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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 ~夏に聴くべき定番音楽!ボサノバクロニクルパートⅡ~その85

2022-07-29

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

除湿器的リラクゼーション音楽ボサノバの魅力を探る

ボサノバの音楽的特性は独特なシンコペーションと複雑なテンションコードに乗る歌唱が1つになり、サウダージを描く究極のリラクゼーションミュージックです。蒸し暑い夏にボサノバを聴けば周囲の湿度が下がり、心地よい風が吹いてくる錯覚に陥ります。是非、この夏にボサノバを聴くことをお薦めします。
前回に続き、ボサノバの名盤、名曲を作曲家や演奏家など、様々な角度から検証します。

サウダージが宿るブラジル音楽、ボサノバ

ボサノバは1950年代の後半にブラジルで誕生。複雑なテンションコードの上に歌唱が乗ったブラジル発の音楽です。ブラジルには「サウダージ」という独自の感覚があり、ボサノバはそのサウダージを強く感じる音楽の1つです。「サウダージ」とは日本では「ある種の懐かしさ」や「憂い」などと訳されています。浮遊する楽曲にサウダージというスパイスが加わり、人の心に安らぎを与える音楽、それがボサノバです。

■ 推薦アルバム:ボサノバの歴史的超名盤「ゲッツ/ジルベルト」!(1964年)

「ゲッツ・ジルベルト」は世界へボサノバの狼煙を上げた歴史的アルバム。このアルバムにより、世界的なボサノバブームが到来する。
この名盤を生んだのがスタン・ゲッツ( ts )とジョアン・ジルベルト(G&Vo)、アントニオ・カルロス・ジョビン(P)の邂逅だ。
名盤の根拠はなんといっても楽曲の出来の良さに加え、演奏の素晴らしさによるものだ。

一方、この3人による奇跡的名演の裏には様々な神話が付いてまわる。
ゲッツ(ts)のプレイを聴いたジョアン(G&Vo)がジョビン(Pf)に対し、ポルトガル語で「お前は馬鹿か」と伝えろと言ったところ、英語が堪能なジョビンは異なる通訳をし、「ジョアンが君との共演を喜んでいる」と取り繕った…有名な逸話だ。
ゲッツは当時、テナーサックスにおけるスタープレイヤー。ブラジルの田舎ミュージシャンの言葉に耳を貸さなかった可能性がある。
ジョアン側から見れば、当時のブラジル発のボサノバには大々的にサックスはフィーチャーされていない。スタン・ゲッツのジャズ流解釈を前面に出した演奏に出しゃばり過ぎるな的な想いもあったのだろう。

一方でゲッツのアドリブは素晴らしいの一言に尽きる。どこからこのような美しいメロディが生まれるのか?沢山の天使が曲中でほほ笑んだかのようなフレーズが、とめどなく溢れている。まるで書き譜のような(書き譜である筈がない)メロディだ。

プロデューサーはインパルスレーベルやCTIレーベル立ち上げた御大、クリード・テイラー。プロデューサーであるクリード・テイラーもゲッツと同じ、アメリカ人なので3人の仲をとりもって、上手く3人のいい部分を引き出したのではないかと思われる。そういう意味で、このアルバムはボサノバのアメリカ流解釈によるブラジルへの回答ともいえるのではないか。ボサノバ愛好家からはコマーシャル的すぎるなど、反発も散見するが結果として大ヒットアルバムとなった。

クリード・テイラーのプロデュース力の勝利ともいえるこのアルバム、「ゲッツ/ジルベルト」はグラミー賞の最優秀アルバム賞とエンジニア賞を獲得!「ディサフィナード」は最優秀インストゥルメンタル・ジャズ・パフォーマンス賞も受賞している。

堅苦しい事を考えずに是非、アルバムに耳を傾けて欲しい。きっと涼しい風が吹いてくる筈です!

「ゲッツ/ジルベルト」を超名盤に押し上げた、もう1人の立役者

このアルバムの特徴は演奏やそのスタイルの新しさの他に楽曲の素晴らしさが挙げられます。
曲を書いているのはアントニオ・カルロス・ジョビンです。このアルバム全8曲中、6曲がジョビンの手によるものです。1曲目の「イパネマの娘」に始まり、多くのミュージシャンが取り上げた「コルコバード」「ディサフィナード」「ソ・ダンソ・サンバ」など、歴史的名曲が揃っています。
アントニオ・カルロス・ジョビンの専攻は音楽ではなく、建築だったことを考えるとボサノバの音楽的構築力の緻密さは建築と重ね合わせていた部分があると思います。
ジョビンはブラジルを代表する音楽家である一方、環境問題やアマゾン熱帯雨林保護活動でも知られ、その想いは自身のアルバムにも反映されています。

推薦曲:イパネマの娘

ボサノバで世界一知られている楽曲。作曲はアントニオ・カルロス・ジョビン、作詞はビニシウス・ジ・モラエスというボサノバ最強コンビによるもの。
ビニシウスがカフェでお茶を飲んでいる脇を通りかかった美しい少女をテーマに、人生の儚さを歌っている。軽やかで独特の浮遊感溢れるこの曲はメロディの分かり易さもあり、世界中でボサノバブームの中心となった。

オリジナル盤では冒頭の歌詞をジョアン・ジルベルトがポルトガル語で歌い、その後、ジョアンの細君であるアストラット・ジルベルトが英語で歌う。アメリカ盤のシングルではジョアンのAメロボーカル部は削除され、英語で歌うアストラットの歌唱から始まる。このシングルがアメリカで大ブレイクし、アストラットの名は全世界に広がることになる。アストラット自身は歌手志向ではなく、キッチンで料理を作る際の鼻歌が予想以上に良かったので、ボーカルを吹き込むに至ったなど…数々の神話が残されている。

アストラット・ジルベルトはこのアルバムで「イパネマの娘」と「コルコバード」の2曲を歌っている。アストラットはこのアルバム後、多くのアルバムをリリースする。特にファーストアルバムの清廉さは特筆に値する。

推薦曲:コルコバード

アントニオ・カルロス・ジョビンの代表曲の1つ。ジョビンが作詞、作曲を手掛けている。静謐な一夜の愛の語らいを描いている。

一度聴いたら忘れないAメロからサビに至るまでの精緻なメロディの構築美はジョビンが建築家であったことと関連付けずにはいられない

アストラットのあっけらかんとした歌唱と緻密なジョビンの楽曲のコントラストが素晴らしい。
この楽曲も多くのジャズミュージシャン達に取り上げられている。その理由の1つに変化していくメロディのコード進行がジャズのイディオムとマッチし、それをプレイするミュージシャン達のマインドをくすぐったからではないかと私は考えています。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:スタン・ゲッツ、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョアン・ジルベルト   アストラット・ジルベルト
  • アルバム:「ゲッツ/ジルベルト」
  • 曲名:「イパネマの娘」「コルコバード」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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