サイモン&ガーファンクルは大成功アルバムからソロへ パートⅤ
サイモン&ガーファンクルという奇跡的デュオはアルバム「明日に架ける橋」を最後に消滅します。2人の音楽的スタンスやアート・ガーファンクルの俳優志向も重なり、圧倒的成功を手にした2人はサイモン&ガーファンクルという音楽活動に終止符を打ちました。
大成功を収めた後のミュージシャンの末路はあまり褒められたものではなく、2人の活動消滅はある意味で正解だったのかもしれません。リスナーが期待するのは傑作アルバムを超えるアルバムです。多くのミュージシャンが通らなければならない過酷な通過点でもあります。しかし大概の場合、傑作アルバムを超える作品は制作されていません。ミュージシャン自身もその時点では自分が何処にいるのかを分かっている訳ではなく、それなりのアルバムは制作できても次があると考えるのが普通です。一方で大成功という名声に潰れてしまうミュージシャンもいます。傑作アルバムが頂点であるかどうかは未来が来なければ分かりません。そういう意味で時間は残酷なものです。
イーグルス「ホテル・カリフォルニア」、アース・ウインド&ファイアー「太陽神」、ウエザー・リポート「ヘビー・ウエザー」、ピンク・フロイド「狂気」、イエズ「危機」、ドゥービー・ブラザーズ「ミニッツ・バイ・ミニッツ」、マイケル・ジャクソン「スリラー」、スティーリー・ダン「彩」など、大成功時には分かりませんが、その後を見るとあのアルバムが頂点だった…というのは歴史が証明するところです(私は傑作の1つ前のアルバムが好きですが…)。
サイモン&ガーファンクルもその例以外では無かったと思います。2人が歩んできた歴史の中で「明日に架ける橋」はナンバーワンであり、その後アルバムを出したとしても「明日に架ける橋」以上のものができたかは甚だ疑問です。
2人がとった行動はソロ・アルバムに向かう事でしたし、それは極めて自然な流れだったのだと思います。
■ 推薦アルバム:ポール・サイモン『ポール・サイモン』(1972年)

サイモン&ガーファンクル活動消滅の後の2年後、1972年にリリースされたソロ・アルバム。
ポール・サイモンはアルバム「明日に架ける橋」の大ブレイク後、ソロ・アルバムのリリースのためにジャマイカなどに音楽的ネタを求めに赴きます。この辺りの行動は楽曲「コンドルは飛んでいく」の南米ネタと被る部分があります。ポールは自身の音楽に別の音楽的要素を取り入れるのがとても上手いミュージシャンです。彼の頭にはジャマイカやペルー、ニューオリンズなど、様々な音楽的色彩パレットがスタンバイされており、そのパレットをミュージシャンにも広げ、数えきれない色彩を紡いでいきます。加えてポールの凄いところはそのパレットを自分自身の色彩に変えてしまうというところです。
このアルバムにはポールがサイモン&ガーファンクルとは位相の異なるパレットが使われ、それが音楽に反映されているのが分かります。
推薦曲:「母と子の絆」
ポール・サイモンが音楽的ネタを求めて渡ったのはカリブ海に浮かぶ島、ジャマイカだった。ジャマイカといえば「レゲエ」。1972年当時は「レゲエ」という音楽も世に知れてはいなかった。エリック・クラプトンが『461オーシャン・ブルーヴァード』でボブ・マーリーの「アイ・ショット・シェリフ」をカバーし、全米1位のシングル・ヒットになったのはこのアルバムリリースの2年後、1974年のことだ。
ポール・サイモンはジャマイカに渡り「レゲエ」というリズムに触れ、この「母と子の絆」を書いた。
しかし、この楽曲が「レゲエ」かと言えば、私は首を捻ってしまう。確かに「レゲエ」なのかも知れないが、「レゲエ」のネイティブ臭は全く感じられない。
エリック・クラプトンの「アイ・ショット・シェリフ」もレゲエ臭はするものの、随分と洗練されている。でも、「アイ・ショット・シェリフ」を聴けば「レゲエ」だと分かる。
しかし、「母と子の絆」にはレゲエを殆ど感じることはない。イントロからして「レゲエ」ではないし、裏打ちのリズムも後ろ側に強調されるビート感もない。果たしてポールは「レゲエ」のどこにインスパイアされたのか?私にとって永遠の謎だ。
ポールは自身の持つパレットのほんの僅かなジャマイカの色を混ぜたのかも知れない。
一方、私の想いとはよそにこの「母と子の絆」はとても出来のいいポップソングに仕上がっている。
■ 推薦アルバム:ポール・サイモン 『時の流れに』(1975年)

1975年リリースのポール・サイモン最高傑作アルバム。サポートミュージシャンはスティーヴ・ガッド(ds)、マイケル・ブレッカー(sax)、ボブ・ジェイムス(key)、リチャード・ティー(p)などニューヨークのファーストコール・ミュージシャン達が顔を揃えている。悪いアルバムにはなりようがない。最初にこのアルバムを耳にした時、リチャード・ティーのピアノがポール・サイモンの音楽にフィットするのかと疑問だった。しかしそれは全くの杞憂に終わった。このアルバムは全米チャート1位を獲得。グラミー賞では『アルバム・オブ・ザ・イヤー』など2部門を獲得し、ポール・サイモンの代表作になった。
音楽雑誌でもポール・サイモンの最も成熟し、音楽的にも洗練されたアルバムと高評価された。
推薦曲:「時の流れに」
ピアニスト、リチャード・ティーのフェンダー・ローズピアノのイントロから始まるポール・サイモンの名曲。別れた女性のことを歌っている。ポール・サイモンの楽曲にリチャード・ティーのスモール・ストーン(フェイザー)をかけた浮遊感の漂うフェンダー・ローズピアノが絡めば完璧な音楽に仕上がる。ポールも凄いがそれを演出するリチャード・ティーのピアノプレイ…素晴らしすぎる。また、この曲ではマイケル・ブレッカーのテナー・サックスソロが聴ける。こちらも出色のソロ。ポール・サイモンのアサインしたミュージシャンが放つ色彩の鮮やかさに言葉を失う。
推薦曲:「恋人と別れる50の方法」
スティーブ・ガットの名演で知られる名曲。ガットの印象的なドラムソロから始まる楽曲。名ドラマー林立夫氏も某楽曲でガットのこのプレイを参考にしたとコメントしている。
恋人と別れる方法を延々と綴るのだが、何故かポールのこの手の曲はリスナーの心に忍び込み、それが体内で増幅するという効果を持つ。ポール・サイモンの音楽的魅力の一端を垣間見ることができる。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ポール・サイモン、リチャード・ティー
- アルバム:「ポール・サイモン」「時の流れに」
- 曲名:「母と子の絆」 「時の流れに」「恋人と別れる50の方法」
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