の演奏情報をスレーブ側でも同時に発音させることができた。DX7あたりのデジタルシンセサイザーにはIN、OUTなどのMIDI端子が付いていた。このMIDIの出現でデジタルシンセ同士をつなぎ、2台以上のシンセサイザーを同時に発音させる試みが増えていくことになる。
TOTOのキーボーディストであるデヴィッド・ペイチとスティーヴ・ポーカロはヤマハのモニターを担っていたことからヤマハ側のサポートでMIDI機能を様々な形で楽曲に反映させていたことが想像できる。

MIDI(ミュージック・インストゥルメント・デジタル・インターフェイス), CC BY-SA 3.0 (Wikipediaより引用)
この楽曲のプロモーション・ビデオではTOTOのメンバーが屋上で演奏する為、機材をビルの屋上に運ぶというシーンから始まる。そこにはデヴィッド・ペイチやスティーヴ・ポーカロがDX7をセッティングするシーンがインサートされている。
楽曲を彩る煌びやかなDXエレピの波及効果は凄まじく、新しい音楽を創造するTOTOのイメージと相まってバラード演奏のスタンダートな音として1つの時代を築き上げることになる。
推薦曲:「ティル・ジ・エンド」
ファンキーな16ビートの楽曲である「ティル・ジ・エンド」では、TOTOのマストアイテムでもあるブラス音も聴くことができる。TOTOのブラス音はオーバーハイムではTOTOホーンとしてクレジットもされていることからTOTOの専売特許的な側面がある。新たなデジタルシンセがリリースされ、TOTOホーンにも前述したMIDIでDX7が使われていることが想像される。というのはTOTOホーンの音も以前のアルバムとは変化している為だ。
DX7はプリセット音の1番に入っているのがブラス音だった。ヤマハとしては相当自信のあったプリセット音であることが推察される。この音も今までのアナログシンセサイサーでは聴けない音だった。TOTOはこれまでのヤマハCS80のブラス音やオーバーハイムエクスパンダーの音だけではなく、DX7の煌びやかなブラス音を混ぜたことが考えられる。
このアルバム『ファーレンハイト』がリリースされたのは1986年。後継機であるDX7Ⅱがリリースされた年でもある。
「ティル・ジ・エンド」のプロモーション・ビデオではキーボーディストのデビッド・ペイチやスティーブ・ポーカロがDX7Ⅱをプレイしている姿が数カット差し込まれている。
この楽曲でのDXエレピもメローなサビの部分で聴くことができる。DXエレピのキラキラした音が空間を染めると楽曲に一種独特の空気感と奥行きが生まれる。空間系のエフェクトののりも素晴らしく良い。この辺りがDXエレピの真骨頂ではないかと思う。
楽曲途中、デビッド・ペイチが弾くエレピのフィルインシーンではDX7Ⅱの真上からのカットがアップサイズでインサートされる。「是非もの」、「案件」カットに違いないと私は思っている(笑)。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:TOTO、デヴィッド・ペイチ、スティーヴ・ポーカロなど
- アルバム:『ファーレンハイト』
- 推薦曲:「アイル・オーバー・ユー」「ティル・ジ・エンド」
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