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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その157 ~隠れ名盤探索 衝撃のレゲエ!ボブ・マーリー~

2023-10-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

不定期の隠れ名盤探検隊

今回の鍵盤狂漂流記は前回のパートに少しだけ登場したボブ・マーリーをテーマに取り上げます。

カリブ海に浮かぶ小国であるジャマイカで土着ミュージックから派生した音楽、レゲエ。裏拍が強調された独特なビートを持つ音楽は多くのミュージシャンから支持され、世界を席巻するには多くの時間は必要ありませんでした。そこにはレゲエのレジェンド、ボブ・マーリーというミュージシャンの存在がありました。

新種の音楽だったレゲエ

長いトンネルを抜けたエリック・クラプトンが1974年にリリースしたクラプトン名義のソロアルバム『461オーシャン・ブールヴァード』。全米で1位を獲得し、クラプトンの復帰の狼煙はこのアルバムから上がりました。

『461オーシャン・ブールヴァード』/エリック・クラプトン

名盤との評価が高いこのアルバムに、当時では耳慣れない音楽が収録されていました。楽曲のタイトルは「アイ・ショット・ザ・シェリフ」。その音楽はレゲエというジャンルで、曲を書いたのはジャマイカ出身のミュージシャン、ボブ・マーリーでした。
エリック・クラプトンがカバーした「アイ・ショット・ザ・シェリフ」はビルボードチャートを駆け上がり、全米1位を獲得。認知されていなかったレゲエという音楽が表舞台に出るキッカケになりました。
とはいえこの「アイ・ショット・ザ・シェリフ」は実際のレゲエミュージックからはかなりの距離がありました。当時のこの音楽を聴いたリスナーたちは、楽曲の良さと珍しいリズムに惹かれ、未知の音楽だったレゲエを受け入れました。しかし実際のレゲエを受け入れた訳ではなく、「ロックスターであるエリック・クラプトンの新しい音楽」を受け入れたという背景が強かったのだと思います。ポップミュージックとしてはキャッチーであり、好まれる楽曲だったという背景があったのかもしれません。
裏を返せばレゲエミュージックもポップミュージックも曲の良さがその行方を決めると言っても過言ではありません。
ボブ・マーリーが創作したレゲエミュージックには人の心に入り込むある種の普遍性があったのはないかと私は考えています。

ボブ・マーリーが来日した際、私はアルバイトでこのバンドのローディをするために中野サンプラザを訪れました。 なにやらやたらと煙いステージにアンプ類を運び、そして凄まじい音楽に触れることとなりました。

■ 推薦アルバム:ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『ライブ!』(1975年)

1975年にリリースされたボブ・マーリー&ウェイラーズの歴史に残る名盤。
1976年に聴いた私の感想は「ピンとこない」というのが正直なところ。当時、イエスやピンク・フロイドといった構築された音楽を聴いていたためだ。ボブ・マーリーとウェイラーズの音楽はその対極。泥臭く、土着的であり、粗野なムードがレコードにはパッケージされていた。ある種の嫌悪感覚えたと言っても過言ではない……
しかし聴き込むにつれ、中毒のように取りつかれてしまう魅力がこのアルバムにはあった。その魅力こそがレゲエの魅力なのだ。
とにかく熱い。商業化された音楽にはない未知な魅力に溢れている。ボブ・マーリーが伝えたかったメッセージが音のかたまりとなってダイレクトに押し寄せてくる。こういう音楽を今まで聴いたことはなかった。
この後、私はレゲエという音楽にハマり、さらなるレゲエミュージックの洗礼を受けることになる。
耳あたりの良い音楽に毒されていたリスナーにとって衝撃的な音と楽曲だったはず。
アルバムには初期のボブ・マーリーの代表曲である「ゲット・アップ、スタンド・アップ」「ノー・ウーマン、ノー・クライ」「アイ・ショット・ザ・シェリフ」などがクレジットされている。

推薦曲:「アイ・ショット・ザ・シェリフ」

エリック・クラプトンの「アイ・ショット・シェリフ」とは全く別な音楽と言っていい。クラプトンのアルバム収録曲にはポップスの味付けが施され、レゲエ本来の泥臭さはオブラートにくるまれている。
一方、ライブの「アイ・ショット・シェリフ」はどうだろう。ポップスの化粧をはぎ取ったオリジナルの強さを感じる。それに加え楽曲の良さにも頭が下がる。イントロからサビやそれ以降の展開など、クラプトンのそれよりも入り組んでいる部分もある。例えばクラプトンの「アイ・ショット~」にはないイントロ後にフレーズが入っていたり、サビから始まる楽曲は最初にマーリーは歌わず、女性コーラス隊が歌う。Aメロからマーリーが歌っているなど、構成も異なっている。楽曲としてはマーリーの方に軍配が上がる。
ボブ・マーリーの音楽全般に言えることだが、ライブ録音になるとレゲエとしての強さがより強調されダイナミックな展開になる。
ウェイラーズのキーボーディストはタイロン・ダウニー。ハモンドC-3とフェンダーローズ・ピアノ、ホーナーのクラビネットがメイン機材。特にハモンドオルガンの音がウェイラーズサウンドの中核を担っているのが分かる。

推薦曲:「ノー・ウーマン・ノー・クライ」

レゲエバラードの傑作。これまでにこういった曲を商業音楽のジャンルで聴いたことはなかった。レゲエが持つ空気感を纏った美しいバラードだ。ボブ・マーリー作り出したメロディラインをマーリーとコーラス隊が一体となって紡ぎ出す様は感動的ですらある。タイロン・ダウニーのハモンドが美しく響く。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ボブ・マーリー、エリック・クラプトン、タイロン・ダウニーなど
  • アルバム:『461オーシャン・ブールヴァード』『ライブ!』
  • 曲名:「アイ・ショット・シェリフ」「ノー・ウーマン・ノー・クライ」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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