私がまだ小学生だった頃のお話です。友人H君のお兄さんが音楽マニアだったため、色々な音楽をよく聴かせてくれました。聴いた音楽の中でメロディとレコードジャケットをよく覚えている英国のプログレッシブロックのバンドが2つあります。
1つ目はプリズムのジャケットが印象的ピンク・フロイドの「狂気」。冒頭の心臓音には大変驚きました。
そして、もうひとつのバンドの音は小学校6年生にそれ以上の大きな衝撃を与えました。そのバンドはキング・クリムゾンです。ジャケットの鮮烈なビジュアルに加え、A面1曲目のメロディは私の記憶にこびり付き、深く記憶に残りました。
私の人生で「一体何なんだ!?」と感じた作品は3つありますが、その1つが前述のキング・クリムゾンであり、子供心に訴えかける特別な「何か」があったのだと思います。その「得体のしれない」バンドはアルバムジャケットの映像に音が加わり、私の心にワインの澱(おり)のように沈殿し続けました。
得体の知れない音楽購入!
当時、サイモン&ガーファンクルの音楽を聴いていた私はディープ・パープル、イエスなどを辿り、忘れることがなかったキング・クリムゾンのあのジャケットに出会い購入しました。
キング・クリムゾンという音楽集団が素晴らしいバンドであることと、「クリムゾン・キングの宮殿」が世紀の名盤だとは知らずに…。
歴史的偉業を成し遂げた英国の若者
キング・クリムゾンのメンバーはイアン・マクドナルド(Sax、Key)、ロバート・フィリップ(G)、グレッグ・レイク(B、Vo)、マイケル・ジャイルス(Dr)、ピート・シンフィールド(Words)。当時としては特筆すべきメンバーではないとう見方もありますが、このメンバーにより制作された音楽が歴史を変えることになります。元々、キング・クリムゾンはロバート・フィリップとマイケル・ジャイルス、ベースのピーター・ジャイルス3人による「ジャイルス、ジャイルス&フィリップ」というバンドが前身でした。そこにイアン・マクドナルドとピート・シンフィールドという強力なブレインが加わることで壮大なアルバムが出来上がることになります。
■ 推薦アルバム:キング・クリムゾン『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年)

ビートルズの名盤『アビイ・ロード』をチャートから蹴落としたアルバムがキング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」。ロック史上の最強で最高のアルバムであり、キング・クリムゾンの最高傑作!
アルバムのジャケット、捨て曲のない素晴らしい楽曲の数々。ある種、クラシカルでヨーロッパの気品さえ感じさせるこのアルバムは歴代ロックアルバムの金字塔といっても過言ではないはず。この冷徹な音楽を誰かが「絶対0度の音楽」と評したのもあながち分からなくもない。
アルバムジャケットにはバンド名もアルバムタイトルもあえて記さず、慟哭する人物のクローズアップという何とも挑戦的でありながらインパクトをもったビジュアル。このビジュアルこそがA面1曲目のタイトル通り、「21世紀のスキッツォイド・マン」の顔ではないかと誰もが想像する。
当時のハードロック全盛のミュージックシーンに一石を投じたこのアルバムはプログレッシブロックとカテゴライズされた。リーダーでありギタリストであったロバート・フィリップはプログレッシブロックという括りに対し、我々の音楽はヨーロッパミュージックであると明言している。イージーな線引きに対する反発と自分たちの音楽に自信があったのだろう。
キング・クリムゾンは69年のファーストアルバムリリース以来、現在も継続する稀有な存在。このアルバム以降、アメーバーのようにバンド形態や音楽を変えながら存続をしているのはキング・クリムゾンというバンドに何らかの普遍性があったからに他ならない。その普遍性を決定づける素となったのがファーストアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』なのではないかと私は考えている。
推薦曲:「21世紀のスキッツォイド・マン」
A面1曲目の楽曲はアルバムリリーズ当時「21世紀のスキッツォイド・マン」というタイトルではなく「21世紀の精神〇〇者」と記されていた。2つの〇に入る言葉は「異常」だ。放送禁止用語ではないが途中からこの文言が不適切な表現としてスキッツォイド・マンと表記されるようになる。
「21世紀の~」というタイトルも凄いが楽曲としてのインパクトはそれを遥かに上回るものだった。ヘビーな楽曲として捉えることができるがマイケル・ジャイルスのドラミングが軽いことが(悪い意味ではない)この楽曲の良さを引き立てている要因だと思う。
アルバム冒頭のこの楽曲は、現在でも多くのミュージシャンにカバーされている。
美声のボーカリスト、グレッグ・レイクの声を意図的に歪ませた歌唱は楽曲タイトルとシンクロして冒頭から聴き手に混乱を与える。
最初のテーマの他にもボーカルパート後に用意された2つの印象的なリフもとにかくキャッチーだ。この辺りのメロディが秀逸なのも楽曲に普遍性を与え、多くのカバーを生んだことに納得がいく。
そして決め手になるのが終盤に控えているキメのフレーズだ。難解でありながらキャッチーなフレーズはロック史上に残るキメのフレーズといえる。誰もがコピーして挫折したこのキメフレーズ、ロバート・フィリップの「気が狂う程、練習する」というコメントにある通り、多くのミュージシャンがトライした難しいキメの代名詞になっている。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ロバート・フィリップ、イアン・マクドナルド、グレッグ・レイク、ピート・シンフィールド、マイケル・ジャイルスなど
- アルバム:『クリムゾン・キングの宮殿』
- 曲名:「21世紀のスキッツォイド・マン」
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