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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 その143 名プロデューサーの名盤特集 パート6 ~トミー・リピューマとリッキー・ピーターソン編~

2023-07-31

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

入口はデイヴィッド・サンボーン

デイヴィッド・サンボーンというアルトサックス・プレイヤーを意識したのはマイケル・フランクスのアルバム「スリーピング・ジプシー」を聴いてからだと記憶しています。今回のテーマである人物、トミー・リピューマがプロデュースするマイケル・フランクスの傑作アルバムです。デイヴィッド・サンボーンはこのアルバムで素晴らしいサックスソロを吹いていました。

今回はマイケル・フランクス~デイヴィッド・サンボーン~リッキー・ピーターソン~
トミー・リピューマという音楽マニアにありがちなチェーン・イメージングによる鍵盤狂漂流記です。

デイヴィッド・サンボーンのアルバムを聴く中で1990年代初期にリッキー・ピーターソンというオルガンプレイヤーの名前を目にしました。私が認識している限り、サンボーンのサポートキーボーディストは絶対的にドン・グローニックでした。ドン・グローニックはスティーリー・ダンやステップス・アヘッド、渡辺香津美さんなど多くのジャズ系ミュージシャンと共演歴のあるピアニストでありプロデューサーです。サンボーンのアルバム「ストレイト・トゥ・ザ・ハート」ではピアノ、オルガン、シンセサイザーを演奏し、グラミー賞を獲得しています。

私は突如としてクレジットされたリッキー・ピーターソンは全くのノーマークでした。しかも彼はピアニストではなく、オルガニストの要素が強い鍵盤弾きのようです。大学時代からプログレシブロックに心酔していた私にとってオルガンはピアノよりも思い入れの深い楽器です。一体どんな演奏をするのかに次第に興味を抱きました。

オルガンといえばハモンドオルガンです。プログレシブロックには不可欠な楽器です。私は仕事でハモンドオルガンの演奏家や日本でハモンドを製造している鈴木楽器を取材してきました。特にハモンドB3、C3オルガンはオルガンを弾く我々にとって垂涎の的です。その音は複雑でふくよか、重厚であり、レスリースピーカーを通せばワン・アンド・オンリーの音を発します。そんなハモンドオルガンをメイン楽器として使っているとなればリッキー・ピーターソンという男、到底無視することはできません。

オルガンプレイヤー、リッキー・ピーターソン

私が最初にリッキー・ピーターソンの演奏を聴いたのはサンボーンの13枚目のアルバムでマーカス・ミラープロデュースの「アップフロント」でした。冒頭曲「スネイク」でハモンドオルガンB-3によるファンキーなバッキングを披露していました。サードパーカッションを入れたパーカッシブなプレイが耳に残っています。

「リッキー・ピーターソンとは一体何者だ?」というのがサンボーンのアルバムでの印象。ファンキーでシャープであり、ハモンドオルガン演奏の新しい面を垣間見た気がしました。

リッキー・ピーターソンのプロフィール

リッキー・ピーターソンはアメリカ、ミネアポリス出身の作曲家、アレンジャー、キーボーディストでデイヴィッド・サンボーンのサポートメンバーとして名を上げました。サンボーンのサポートは20年以上にも及びます。90年代にはプリンスの作品のプロデュースも務める他、ジョージ・ベンソンやボズ・スキャッグス、チャカ・カーン、ジェームス・テイラーなど多くの著名ミュージシャンと共演し、活躍のすそ野を拡大し現在に至っています。

■ 推薦アルバム:『ナイトウォッチ』(1990年)

1990年リリースのリッキー・ピーターソンのソロ・アルバム。プロデューサーは御大トミー・リピューマとベン・シドランだ。このアルバムはトミー・リピューマがプロデュースするアルバムの中では異色の部類に入ると思う。トミー・リピューマのプロデュースの常套は音が整理されており、余分な音を使わない。また、シンセサイザーの多用もないという1つの法則がある。

しかしこのアルバムはそれには当てはまらない。リッキー・ピーターソンがキーボードプレイヤーであるという要因も影響していると考えられるが、多くのシンセサイザーが使われている。それに加えシンセサイザーのシーケンスフレーズも多用されている。音がとっても多い。もちろん、音は整理されてはいるもののトミーの法則からは逆行している印象が強い。さらにリッキー・ピーターソンのメインキーボードであるハモンドオルガンの使用も控え目になっている。この辺りはもう1人のプロデューサーであり、鍵盤プレイヤーであるベン・シドランによるところも多いのではないかと想像される。また時代がデジタル的な音を求めていた要素も強く、そういった部分も意識されたのではないかと思う。ハモンドオルガンの使用が控え目になったのも時代背景に起因するのではないだろうか。

音的に印象深いのは当時発売されたローランドのD-50シンセサイザーが多用されていることだ。D-50はまだサンプリングシンセサイザーが全盛になる前にローランドがリリースしたデジタルとアナログの中間的なシンセ。アナログでは出しにくい弦をこする瞬間の音やベルの音などの音素片とアナログ音を組み合わせて発音する楽器でヤマハのデジタルシンセサイザーDX7と同様、全世界的な大ヒットとなった。

推薦曲:「リビング・イット・アップ」

ビル・ラバウンティ名曲「リビング・イット・アップ」のカバー。ビル・ラバウンティのオリジナルはフェンダー・ローズピアノを中心にしたアンサンブルになっているが、それとは異なり、シーケンスフレーズを入れるなど軽く、よりエレクトリックなタッチになっている。ボーカルをとるのは本人。リッキー・ピーターソンはキーボードプレイヤーであるが歌も抜群に上手い。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:リッキー・ピーターソン、デイヴィッド・サンボーンなど
  • アルバム:「ナイトウォッチ」
  • 曲名:「リビング・イット・アップ」

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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