
1978年、セックス・ピストルズを脱退したジョン・ライドンが結成した実験的なニューウェイヴ・ユニット、パブリック・イメージ・リミテッド(以下P.I.L.)。2018年は1st シングル「パブリック・イメージ」のリリースから40年という、バンドにとって大きな節目。
バンド初のドキュメンタリー映画の制作、これまでの活動を収めたレア音源や、映像のボックスセットのリリースなど、UKロック・ファンの間で改めてP.I.L.の作品に、再評価の目が向けられています。
今回の来日を含んだワールドツアー「PUBLIC IMAGE IS ROTTEN」も、この40周年記念として行われたもの。日本のファンにとっても伝説の初来日から35年という歳月の早さに、感慨深く足を運んだ方も多かったことと思います。

2018年7月3日、六本木EXシアターの会場に入ると、P.I.L.初期からのファンとおぼしき人から、若い人まで幅広い客層で埋め尽くされておりました。

ライブ会場内のグッズ売り場では、最新デザインのP.I.L.ロゴTシャツとタオルなどが販売されていました。黄色ロゴTシャツは、日本限定で発売されたボックスCDセットを彷彿させるデザイン。

ホール内に入ると、スキンヘッド・レゲエとおぼしき、ルーディーなBGMが場内に流れていました。ビールを飲みながら聴き入っていると、開演時間があっという間にやってきました。
オープニングはアルバム「9」(1989年)からのシングル「WARRIOR」でスタート。
40年間、様々なトラブルと格闘しながらたどり着いた、今のP.I.L.を東京のオーディエンスに見せつける記念すべき瞬間。始まった時のジョン・ライドンは、いつも以上にシリアスな表情に見えました。
そんな記念すべきライブはデビュー曲から最新アルバムのナンバーまで、シングル曲、代表曲を中心に、テンポよく進んでいきます。
この日のジョン・ライドンによるMCは、異国の地ということを差し引いても実に少なく、じっくりとP.I.L.の歴史を聴かせていくライブが進んでいきます。P.I.L.史上最も息の長いメンバー構成によるアンサブルの素晴らしさは、既に以前の来日公演でも立証済み。実際この日の演奏も、クリエイティブなアップセッターズ(騒乱集団)という感じのノリが楽しめて、実に痛快です。
メンバーはジョン・ライドンの他に、ルー・エドモンズ(ギター、元ダムド)、スコット・ファース(ベース、エルビス・コステロ、スパイス・ガールズ)、ブルース・スミス(ドラム、ポップ・グループ、ザ・スリッツ)という布陣。
ルーとブルースはP.I.L.の「HAPPY?」(1986年)に参加していたメンバーなので、今回のライブのセットリストに、同アルバムからの「BODY」が披露されたのを喜んだファンも多かったと思います。
代表曲が中心の内容ながらも、日本では初演奏となった、最新アルバム「WHAT THE WORLD NEEDS IS NOW」の「THE ONE」は甘美なメロディーとギターワーク。グラム・ロックがパンク以降のニュー・ウェーブに与えた影響の大きさを改めて感じます。マークボランへの憧憬と愛情溢れる、忘れられないパフォーマンスです。1992年のアルバム「THAT WHAT IS NOT」、シングル曲「CRUEL」も日本初披露。このアルバムのリリース時に来日が叶わなかったので実に感動的な選曲です。
今回のライブで最も興味深かったのは、ジョン・ライドンが今までにも増して、各曲に込められたメッセージを強調するかのように、丁寧に歌っていることでした。英語がそんなに堪能ではない私でも、各曲の言葉が耳によく入ってきます。
特に1986年のアルバム「ALBUM」に収録された「RISE」。
「サウンド&レコーディング・マガジン」の2017年3月号でも、この曲と「ALBUM」制作過程の記事が掲載されており、ここ日本でも「RISE」という曲の素晴らしさが、より幅広い層に伝わってきているようです。ジョン・ライドンによると、当時のアパルトヘイト政策を題材にしたという、実にエモーショナルな名曲です。曲中の「ANGER IS AN ENERGEY(怒りはエネルギー源)」の大合唱は、P.I.L.のライブではおなじみの光景ですが、ここでのライドンのボーカル(メッセージ)の力強さは実に感動的なものでした。この曲のレコーディングに参加していた坂本龍一教授も会場内にいたら嬉しいですね。
ライブは、1993年のシングル「OPEN UP」と最新アルバムから「SHOOM」のメドレーといった一大レイブ・パーティー・チューンで、大円団を迎えて終了。

今こそ良音質で聴きたい不朽の名曲「RISE」
帰宅して、真っ先に聴きたくなったのは、やはり「ALBUM」に収録された「RISE」。
当時のバンド・メンバーと袂を分かち、ニューヨーク・マテリアル集団のベーシスト、ビル・ラズウェルによるプロデュースの元制作された名作です。ギターにスティーブ・ヴァイ、シンセサイザーに坂本龍一、ドラムにジンジャー・ベイカーなど、一流のミュージシャンによる分厚いプロダクション。そんな鉄壁のハード・ロックにジョン・ライドンのドスの効いたボーカルが対峙していく様がスリリングです。
この日の感動をできるだけ良い音質で追体験したい・・・そう思い、何か簡単にできないか考えました。
今回は私の小型オーディオ・スピーカーの下にAURALEXのスピーカー用防振材MoPADを敷いてみました。

本来、レコーディングスタジオ用のモニター・スピーカー向けのアイテムですが、自宅のオーデイオで再生してみたところ、各楽器の音が強調されたように迫力が増しています。無駄な振動を吸収してくれているおかげもあって、「RISE」ではスティーブ・ヴァイのギターサウンドが、よりリアルに迫ってきます。ライドンのボーカルとヴァイのギターの絡みが、衝撃的に鳴り響きます。そんなに大きな音でなくても、その曲が持つエネルギーやダイナミズムを楽しむことができるのが実に嬉しいです。
ビル・ラズウェルのプロデュース力と、徹底したエンジニアリングによるサウンドのこだわりが、いかに凄まじいものだったかを、改めて思い知らされました。
このMoPADを敷いて今度は、「ALBUM」と双璧をなすP.I.L.の名作「METAL BOX」をはじめ、いろいろなレコードの再生で試しながら、名曲たちの魅力、そしてMoPADの有無で音がどのように変化するか迫っていきたいと思います。
さて最後に、我々P.I.L.ファンが40周年の祝祭に酔いしれる、バンド初のドキュメンタリー映画について。初代ドラマーであるジム・ウォーカーを筆頭とする歴代メンバーの証言や、かつてメンバーのオーディションをうけたこともあるという、レッチリのフリーのコメント等々…。
ファンのみならず、80年代以降のロック・ファンにとっても実に興味深い内容になっているようです。映画の日本公開を待ちわびながら、トレーラー映像をお贈りして、このブログの筆を置きたいと思います。
THE PUBLIC IMAGE IS ROTTEN (2018)
■P.I.L.紹介ブログはこちら→「80年代にセンセーショナルな歴史を残したP.I.L.初来日公演 - 第1回リアルタイムのファンに聞くニッポン洋楽ヒストリー」