こんにちは。洋楽を語りたがるジョシュアです。
第15回目では、ワンマン・バンドについて語ります。ここで言うワンマン・バンドとは、一人のメンバーが実権を握っているバンドではありません。(ボストンのトム・ショルツとか、ホワイトスネイクのデヴィッド・カヴァデイルとか、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとか…)一人で全ての楽器を演奏し、作品化している芸達者なアーティストのことを指します。ポール・マッカートニー、プリンス、レニー・クラヴィッツのような有名人だとあまり面白くないので、ここではあえて「あまり有名ではない」「プログレッシヴ・ロック(以下「プログレ」)の名曲を演奏する」という掟を自分に課して、自分自身をがんじがらめにしていきます。

■ ブローディ・ドリニュック
英語表記はBrody Dolyniukですが、カタカナ表記が間違っていたらすみません。この人の記事を日本語で検索しても一切見つかりませんでしたので…。ブローディはカリフォルニア州出身で、元々はエルトン・ジョンのトリビュート・アーティストとして音楽活動を開始しました。エンターテインメントの街であるラスベガスに拠点を移住し、ピンク・フロイドだけでなく、デビッド・ボウイ、ザ・フー、レッド・ツェッペリンなどのトリビュート・コンサートで活躍するほか、”Symphonic Rockshow”という自身のショウを主催しています。そんな彼が選んだピンク・フロイドのナンバーは”Time”。プロモーション・ビデオも曲のコンセプトに沿ったもので、かなりの出来となっています。
○ ブローディ・ドリニュック “Time”(ピンク・フロイドのカヴァー)
次はスーパートランプのカヴァー。スーパートランプをプログレと呼ぶかどうかは議論がありますが、少なくともこのカヴァーは出来が素晴らしいです。ビデオを見る限り、一人で演奏しているのは疑いないようです。(酔っ払っているトッド・ラングレンのような変キャラが途中に出てきます。これだけはやめてほしいですが。)
○ ブローディ・ドリニュック “Dreamer”(スーパートランプのカヴァー)
■ タイラー・ウォーレン
今回紹介するアーティストの中では、まだ知名度がある方かもしれません。タイラー・ウォーレンTyler Warrenはクイーン+アダム・ランバートのツアー・ドラマーとして世界を回り、2020年1月の来日公演でも素晴らしい演奏を聴かせてくれました。
タイラーは、2017年クイーン+アダム・ランバートのツアー後、次のように考えたそうです。「ツアーが終わったら人生が変わっている」→「自分を保つためには音楽に没頭するしかない」→「大好きなラッシュのアルバムをまるごとカヴァーしよう」→「全部自分で演奏しても、俺がやったことを誰も信じてくれない」→「じゃあ動画も残しておこう。」
その結果、ラッシュの名作『Permanent Waves』(1980年)を完全再現しました。全てのパートの再現度が半端じゃありません。具体的には、ドラムだけでなく、ベース、ギター、キーボード、ヴォーカル、それをまとめるエンジニアリングとプロダクション…すべてが完璧すぎます。
○ タイラー・ウォーレン『Permanent Waves』(ラッシュのカヴァー)
「こいつ只者ではないな」と思って調べたところ、2016年には、自身の30歳を祝って『T30』というカヴァー・アルバムを制作していました。(ということは、まだ30代半ばということ?!)同じように、ほぼ全パートを自分で弾いて歌い、原曲を再現…いや、それ以上のものに仕上げています。ちなみに選曲はラッシュ、キッス、モトリー・クルー、フー・ファイターズ、サウンドガーデン、ミューズ、ストーン・テンプル・パイロッツ、アリス・イン・チェインズ、ジェフ・バックリーなどなど、節操がありません。これまたヴォーカルだけでなく、全パートの再現度が凄いことになっています。ありがたいことに、以下サイトで全曲を無料ダウンロードできます。タイラーに一体どれだけ才能があるのか、小一時間じっくりと尋問したいところです。(でも、こういう粘着気質なファンから逃れたいから、彼は音楽に没頭するしかないと思ったんでしょうね。)
○ タイラー・ウォーレン『T30』(ラッシュなどのカヴァー)
■ アントワン・バリル
この方も日本語表記が分かりませんでした。Antoine BarilはカナダのケベックでHemisphere Studio(この名前、ラッシュ好きならばピンときますよね)を経営するとともに、テクニカル・デスメタルバンド、Auguryのドラマーでもあります。また、ジェネシスやラッシュのトリビュート・バンドでも活躍しています。そんなアントワンは、まるでプログレを奏でるために生まれてきた人です。何故かというと、ジェネシス、イエス、ラッシュ…という3バンドの一人再現メドレーをアップしているからです。
ジェネシス・メドレーは、イントロのメロトロンだけで「キター!」と叫びたくなります。そして、ビンテージ楽器が出るわ出るわ出るわ…弦楽器では1973年のギブソン・レスポール・カスタム、リッケンバッカー4080(ギター・ベースのダブルネック)、ドラムではシモンズ、鍵盤ではメロトロン、アープ・ソロイスト、ムーグ・タウラス・ベースペダル、オーバーハイム・シンセなどなど…ハモンド・オルガンだけでは飽き足らず、教会に行ってパイプ・オルガンまで弾いています。これだけのブツを揃えるレベルの人で、演奏がダメダメなわけがありません。
○ アントワン・バリル “One-man Genesis”(ジェネシスのカヴァー)
次いで、イエスの一人バンドです。イエスの生演奏とくれば、オープニングは「火の鳥」に決まってます。ベースはもちろんリッケンバッカー4001が主体で、”Changes”では原曲通りに変則チューニングの8弦ベースも使用しています。ギターの再現度はちょっと低めかもしれません。スティーヴ・ハウと同じ1966年ギブソンES-175を使っていますが、歪みがやや強めです。一部のパートではジャクソンのギターも出ていて、「それじゃない!」というコアなファンのツッコミを受けそうではあります。
○ アントワン・バリル “One-man Yes”(イエスのカヴァー)
ラッシュのメドレーも、ドラムセットからして気合いが違いすぎます。バスドラムヘッドはラッシュ仕様になっていますし、一字一句…ならぬ、すべてのフレーズが完璧な出来です。ベースも1973年リッケンバッカー4001で再現度が高いです。唯一、ギターが1990年ギブソン・レスポール・カスタムというのが本家と違って気になるのですが、「じゃあお前が弾け」と言われると「弾けません」と引き下がるしかありません。
○ アントワン・バリル “One-man Rush”(ラッシュのカヴァー)
そろそろこのコラムを終わりますが、「キング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマー(以下、EL&P)を忘れてるじゃないか」という人がいるかもしれません。クリムゾンは著作権にうるさいという評判なので、あえてパスしました。EL&Pは一通り探しましたが、一人で演奏する奇特な方は見つかりませんでした。ただ、そういう方のご要望に応えて、アントワンがドラムを叩くEL&Pの”Tarkus” (Eruption)を用意しました。世の中には凄い人がたくさんいるものです。
○ アントワン・バリル、クリスチャン・パコー、フランシス・グレゴワ “Tarkus”(EL&Pのカヴァー)
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