お久しぶりです。Cheenaです。
「究極の楽器」と呼ばれるベース、Wishbass。
ついに入手しました。
00. Wishbassとは?
Wishbass(現ブランド名はWish Instruments)は米国の個人ルシアーStephen Wishnevskyが主導する楽器ブランド、およびそのベースの総称です。
その特徴はよく知られていますが、ご存じない方のために列挙すると
- トラスロッド無し、フレット無し、無塗装が基本
- 基本的に極太のスルーネック
- クラシックギターのようなスロットヘッド
- 超格安(弦数×$100換算で送料込み)
- フレット打ち、フラットヘッド、フレットラインなどのオプションは$100から
……など、ヤバそうな匂いのする楽器メーカーです。
その音質は極めてナチュラルでウッディ。極端に木材の比率が高いためとも、本人の楽器製作の腕によるものとも言われていますが、間違いなく言えるのはWishbassは一見野趣がありながらも楽器としては洗練されているということです。
買った時から打痕がある?木材が焦げてる?そんなもんです。
01. オーダー内容&諸元
Wishbassの公式ebayで購入する以外、ほとんどがカスタムオーダーになります。今回もこれで、某幻の日本メーカーの伝説のベースをイメージして制作してもらいました。
(実はこの時点で数年経っています。理由と経過は割愛……)

ネック材: | メイプル+おそらくローズウッド 5Plyスルーネック |
指板材: | パドゥク |
ボディ材: | ホワイトマホガニー ※マメ科の真正マホガニーではない代用材。ホワイトマホガニーと呼称される材はノウゼンカズラ科のTabebuia donnell-smithii(通称プリマベラ)やオリーブ科のEucalyptus acmenoides(通称バライリー)などがあり一定しない。 |
重量: | 3.9kg |
スケール: | 34inch |
チューニング: | LB-E-A-D-G-HC |
フレット数: | 36以上 |
ナット幅: | 58mm |
ネック厚み: | 35mm |
ブリッジ弦間: | 16mm |
電装品: | 無し |
最終的にはLACE Aluma Bass Bar 4.5が搭載される予定。多弦は基本的にピックアップの選択肢がなく、ケース幅4.5インチ以上のものを使用するしかありません。
Wishbassは基本的に指板が非常に長いことから1PUがほとんどで、この機体もおそらく1PUになるでしょう。
価格:$600
Wishbassへの支払いについて…PayPalを経由する支払い以外受け付けていません。このPayPalが曲者で、PayPalでの通貨換算を使用するとかなり高い手数料を取られます。しかし、支払い時のオプションでカード会社で換算する方式になると少し安くなる可能性があります。
今回の支払い額はPayPal通貨換算では46000円ほどだったものの、カード会社の支払いにした所44500円が支払われることになりました。
注意点として、即時に支払い額が確定するPayPal換算に対してカード会社の場合は確定までに時間がかかります。この間に円が暴落したりドルが暴騰すると手数料込みの通貨換算の方が安価にすむ可能性があります。
輸入に伴う関税と消費税について…今回は消費税+通関料を着払いすることになりました。関税は無し(実行関税率表2023年4月1日版・第18部第92類参照)、消費税は「価格の6割に消費税率を掛ける」つまり2023年8月現在では本体価格の6%が支払い合計額となります。
02. 改造
届いた箱はベコベコですが、特に破損保証などはありません。箱に直接緩衝材と楽器を突っ込んでいるので、ビニール袋の中や風呂場で開ける、そもそも外で開梱する、などの工夫が要ります。ときどきコーラのボトルが緩衝材代わりに入っていたりもします。
届いた段階で軽く水拭きし、オイルを引きます。いつもの Xotic Oil Gel で1層、これが湿気止め兼毛羽立ち止めになります。
この塗料は塗布中はよく流れますが、すぐに乾いてベタつき始めます。さっさと塗りましょう。
指板はレモンオイルでしっかり拭き取り、赤い粉が出なくなったら蜜蝋を引いておきます。無塗装ラインレスの指板は保湿作業が楽しいですが、あまり付けすぎても意味がないのでほどほどに。
この段階で軽く弾いてみましたが……Wishbass特有のネックの太さは流石です。単純な幅で言えばWarmoth Gecko 6に相当しますが、それの倍以上の厚みがある強烈な太さ。エレキベースというよりコントラバスのそれです。
何もしていなくてもネックが打痕というか切削痕だらけなのでこれを磨いていきます。普通に弾くぶんにはそこまで問題ないのですが、グリッサンドなどで手を滑らせるとかなり凹凸が目立ちます。
見た目が地味なので作業工程は省略。紙ヤスリで磨いて塗り直すだけです。
次いでボディにがっつり手を入れます。
図面を送ったものの、全体的な雰囲気が似ている……程度の作りです。ここら辺もWishbassらしさですが、見た目を似せに行きたいため図面を元に改修していきます。
現状のボディは図面上のサイズより小さいようなので、ボディエンドとホーン、カッタウェイの形状を調整して雰囲気を似せていきます。

ブリッジがセンターから恐ろしくズレているので調整します。落とし込み加工になっている部分右上は座繰りまで貫通していますが、これは一度埋めて別のブリッジに交換します。

元のブリッジが丸の右下に見えていますね。ちなみに座繰りの中央はフォスナービットの先端がトップまで貫通していたのでウッドパテで埋められています。

シタンとサクラで埋めます。タイトボンドを隙間から注いでクランプで圧力を掛けます。出っ張った部分はNTドレッサーで削り落とします。
少し隙間ができた部分はウッドパテを擦りこんでおきました。
ブリッジは1個250円ぐらいのソロブリッジです。機能はするので問題なし。

ブリッジ自体をボディエンドに寄せることで無理やりスケールを伸ばします。34+1inch。
フレットもインレイも無いからできる所業。あのベースもブリッジがはみ出すことが多いし、まあ大丈夫でしょう。

塗装して磨き、下穴を開けます。良い感じにWishbassを感じる雑さに仕上がりました。
ブリッジ配置が斜めなのは将来的にファンフレットやスラントフレットにした場合の調整幅を考えてのことです。
“Action is real low”(弦高はしっかり低いよ)と言われたのでロッドとフレットは一旦入れずに放置とします。インレイも入っていませんが、のちのちの指板貼り替えやフレット打ちのことを考えてテープを貼るに留めます。
全くの余談ですが、Zero Glide(クラシックギター用の後付け式0フレット&ナット)を販売しているRosette社から転写式シールインレイが販売されていたりします。剥がしても跡が残らないのがウリだとか。
さてお次はヘッド。ネックの5ply材がそのまま延びているのでパープルハートのラインが入っていますが、おかげでスロット部が右にズレているのがわかります。実測1.5mmほど。

実は左右のペグをマウントしている部分も低音側が19mm強、高音側が18mmと全くの左右非対称です。非対称なだけなら良いですが、19mmもあるとブッシュがしっかり固定できないという問題点があるため少し削って薄くしておきます。
さらに言えば0-1f間ではネックが指板より幅広で、ナットに至ってはネック自体を飛び出しているという…

テンプレートを用意して一気に加工。曲線部がペグのワッシャに干渉していたため、こちらも少々拡張しました。
トリマーのビットでは奥深くまで加工できないため、残った部分は小刀で削っておきます。
※2つ割り型のポストをもつペグをスロットヘッドに使用する場合、弦をポストの奥に通す作業が面倒です。横穴型のロックペグにすることでこの作業を簡略化できますし、スロットヘッド特有の「巻き数によりナットに対する進入角度が変わってしまう」という問題点を、巻き数を最低限にすることである程度解決できます。

それっぽくなってきました。
ここまでの過程を見て、楽しそうだなぁやってみたいなぁと思った方へ。とりあえず1本買ってみましょう。ebayに時々出品されてますよ。
うわぁ本当に楽器か?と思った方へ。確かに凄い作りですが、音だけは良いですよ。
03. 周辺品(と、ちょびっと電装)
電装品がない関係上ペダルチューナーが使えません。カードチューナーやアプリではB弦を拾いづらく、クリップだと今度はヘッドが分厚すぎて挟めない始末。
仕方ないのでDaddarioのMicro Clip Freeチューナーを使用しました。
DADDARIO ( ダダリオ ) / PW-CT-21 NS Micro Clip Free Tuner
値段の割に高機能できっちり拾ってくれる、どの方向にマウントしても画面が回転できて、その上バックライトも明るめで見やすいので便利で…

…前言撤回、見づらい!!!
横ペグには向かないということが分かりました。ということはクラシックギターにも難しいようですね…
余談ですがMicroシリーズは頭の部分は全て同じで、足元のクリップやネジ留めの部分の形状が違う作りになっています。もしかしたらヴィオラ用とかなら使えるかもしれません。
となるとチューニングが非常に面倒になってしまいます。邪な理由ですが仮のピックアップを追加します。
ノーブランドのリボンピエゾ(写真撮り忘れました……)をブリッジ下に挟みます。アコギ用だと思われるものですが、少々厚みがあるので彫刻刀でボディに溝を作って沿わせました。
バックパネルにジャックを付けて直結しています。ちゃんとした電装品を積むことになったらどうにかしましょう。
ピエゾピックアップは基本的に増幅を必要としますが、とりあえずチューナーは拾ってくれたのでよしとします。これから電磁ピックアップを積んで出力差が出て来たらオペアンプでも導入しましょう。
04. 最終仕様
前評判通りの作りでウッドパテが盛られていたりもしますが、やはりというか生音が極めて大きいこと、そして極太のわりに弾きやすいネックはWishbassらしい作りで大満足です。

重量: | 3.7kg |
スケール: | 35inch |
チューニング: | LB-E-A-D-G-HC |
フレット数: | 40程度 |
ナット幅: | 58mm |
ネック厚み: | 34mm |
ブリッジ弦間: | 14mm |
電装品: | リボンピエゾピックアップ No Volume & No Tone |
ネックの太さゆえに全くと言っていいほど曲がりません。加工が済んでから何度か雨と台風と真夏日を経験しましたが、圧倒的に安定しています。当然ネックベンドも掛かりません。
ついでに言うと他の楽器が弾きづらいように感じるまでになってしまいました。
Wishbass、いいですよ。
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら