ボサノバ重要曲のカバーが面白い!
前回に続き、夏必聴!のボサノバ名盤、名曲を作曲家や演奏家などから検証するパートⅥです。 今回のテーマはこれまでにご紹介したボサノバの重要盤の楽曲カバーをしているミュージシャンとそのアルバム、楽曲を取り上げます。 ボサノバクロニクル、パートⅥです。
■ ボサノバの超名盤:『ゲッツ/ジルベルト』より「コルコバード」(1964年)

「ゲッツ/ジルベルト」のアルバムで「イパネマの娘」と「コルコバード」の2曲がアストラット・ジルベルトにより、英語の歌詞で歌われた。
後述の「ハウ・インセンシティブ」と同様、メロディモチーフを変化させた楽曲作りはアントニオ・カルロス・ジョビンの得意とする手法だ。
メロディモチーフの変化はコードチェンジにも反映される。演奏家はソロをとる際、似たメロディなのにコード進行は異なるため、ソロにおけるメロディ展開が難しい。この辺りがジャズミュージシャンに好まれたのではないかと思われる。
■ 推薦アルバム:キャノンボール・アダレイ『キャノンボールのボサノバ』「コルコバード」(1962年)

キャノンボール・アダレイは1958年に「枯葉」がクレジットされた超名盤、「サムシン・エルス」をリリース。ジャズにおける「枯葉」をメジャーにしたことで知られるアルトサックスプレイヤー。
「サムシン・エルス」は実際、マイルス・デイビスのアルバムという認識が強いが、キャノンボールはこのアルバムで世に知られるようになる。
キャノンボールが吹くメロディは、その姿とは異なり(失礼!)、流麗で美しい。アルトをここまで歌わせるミュージシャンは他に類を見ないともいえる。
推薦カバー曲:「コルコバード」/米国ジャズマンとブラジル音楽の邂逅
キャノンボール・アダレイがブラジルのボサ・リオ・セクステットと共演したアルバム。このセクステットはリオの作曲家でありピアニストであるセルジオ・メンデスのバンド。
アメリカ人の解釈でボサノバを演奏すると米国流ジャズボッサになるが、本場リオのミュージシャンとの共演がボサノバアルバムとしての品位を確かのものにした。
キャノンボールのリリカルで流麗なメロディラインはボサノバとの親和性が高く、ボサノバブームを牽引した1枚。
1人のジャズマンとセルジオ・メンデスとの邂逅が歴史に残るボサノバアルバムを生み出した。
1963年に「ゲッツ/ジルベルト」は録音。一方、1962年の年末にこのアルバムは録音されていることから、ジョビンによる楽曲、「コルコバード」は既にできていたことが推察される。
■ 推薦アルバム:アストラット・ジルベルト『おいしい水』より「ハウ・インセンシティブ(お馬鹿さん)」(1965年)

独特なジョビンメロディが印象的なこの曲も、多くのミュージシャン達がカバー。 メロディのモチーフを変化させ構築する手法はジョビンの真骨頂でサウダージ感を際立たせている。
■ 推薦アルバム:『アントニオ・カルロス・ジョビンソングブック』より「ハウ・インセンシティブ(お馬鹿さん)」(1994年)

多くのミュージシャンによるジョビンの名曲を取り上げたオムニバスアルバム。 この「アントニオ・カルロス・ジョビンソングブック」は2枚目で1枚目のソングブックも存在する。
推薦カバー曲:「ハウ・インセンシティブ」
アントニオ・カルロス・ジョビンによるセルフ・カバー。1994年ニューヨーク、カーネギーホールでのギタリスト、パット・メセニーとのデュオライブ。
アストラット・ジルベルトのあっけらかんとした歌唱とは違い、ジョビンは思い入れたっぷりに歌う。ジョビンも決して上手い歌手ではないが、独特なタッチの歌唱は唯一無二だ。ジョビン自身がピアノを弾き、パットがガットギターでバッキングをする。
パットは自身のバンド、パット・メセニーグループのライブなどでも「ハウ・インセンシティブ」を取り上げている。中間部のパットのギターソロが美しい。
■ ボサノバの超名盤:アントニオ・カルロス・ジョビン『WAVE』より「WAVE」(1964年)

■ 推薦アルバム:トゥーツ・シールマンス&エリス・レジーナ『ブラジルの水彩画』より「WAVE/波」(1969年)

エリス・レジーナは60年代中盤から70年代にブラジルで人気の高かったアーティスト。その功績は多くのミュージシャンのコメントからも想像に難くない。渡辺貞夫さんもエリス・レジーナに捧げたアルバム、「エリス」をリリースしている。
ブラジルの軍事政権下で芸術家が迫害されていた時代、それに抗う行動をとっていた。アルコール中毒で36歳の短い人生を閉じている。
ベルギー人のトゥーツ・シールマンスはハーモニカを吹かせれば右に出るものがないハーモニカの巨匠。ビル・エバンス、ジャコ・パストリアスなど、数多くのジャズミュージシャンと共演している。
推薦カバー曲:「WAVE/波」
かなり変則的アレンジの「WAVE」。短いイントロからエリス・レジーナのスキャットとトゥーツ・シールマンスのハーモニカで幕が開ける。
印象的なのはエリス・レジーナの歌唱だ。アストラット・ジルベルトのぶっきらぼうでフラットな歌唱とは異なり、エリスはエモーショナルでメリハリの効いた歌い方をする。
その歌唱に寄り添うトゥーツのハーモニカとの相性は良く、楽曲のムードを引き立てている。
とかくハーモニカといえば70年代初頭のフォークソング、弾き語りを想起する。しかし、トゥーツの奏でるハーモニカは四畳半フォークのそれとは対極にある。そのハーモニカプレイは軽やかでさっぱりしているが、エモーショナルで美しい。
この「WAVE/波」における中間部のハーモニカソロの素晴らしさを是非、聴いて欲しい。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤
- アーティスト:キャノンボール・アダレイ、セルジオ・メンデス、アントニオ・カルロス・ジョビン、パット・メセニー、エリス・レジーナ、トゥーツ・シールマンス
- アルバム:「キャノン・ボールのボサノバ」「アントニオ・カルロス・ジョビンソングブック」「ブラジルの水彩画」
- 曲名:「コルコバード」「ハウ・インセンシティブ(お馬鹿さん)」「WAVE/波」
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