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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~夏に聴くべき定番音楽!ボサノバクロニクルパートⅠ~ その84

2022-07-14

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 楽器

蒸し暑い夏を乗り切る涼的極楽音楽は…

今年の梅雨はおよそ40年ぶりの短い梅雨となりました。6月といえば梅雨の真っ最中
ですが、その6月に梅雨が明けるとは誰も考えていませんでした。通常、梅雨明けは7月後半のため我々は1ヶ月も早くから長い夏を迎えることになります。
ロシアのウクライナ侵攻で燃料費が高騰し、電気料金にも影響は及んでいます。
そこで音楽で夏を涼しく乗り切る方法があります。そのマストアイテムが「ボサノバ」です。
夏に聴く、ボサノバ関連の素晴らしい名盤や名曲の数々を作曲家や演奏家などにフォーカスしながら特集します。ご期待下さい!
まずは「ボサノバの法王」といわれたジョアン・ジルベルトです。

ブラジル人ジョアン・ジルベルトが創作した奇跡の音楽、ボサノバ!

ボサノバは1950年代の後半にブラジルで生まれました。その起源は古いブラジルの音楽、サンバなどが母体になっています。サンバといえばリオのカーニバルやサッカー応援で使われる、あの強力なリズムを想起しますが、ボサノバはサンバほど、リズムを全面に出す音楽ではありません。
ボサノバのベースを作ったのはギタリストであり、ボーカリストのジョアン・ジルベルトで、独特なシンコペーションするリズムをギターとボーカルで奏でます。同時期に、リオのインテリな若者達などがアパートメントに集い、ジョアンの音楽に更なる洗練を加えました。

音楽の除湿器、ボサノバ

私はボサノバは音楽の除湿器だと思っています。爽やかで押しつけがましくなく、洒落ていて、聴いていて心地よい極楽的音楽です。私はボサノバを室内に流せば湿度が20%下がると公言しています(笑)。
湿度が下がる1つの要因はボサノバにアサインされたコードがだと考えられます。
例えば誰もが知っているボサノバの名曲「イパネマの娘」。頭からメジャー7thコードが登場し、11thや13thなどテンションコードが並びます。特にAメロからサビへの進行(F△7→G♭△7)は通常ではありえない進行です。一体何を考えているのか?と思ってしまいます。しかし、それが心地良いのです。あの浮遊感溢れるサビ部分の快感はなかなか得られるものではありません。まさに湿度が下がる瞬間です。究極のリラクゼーションミュージックです。

■ 推薦アルバム:ジョアン・ジルベルトの伝説(1959年)

数多いボサノバアルバムの中で最も重要とされる1枚。ジョアン・ジルベルトの最高傑作(諸説あり)といわれるアルバム。
ジョアンは1952年にコパカバーナでソロ・デビューしたといわれるが、ボサノバの普遍性を高めるまでは至らなかった。そういう意味ではこの「ジョアン・ジルベルトの伝説」が実質的なデビュー盤となる。
一聴するとボソボソと何を歌っているのか分からないジョアンのボーカルスタイルですが、よく聴くとギターとボーカルのアンサンブルが抜群でジョアンが築き上げたボサノバというスタイルが並大抵なものでなかったことを理解できる。また、弦が入っていてもベタッとせず、ある種の清涼感を感じます。
私は最初にボサノバに振れた時に「ボソボソとなんかハッキリしない退屈な音楽だ」と思いました。8ビートのロックなどを中心に聴いていた人間にとってそう思うのは無理ありませんが聴き込むにつれ、ジョアン・ジルベルトの凄さが分かってきました。
ギターとボーカルの出し入れの間合いが絶妙で小節を確信的に跨いだり、喰ったりする歌い方は最初、モタッているのか?走っているのか?と思う程でした。このギターとボーカルの複雑な間合いがジョアンの真骨頂であることを理解するのは随分と時間が必要でした。とにかくジョアンのノリ、ギターと歌のグルーブが抜群なのです。この辺りの話はまた別のコーナーで記したいと思います。

推薦曲:「シェガ・ジ・サウダージ(想いあふれて)」

ボサノバ史上、最重要な1曲。1958年にジョアンが録音したこの曲がボサノバ誕生とされている為だ。この曲は多くのミュージシャン達にカバーされている。印象的なメロディ構成のイントロに始まり、バースメロディの美しさと儚さ…メジャーになるサビからの素晴らしいメロディ展開など、売れる楽曲の要素がこの曲には凝縮されている。タイトルにもなったブラジル人特有の懐かしい感覚、「サウダージ」がこの曲には溢れている。
アメリカでは多くのジャズ・ミュージシャンがこの楽曲を気に入り「No More Blues」とタイトルを変え演奏。世界に発信されたメロディは多くの人を虜にした。
作曲者はアントニオ・カルロス・ジョビン、作詞者はビニシウス・モラエスとボサノバの黄金コンビが担っている。
この曲はジョビンが私財をうってジョアン歌わせ、大ヒットしたという経緯がある。ジョアンの革新的ギターワークにジョビンがほれ込んだという理由があったという。

推薦曲:「オ・パト」

ガチョウのサンバと称されるこの曲はジョアン・ジルベルトのギターと歌唱が一体となったある種、ジョアンを象徴する楽曲。ジョアンはオケやバンドと合わせて演奏するというライブ形態はあまりとらず、自身で弾くギターと歌のみだ。そういう意味で、この曲はオケは付いているもののジョアンのギターと歌唱のグルーブを聴く最適な1曲になっている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ジョアン・ジルベルト
  • アルバム:「ジョアン・ジルベルトの伝説」
  • 曲名:「シェガ・ジ・サウダージ」「オ・パト」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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