南佳孝アルバムのシンセサイザーソロを探索
シンセサイザーは現在の音楽シーンにおいて欠かすことのできない楽器です。そしてシンセサイザーは時代の進歩と共に新しい機能や音を生み、新しい音が時代を作り、新しい音楽を作ってきました。
また、ピアノや電気ピアノに代わる楽器として様々な使われ方がされ、音楽の創造に寄与しています。
今回も鍵盤狂漂流記は国内ポップスにおける印象に残るシンセサイザーソロを取り上げます。トラックは素敵なシンセサイザーソロが入っている南佳孝さんのアルバムで括ります。
シンセサイザーソロを見つける困難さ…
前回は松任谷由美さんの楽曲のシンセソロを取り上げました。松任谷正隆さんのアレンジが好きなのでそんな視点からの選択でした。ではユーミンの楽曲で他にシンセソロあるかと問われると、私はユーミンを全て聴いている訳ではありませんが、有名どころの彼女の楽曲では、前回の3曲以外にフォーカスできるシンセソロは頭に浮かびませんでした。それだけシンセサイザーソロは少数派なのです。どなたかご存知の方は教えてください(笑)。
鍵盤楽器の中ではアコースティックピアノやエレクトリックピアノが主流です。オルガンもそれに次ぐ使用頻度です。シンセサイザーといえば楽曲の味付け役として使われる場合が多く、ソロの頻度は更に低くなります。
シンセサイザーでソロをとるよりもピアノやエレクトリックピアノの方がキーボーディトしては豊かなソロ表現ができるという側面もあるのでしょう。
例外はありますがシンセサイザーは音楽のメインになれない…という過酷な条件の中でポップスのカテゴリーからシンセソロを探す場合、キーボーディストがアレンジャーやシンセサイザーの使い手である楽曲ならば、それを見つけるヒントになります。
南佳孝さんの楽曲アレンジは佐藤博さんや坂本龍一さんなど、シンセサイザーの使い手が多く、シンセソロやピアノソロを聴くことができます。
とはいえ、南佳孝さんの楽曲でもギターソロの方が圧倒的に多いですが…(涙)。
やはり曲間におけるソロはギターの方が説得力、訴求力があるのかもしれませんね。
■ 推薦アルバム:南 佳孝『SPEAK LOW』(1979年)

1979年にリリースされた南佳孝さんの4枚目のアルバム。スマッシュヒットした「モンロー・ウォーク」がクレジットされている。郷ひろみさんが「モンロー・ウォーク」を「セクシー・ユー」としてカバーし大ヒット。マニアには知られていたがメジャーな存在ではなかった南佳孝さんはこれにより一気に表舞台に躍り出た。
このアルバムの作詞は11曲中9曲が松本隆さん。南さんの本気度を窺い知ることができる。アレンジは坂本龍一さんや日本を代表するキーボーディストの佐藤博さんが務め、アルバム全体に躍動感を与えている。
推薦曲:「Portrait Woman」
リトル・フィートのリズムをさらにモダンにしたようなアレンジ。アウトロ部分で佐藤博さんの弾くポリシンセソロが炸裂する。音的にはヤマハCS-80の音ではないかと思われる。
このソロを最初に聴いた時にリトル・フィートライブの「All that you dream」が頭に浮かんだ。うねるリズムの中、ビル・ペインがポリフォニック・シンセサイザーで強力なソロを弾いている。アメリカン・ロックの中でポリフォニック・シンセサイザーを生かしている好例だ。YouTubeなどの映像を見るとビルはヤマハのCS-80かオーバーハイムの4ボイスポリフォニック・シンセサイザーでこの曲をプレイしている。
佐藤博がこの楽曲にインスピレーションを得たかどうかは定かではないが、国内ポップスにおけるポリフォニク・セサイザーソロとして記憶に留めておきたい素晴らしい演奏だ。
■ 推薦アルバム:南 佳孝『PURPLE IN PINK』(1999年)

南佳孝さんが1999年にリリースした19枚目のアルバム。南佳孝さんといえばラテン系やブラジリアンテイストのアルバムを想起しますがこのアルバムはタイトル通り、ニューヨークをイメージさせる尖った感じの楽曲が多い。
推薦曲:「冬のアメリカンチェリー」
シンセサイザーやハモンドオルガン、フェンダーローズ・エレクトリックピアノが大活躍する楽曲。アウトロ部分でのシンセサイザーソロが印象的でフェイドアウトしてしまうのが残念。
太くて粘りのある音質からミニモーグのノコギリ波を使っていることが考えられる。モノフォニックであるミニモーグの特徴がいい形で表現されているのに加え、ポルタメントを強めにかけることで楽曲との親和性を高め、荒涼とした景色を鮮やかに映し出している。

ミニモーグ モデルD
■ 推薦アルバム:南 佳孝『30th STREET SOUTH』(2003年)

南佳孝さんデビュー30周年を迎えた2枚組のベストアルバム。1973年~1989年にリリースされたアルバムから「モンロー・ウォーク」や「スタンダードナンバー」といった重要曲がクレジットされている。
名盤『サウス・オブ・ザ・ボーダ』の「南回帰線」などの需要曲がデジタルリマスタリングされていることもこのベストアルバムの大きなエポックといえる。
推薦曲:「THE TOKYO TASTE」
南佳孝さんと当時、女性シンガーとして話題をさらったラジとのデュオシングル。1978年に7インチシングルとしてリリースされた。洗練された楽曲はJポップ”の源流ともいえる内容。高橋幸宏さんの楽曲でオリジナル曲はサディスティックスのファーストアルムに収められている。
この楽曲の間奏部分で上等でスタイリッシュなシンセサイザーソロが聴ける。
音質はミニモーグに比べ少し薄めな音のため、アープ・オデッセイだと思われる。ノコギリ波に強めにレゾナンスを効かせたシンセサイザー音とハモンドオルガンとのユニゾンソロ。1978年当時はまだMIDIの存在がなかったことから、書き譜であるソロを全く同じ音でハモンドかオデッセイで弾き、どちらかを後からダビングしたと思われる。

アープ・オデッセイ, CC BY-SA 3.0 (Wikipediaより引用)
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:南佳孝、ラジ、佐藤博、坂本龍一、高橋幸宏など
- アルバム:「Speak Low」「PURPLE IN PINK」「30th STREET SOUTH」
- 曲名:「Portrait Woman」「冬のアメリカンチェリー」「THE TOKYO TASTE」
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