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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その131 ~隠れたJポップ名盤特集パートⅣ 国内編~

2023-04-22

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

隠れ名盤特集パートⅣ

前回の隠れたJポップ隠れ名盤特集パートⅢは豊島たづみさんと門あさ美さんでした。
今回はJポップという枠組みを外し、もう少し広いカテゴリーで隠れ名盤をご紹介しようと考えています。隠れ名盤は2枚。
カテゴリー的には日本のロックやブラジリアンミュージックです。両方とも素晴らしいアルバムです。ぜひ、お聴きいただければと思います。

■ 推薦アルバム:『MASH』/ MASH(1981年)

松岡直也さんがバンドマスターを務め、当時のトップミュージシャンを集め結成されたスーパーバンド。残念な事にMASHは1枚のアルバムしかリリースされなかった。当時、引く手あまたのミュージシャンで結成されたバンドのため、仕方ないのかもしれない。

メンバーは松岡直也(p)、村上ポンタ秀一(ds)、清水信之(key)、富倉安生(b)、青山 徹(vo/g)、ペッカー(vo/per)、村田有美(vo)。
ほとんどの楽曲は松岡直也さんが書いている。ボーカルものが5曲とインストものが3曲というライナップ。
当時としてはバンドに2人のキーボーディストが在籍するのは珍しいことだ。しかも松岡直也さんと清水信之さんというトップミュージシャンの2人。この手の音楽を聴く人間にとってはかなりのニュースだった。

音大出身のパワフルなボーカリスト、村田有美さんの歌唱は時に力強く、時に儚く、日本ロックの脈々と続く伝統を踏襲している。一方、メンバーのモダンな演奏は聞きごたえ十分。ラテンピアニストである松岡直也さんの音楽志向がロックにまで及んでいる事実をこのアルバムで思い知らされた。

推薦曲:「エキゾティック・パフューム」

松岡さんのアコースティックピアノの刻みと清水さんのシンセサイザーシーケンスから幕を開ける。当時の印象は「何か新しいもの」を感じさせた。8ビートの勢いで押し切る松岡直也さんの楽曲。その勢いの素は青山徹さんのギターソロ。8ビートの中にいくつかのキメを仕掛けた松岡さんの曲作りの勝利か。キメフレーズの上を泳ぐかのような青山徹さんのギターソロが秀逸。

推薦曲:「パルス」

この曲も同様に8ビートをメインにしたスピード感のある楽曲。アプローチとしてはハードロックに近い。「エキゾティック・パフューム」と同様、松岡直也さんのロック志向が前面に出ている。青山徹さんのギターソロの一節に新しいものを感じた記憶がある。
また、大サビ部分で当時多くのミュージシャンがオマージュした『エアプレイ』の楽曲、「イット・ウィル・ビー・オールライト」のジェイ・グレイドンによるギターソロの一節を拝借しているのが笑いを誘った。

推薦曲:「ラブ」

村上ポンタ秀一さんが叩きだす16ビートに乗り、村田由美さんが荒涼とした景色を描き出す。極冠のキメ部分やブリッジ部分などでは清水信之さんのシンセサイザーが効いており、楽曲のアクセントになっている。この曲の青山さんのギターソロもジェイ・グレイドンの影響が色濃い。
このソロはマンハッタントランスファーの「トワイライトゾーン・トワイライトトーン」のジェイ・グレイドンのギターソロを想起させる。

■ 推薦アルバム:『ライヴ・アット・ホットコロッケ』/ 松岡直也、高橋ゲタ夫、大村憲司(1981年)

1980年、六本木のラテン系ライブハウス"ホットコロッケ"に出演したブラジルのサンバ・バンド"サンバ・ソン・ブラジル・フォー"に松岡直也さんら日本人ミュージシャンが加わり、ライヴ録音されたジャム・セッション。ジャム・セッションという形態のため、ミュージシャンのアドリブプレイを存分に味わうことができる。

このアルバムのエポックは松岡さんの弾くフェンダーローズ・エレクトリックピアノが聴けること。通常、松岡さんはアコースティックピアノかヤマハのエレクトリックグランドピアノC-P80を演奏するからだ。

出演ミュージシャンはサンバ・ソン・ブラジル・フォーに加え、松岡直也、大村憲司、井上ケン一、向井滋春、伊東毅、高橋ゲタ夫、中島御。

推薦曲:「爽やかに祝う」

このライブでは珍しく松岡直也さんはヤマハエレクトリックグランドCP-80とフェンダーローズ・エレクトリックピアノを2台使用しプレイしている。
ブラジル音楽の特徴である哀愁をそそるサウダージ感のあるメロディが素晴らしい。
伊東毅さんがサンバ・バンドでリリコンを吹くという無茶ぶりも素敵。トロンボーンプレイヤーの向井滋春さんはブラジル系音楽が得意なミュージシャン。ブラジルの歌姫、アストラット・ジルベルトとデュオ・アルバム「SO&SO」を作るなど、ブラジル音楽に精通している。
松岡直也さんのサンバのリズムに乗ったローズのプレイは秀逸。オルタードスケールを散りばめたサウダージ感溢れるプレイはラテン系ピアニストの真骨頂だ。ここまで長いソロはスタジオ盤では聴くことができない。ライブ盤ならではのものだ。屋台骨を支える高橋ゲタ夫さんのグルーブしまくるベースラインも最高。

推薦曲:「タジ・マハール」

この曲では松岡さんはヤマハエレクトリックグランドCP-80をプレイしている。フェンダーローズとは異なるグルーブ感が生まれる。音色や鍵盤のタッチで楽曲のニュアンスが変わるのは面白いと思う。
話は横道にそれるが、この楽曲は1979年に元フェイセズのボーカリスト、ロッド・スチュアートがサビの部分を盗作したと話題になった。リオでロッドがよく耳にしていたジョルジ・ベンジョール作の「タジ・マハール」のメロディが耳に残り、自身の曲を作ったところクレームが付いた。ロッドは潔くそれを認めたという。

推薦曲:「ランタン提げて」

この楽曲もサウダージ感溢れる美しいメロディ。伊東毅さんのプレイするリリコンソロが素晴らしい。フェンダーローズでバッキングする松岡直也のリズムと高橋ゲタ夫さんとのグルーブが凄い。その上に乗る向井滋春さんのトロンボーンによるアドリブもセクシーだ。トリをとる松岡さんのローズソロも聴きもの。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:MASH、松岡直也、清水信之、青山徹、伊東毅、高橋ゲタ夫など
  • アルバム:「MASH」「ライブ・アット・ホット・コロッケ」
  • 曲名:「エキゾティック・パフューム」「パルス」「ラブ」「爽やかに祝う」「タジ・マハール」「ランタンを提げて」
  • 使用楽器:アコースティックピアノ、フェンダーローズピアノなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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