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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ヤマハDX7編 ~音楽を彩った電子鍵盤とシンセ名盤の数々~ その34

2021-04-23

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

今回のテーマはシンセサイザーの名器、ヤマハがリリースしたDX7です。シンセサイザー有史に残る大傑作のシンセサイザーです。今回はDX7を導入したミュージシャンと名盤をご紹介します。

シンセサイザーの概念を根本から変えたヤマハDX7

■ヤマハDX7は1983年に発売。様々な意味でシンセサイザーの様々な概念を変えてしまった楽器です。これまでシンセサイザーは波形をフィルターで削り音を作るアナログ方式でした。
DX7の仕組みはアナログに対しデジタルになりました。ヤマハが採用したのはFM音源。FM音源とはフリケンシーモジュレーション、周波数を変調する方式でスタンフォード大学、チョーニング博士の技術を基にしています。このFM音源により、アナログシンセサイザーでは出すことができなかった。金属系の非整数倍音を含んだ音を出すことが可能になりました。
アナログシンセサイザーでは出せなかったエレクトリック・ピアノの音、フェンダー・ローズピアノに似た音が出せるようになり、DXエレピとして世界中のミュージシャンがこの音を使い、一世を風靡しました。
また、アナログシンセサイザーに付いていたツマミやスライダーなどを極力排し、 タッチ式のスイッチになりました。シンセサイザーパネルはツマミ、スライダーだらけでメカニカルなイメージでしたが、スッキリした近未来的なデザインになりました。

■スペックも飛躍的に向上しました。DX7同時発音数は当時のアナログシンセサイザーで8ポリが最高だったのに対し、16音ポリフォニックという驚異的なスペックを実現しました。

■メモリー容量はデジタル化の恩恵で音色メモリー32音色を記憶する内部RAM(ランダム・アクセス・メモリー)バンク、64色が保存されたメモリーROM(リード・オンリー・メモリー)カートリッジが2つ付属されました。別売のRAMカートリッジを購入すれば更なる音色の保存が可能になりました。また、ボイスネームを表示するLEDディスプレイが導入され、MIDI端子も装備されました。プレイヤーの息で変調をするブレスコントローラーも付属されました。これで価格が248,000円ですからヒットしない訳がありません。DX旋風は世界を席巻しました。受注が間に合わず、私も3か月程待った記憶があります。

■ヤマハは以前にCS-80 というポリフォニックシンセサイザーの銘器を作っています。しかし、CS-80はあまりにも大きく、重く、128万円という価格はアマチュアが使うには現実的ではありませんでした。しかし、DX7は25万円以下で重量も10キロそこそこで持運びも容易になり、アマチュアでも手が届く楽器になりました。DX7はプロとアマチュアの垣根を取り払った歴史的シンセでもあった訳です。鍵盤も現在のコストカットされたものとは異なる弾き易い鍵盤でした。鍵盤楽器の宗家であるヤマハの矜持を感じる素晴らしい仕上がりでした。私が弾いたシンセサイザーの鍵盤の中ではDXの鍵盤クオリティはベストだったと思います。

■DX7はこれまでのアナログシンセサイザーでは出すことのできなかった音を出す魔法の様なシンセサイザーでした。その代表的な音色はエレクトリックピアノ系、スティールパンやグロッケン、カリンバ等の金属打楽器系、マリンバ、シロフォン等の木琴系の音、極太のベース音等です。

■ 推薦アルバム:スティング『ブルータートルの夢』(1985年)

ポリス解散後のスティングのファーストアルバムにして最高傑作。英国人ミュージシャンとアメリカ人若手ジャズメンの邂逅は歴史に残るアルバムを生み出した。スティングのくぐもった声質と優れた楽曲に元ウエザーリポートのドラマー、オマー・ハキム、元マイルス・バンドのベーシスト、ダリル・ジョーンズ、ウイントン・マルサリスの弟、ブランフォード・マルサリス(SAX)、マルサリスグループで著名ジャズマンと共演歴が豊富なケニー・カークランドという最強の面子が花を添える。このアルバムに散りばめられたジャズのテイストはスティングのロックな楽曲に奥深い陰影を与えている。提示した推薦曲も素晴らしいが、このアルバムには捨て曲が無い。タイトル曲「ブルータートルの夢」はセッション性が高いモロジャズな曲。その後に続く「バーボンストリートの月」も素晴らしい曲。スティングの高い音楽性を垣間見ることができる。

推薦曲:「LOVE IS THE SEVENTH WAVE」

イントロからカリンバを思わせるDX7の音から始まる。この音こそがDX7が出す真骨頂といえる。ケニー・カークランドのリズムの良さが光るレゲエな楽曲。明るい曲なのにある種の重さと影を感じるのは英国人であるスティングの声質によるものか?

推薦曲:「SHADOW IN THE RAIN」

ケニー・カークランドによってプレイされる間奏部分がDXエレピの音。殆どエディットせずにファクトリープリセットのままを使っていると思われる。ケニーのリズムの良さ、ノリが最高のソロを演出している。また、エレピはチョーキングができないが、ケニーはDXエレピソロにベンディングプレイを織り交ぜ、素晴らしいソロを展開している。数少ないシンセソロの名演の1つ。


今回取り上げたシンセサイザー、ミュージシャン、推薦アルバム、推薦曲

  • 使用楽器:ヤマハDX7
  • ミュージシャン:スティング
  • アルバム:「ブルータートルの夢」
  • 推薦曲:「LOVE IS THE SEVENTH WAVE」「SHADOW IN THE RAIN」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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