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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その144 名プロデューサーの名盤特集 パート7 ~トミー・リピューマとダイアナ・クラール編~

2023-07-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

異端アルバムに対する超王道アルバムのアーティストは?

前回の鍵盤狂漂流記ではトミー・リピューマとベン・シドランプロデュースによるリッキー・ピーターソンの名盤「ナイトウォッチ」をご紹介しました。

トミー・リピューマがプロデュースするアルバムの特徴として、多くの楽器が詰め込まれることなく音が整理され、品良く、アカデミックな味わいに溢れているというのが挙げられます。また、シンセサイザーも多用されることがないのが特徴です。そういう意味ではリッキー・ピーターソンのアルバムは通常のトミー・リピューマの特色が当てはまらないプロデュースアルバムでした。2人のプロデューサーによる影響も考えられますが、出来栄えについては文句のない内容になっていました。そういう意味ではトミー・リピューマのブランド力は健在だったと言えます。

センスの良さで知られる松任谷由実さんのプロデューサーでありアレンジャーの松任谷正隆さんは、当時、このアルバムに高い評価をしていました。

今回取り上げるのはトミー・リピューマがプロデュースした中では王道中の王道であるミュージシャンです。

トミー・リピューマの秘蔵っ子、ダイアナ・クラール

ダイアナ・クラールはカナダ出身のジャズ・ピアニスト、歌手でバークリー音楽大学を卒業し、著名ベーシストであるレイ・ブラウンからプロになる誘いを受け現在に至ります。ジャズを歌い、ジャズピアノを演奏する世界的にもトップを走り続けるミュージシャンです。

ダイアナがリリースしたアルバムはどの作品もジャズへのリスペクトを欠くことなく、トラディショナルである一方で新しい局面を見せてくれる素晴らしいアルバムばかりです。リリースされたアルバムのほとんどは、プロデューサーであるトミー・リピューマが手掛けています。

ある意味でダイアナ・クラールはトミー・リピューマからの寵愛を受け、そのプロデュースワークが一番成功したミュージシャンだと言って過言ではないと思います。

これまでに数々のグラミー賞を獲得。歌う女性ジャズ・ピアニストとしては最も輝かしい実績を残した音楽家です。夫はロックミュージシャン、エルヴィス・コステロで2児の母親でもあります。

ダイアナ・クラールが歌う音楽カテゴリーはジャズからボサノバ、ポップスまで多岐にわたっています。ポップスやロックにまで及ぶ広範囲なフィールドの背景には夫であるエルヴィス・コステロの影響も大いにあるのではと考えられます。

■ 推薦アルバム:ダイアナ・クラール『ライブ・イン・パリス』(2002年)

ダイアナ・クラールのパリ「オランピア劇場」でのライブアルバムの傑作!
トミー・リピューマはダイアナの良さを強調するためのプロデュース力をいかんなく発揮している。
シンプルでゴージャス。ライブアルバムであるものの、トミー・リピューマの施術は揺るぐことはない。
上手いプレイヤーの演奏力とダイアナ・クラールの歌唱力、ピアノ力が三位一体になるシチュエーションを演出したプロデュース力には脱帽するしかない。
このアルバムでダイアナ・クラールはグラミー最優秀ジャズボーカル賞を獲得している。

推薦曲:「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」

誰もが知っているスタンダードの名曲であり超定番。ダイアナ・クラールのピアニストとしての腕がいかんなく発揮されている。この楽曲を弾いた数多のピアニストと比較してもこれだけ創造的でバラエティに富んだソロを私は聴いたことがない。ライブレコーディングされた中でのアドリブソロであるだけに、他のテイクがどうなっているのかを聴いてみたくなるのは私だけではないはずだ。
また、どの楽曲にもいえることだが、ダイアナの歌のフェイクの上手さ。それは彼女自身の持ち合わせたジャズ感というかリズム感からくるものではないかと想像する。ダイアナが歌うスキャットやフェイクにジャズのエッセンスが凝縮されている。そんな瞬間を聴けるのはライブアルバムならではの演出だ。

■ 推薦アルバム:ダイアナ・クラール『クリスマス・ソングス』(2005年)

私がこれまで聴いてきたクリスマス・アルバムの中では最も秀逸なアルバムの1つ。選曲もさることながら、ダイアナ・クラールの歌唱が素晴らしい。クレイトン/ハミルトン・ジャズ・オーケストラとの組み合わせも、楽曲アレンジも素晴らしいの一言!ダイアナ・クラールの歌唱をゴージャスでスイングしまくるオーケストラの演奏が引き立てている。
プロデューサー、トミー・リピューマの計算しつくされた施しがこのアルバムには溢れている。

推薦曲:「ジングル・ベル」

ベース、ギター、ドラムという最小限のコンボアンサンブルにダイアナのボーカルが乗るだけでジャズの世界を堪能できる。そこにオーケストラ絡み、盛り上がっていくアレンジはゴージャスそのもの。さらにダイアナのセクシーなスキャットとオケが絡みピアノソロと共に大団円を迎えるという計算しつくされた展開。トミー・リピューマの頭に描かれた画を見事に再現した展開になっている。

推薦曲:「ウインター・ワンダーランド」

ウッドベースに導かれスイングするダイアナの歌唱を聴くと、彼女の生来持ち合わせた感覚の凄さに驚くばかり。そんな体の隅々にまで満ち溢れるジャズ感覚から紡ぎだされるアコースティックピアノのソロやフィルインにも舌を巻くばかりだ。ダイアナはジャズを歌うために生まれてきたミューズに他ならない。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ダイアナ・クラールなど
  • アルバム:「ライブ・イン・パリス」「クリスマス・ソングス」
  • 曲名:「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」「ジングル・ベル」「ウィンター・ワンダーランド」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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