15年程前、当時付き合っていた恋人とドライブをしているときにラジオから渋めなバラードが流れてきた。
スティーブン・タイラーの声だ。エアロスミスの新曲か?などと考えながら聴いているとほどなくしてギターの音色が。
その瞬間、僕と彼女が同時に言葉を発した「サンタナ!」
「ギターの音は弾き手によって変わる指紋のようなものだ」
このようなことを色んなインタビューで語ったギタリスト、彼の名はカルロス・サンタナ。
ラテン・ロックの巨匠だ。
1. カルロス・サンタナについて
彼のバイオグラフィーやディスコグラフィーは調べれば情報が出てくるので割愛したいが、まったく知らない人のためにも簡単に箇条書きしよう。
- 1947年メキシコ生まれ
- マリアッチである父からヴァイオリンを習い、8歳からギターを習う
- アメリカはカリフォルニア州サンフランシスコに移住
- 19歳の時、通っていたライブ会場にて欠員が出たバンドにギターで参加し、注目される
- 22歳でコロムビア・レコードと契約
- 同1969年、ウッドストック・フェスティバルに出演しアルバムも発表。ベスト10入り
- 翌年発表の2作目のアルバムは6週間1位と大ヒット
- 1976年、「哀愁のヨーロッパ(原題:Europe)」が日本で大ヒット
- その後もジャンルの違う様々なアーティストとコラボしたりソロ活動もしたりと活躍
- 1999年、アルバム「スーパーナチュラル」リリース。翌年のグラミー賞で9冠。
それ以降もマルケル・ジャクソンや冒頭のスティーブン・タイラーなどジャンル関係なく様々なアーティストと共作したりしながら活動を続けている。
現在75歳、なんと今年もライブでガッツリ演奏している。
日本では「哀愁のヨーロッパ」と並んで「Black Magic Woman」や「Samba Pa Ti」も聴いたことがある人が多いだろう。
■ Europa (Earth's Cry Heaven's Smile)
■ Santana - Black Magic Woman (Official Audio)
■ Samba Pa Ti
2. 唯一無二、魅惑の音色
ギターといえばどうしても速弾きやライトハンド、アームプレイなどのど派手な超絶プレイが注目されがちで、実際それらのプレイを駆使するギタリストが人気だ。
一方、サンタナはもちろんそういったプレイもするものの、どちらかと言うとしっとりとひとつひとつの音を、まさに指紋をつけていくように演奏するのだ。
冒頭のエピソードで、初めて聴いた曲にもかかわらずギターの音が流れた瞬間に僕も、ギターなんて弾いたこともない彼女も同時にサンタナのギターだと閃いたことから分かるように、彼のギターは独特だ。
どこか暖かく、それでいて哀愁を帯び、情熱的で粘っこく、時折強烈なサスティーンが効いた魂の叫びのような音を出し、そしてそれらが一つの曲に共存していたりもする。
官能的であり、呪術的でもあり、超ロングトーンなチョーキングの音は何らかの脳内物質を大量に分泌させ天にも昇るような感覚すらおぼえさせるのだ。
ラテンパーカッションの小気味のよいリズムと音は自然と体を動かさせ、心をとめどなく熱くさせてくれる。
そしてワウペダル。
「哀愁のヨーロッパ」やハードロック曲「Open Invitation」など、曲の後半に向かうにつれてタガが外れたようにテンポがあがりボンゴやコンガをはじめとしたパーカッションも激しく打ちつけられ熱を帯びていき、そこにワウを効かせた変態的ともいえるギターサウンドによってトランス状態に導かれる。サンタナの魅力はそこだ。
僕はそこが好きで好きでたまらなく興奮するのだ。
次章で挙げる2つのアルバムにもそういう曲が多い。
■ Open Invitation
実際的な音作りの機材については時期や楽曲によって当然変わるが、一般的に言われているものは以下の通りだ。
- ギター:Paul Reed Smith Santana Signature
- バッファ:Pete CORNISH LD-1
- ワウペダル:その時々でメーカー、機種は変わる(JIM DUNLOP、MU-TRONなど)
- アンプスプリッター(3分配)
- アンプ:Mesa/Boogie、Dumble、Bludotone(カスタム)
ご覧の通りとてもシンプルな構成だが、サンタナ専用のカスタム機材が多くを占めるので、その面からも真似しようと思っても大変難しい唯一無二のトーンとなっている。
ちなみにMesa Boogieの名はサンタナが試作品を鳴らした際の「Man, that amp really boogies!(なんてブギーなんだ!)」という言葉が由来だ。
3. オススメするならばこれ
さて、人にどのアルバムを勧めるかと尋ねられればあれだこれだとマニアックなものを挙げてしまいそうになるが、やはり初めて触れる人にはベスト盤の「エッセンシャルサンタナ(The Essential Santana)」と「スーパーナチュラル(Supernatural)」が最適解だろう。
ライブ盤では「Sacred Fire」(特に1993年故郷メキシコでのライブ)が最高だ。こちらはDVDなど映像での鑑賞がお勧めだ。
ベスト盤は言わずもがなだが、多彩なゲストを招いて生み出された「スーパーナチュラル」は、1曲目から気分をぶち上げてくれるラテン曲「Yaleo」はもちろん、ナンバーの多くがゲストアーティストのジャンルの曲で構成されているため、ロックありR&Bありヒップホップありと聴き飽きない。
■ [Da Le] Yaleo
そしてなんと言っても野口五郎が「愛がメラメラ -SMOOTH-」というタイトルでカバーした「スムース(Smooth)」は、日本人にも馴染みのあるようなメロディで琴線に触れる人も多いだろう。
■ Santana - Smooth (Stereo) ft. Rob Thomas
4. 日本人にも馴染みやすい?ラテンの旋律
そもそも、日本人とラテンのメロディはどこが通ずるところがあるように感じる。先の「スムース」はもちろん「コラソン・エスピナード(Corazon Espinado)」や「Oye Como Va」、「Africa Bamba」もどこか昭和歌謡の雰囲気がある。
■ Santana - Corazon Espinado ft. Mana (Official Video)
■ Santana - Oye Como Va (Audio)
■ Africa Bamba
ここには例は挙げないが、思えば昭和歌謡のヒット曲にはラテン調のメロディやリズムが採用されているものが多数あるのだ。
5. 最後に -ラテン以外のオススメ曲-
有名ギタリストとして名前があがるアーティストはメタルやハードなロックのプレイヤーが多いが、そういうジャンルが苦手な人にもサンタナのギターはもしかしたらハマるかも知れない。
■ Santana - Maria Maria (Stereo) ft. The Product G&B
■ Santana - The Game Of Love (Video) ft. Michelle Branch
■ Santana - Put Your Lights On (Video Version) ft. Everlast
この記事で紹介した曲が気に入って頂けたのなら、ぜひともカルロス・サンタナのギターの音色に、リズムに、そして指紋に触れてみてはいかがだろう。
最後に、冒頭で僕らがラジオで聴いた曲は―――。
■ Santana - Just Feel Better (VIDEO) ft. Steven Tyler
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