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シンセサイザー鍵盤狂漂流記 ~ボサノバのジャズ名曲、名盤特集~その104

2022-11-14

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

ボサノバジャズパートⅣ

ボサノバジャズをテーマに取り上げた前回に続いて、ボサノバ楽曲を切り口にしたジャズを取り上げるボサノバ的ジャズ、パートⅣです。

ジャズミュージックからブラジル音楽への回答

前回はボサノバという音楽に強く影響を受けたジャズミュージシャンがジャズというイディオムでボサノバを演奏するというボサノバジャズ、言い換えればボサノバ風味ジャズをご紹介しました。
今回はジャズのスキルを要するミュージシャンがボサノバの要素を取り入れるのではなく、既存のボサノバをリスペクトしたうえで自らの音楽的スキルでボサノバを演奏した名盤の紹介です。

2人のマイルス・デイビスバンド出身のアルバム紹介!

今回のエポックはご紹介する2人のミュージシャンが両者ともマイルス・デイビスバンド出身のオルガニストとギタリストであることです。
現在に至るまでマイルス・デイビスバンド出身のミュージシャンはジャズシーンの中心であり、多くのジャズ創造してきました。ウエイン・ショーター、ジョー・ザビヌル、ビル・エバンス、ジョン・コルトレーン、キャノンボール・アダレイ、トニー・ウイリアムスなどなど、挙げたらきりがありません。
マイルス・バンド出身者イコール「間違いのない音楽家」と言われるほど、マイルス・デイビス由来の強い影響力と指導力、創造力を持っていました。

■ 推薦アルバム:ジョーイ・デフランセスコ『ESTATE』(2008年)

推薦曲:「エスターテ(夏)」

このトラックでデフランセスコはボサノバの名曲「エスターテ」を素材として使い、自分流の「エスターテ」を展開している。13分超の長尺。
楽曲は憂鬱さを含んだ元々ゆっくりメロディを更に遅くしたテンポで、この曲の気怠い感じを強調している。
アルバムにはピアニストとしてマッシモ・ファラオが参加している。マッシモ・ファラオは1965年生まれのイタリア人ピアニスト。ソロアルバムも多くリリースしている。
このファラオとデフランセスコのアコースティックピアノとハモンドオルガンによる掛け合いが、このトラックの聴きどころと言ってもいいだろう。演奏者の互いの反応から一発録りということが分かる。両者とも美しいメロディラインのアドリブソロを繰り広げている。
また、デフランセスコはトランペットもプレイする。この「エスターテ」のアウトロ部分ではそんなデフランセスコのトランペットプレイも必聴だ。デフランセスコはハモンドでコードバッキングやベースラインを弾きながら、右手でトランペットがプレイしている。そんなフランセスコの天才ぶりが遺憾なく発揮されているトラックだ。

推薦曲:「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」

冒頭は「サマータイム」?と勘違いする程のジャズではよくある仕掛けから始まる。
早めのワルツのテンポでフランセスコのハモンドとファラオのピアノがユニゾン弾きをするという意外な展開。
後半部分のフランセスコのハモンドの早弾きには、いつものことながら圧倒される。

■ 推薦アルバム:ジョー・ベックトリオ『ブラジリアン・ドリーミン』(2009年)

ジャズギタリストのジョー・ベックがリリースしたジャズボッサをテーマにした名盤。
フランスの写真家、ジャン・ルー・シーフの写真をジャケットに採用し、リオデジャネイロ海岸をイメージさせる洒落た設えになっている。
マイルス・デイビスと共演歴のあるジョー・ベックのギターはよく唄うフレーズに定評があり、私の好きなギタリストの1人。ファーストアルバムも非常によくできている。
ボサノバという音楽ジャンルへのジャズギタリストからの回答と言ってもいいかもしれない。
取上げている曲はジョビンの「カーニバルの朝」「オ・グランジ・アモール」「フェリシダージ」「彼女はカリオカ」など、ボサノバの重要曲が多い。
トリオによる演奏でピアノレスの為、コードバッキングの音が少なく空間を生かしたベックのギターが美しく響く。
元々、ジョー・ベックはマイルス・デイビスの音楽が電化した時にマイルスバンドに加入したギタリストだ。推薦者がギル・エバンスだったことから、古いタイプのギタリストとは異なるフレージング展開がある。
また、2曲でパット・メセニーグループのハーモニカ奏者、グレゴワール・マレーハーもフューチャーされ、サウダージ感溢れる音色がブラジリアンテイストを高めている。

推薦曲:「夢見る人生」

イントロは洒落たメロディを有するコードカッティングから始まる。イントロからボサノバでは無い展開に驚かされる。
このトラックはベックのエレクトリック・ギターとアコースティック・ギターなど、数本のギターが被せられている。Aメロからはアコースティック・ギターのバッキングがあり、ボサノバのフィールドに戻る。最初のソロはアコースティック・ギターによるアドリブで、それを受ける形でエレクトリック・ギターのアドリブにスイッチする。ベックのソロは歌心に溢れ、ストレート・アヘッドなジャズとは異なるフレーズに新世代のギタリストを感じる。とはいえ、後半のギターソロではウエス・モンゴメリーばりのオクターブ奏法を決めるなど、ジャズギタリストとしてのベースもしっかりと押さえている。

推薦曲:「愛の語らい」

冒頭のAメロのテーマはパット・メセニーグループのハーモニカ奏者であるグレゴワール・マレーハーから始まる。ギタリストの名義のアルバムで意表を突かれる展開。メセニーのお眼鏡に適うだけあり、サウダージ感溢れるメロディを歌うマレーハーのハーモニカプレイは流石の一言。このメロディを奏でるのはギターではなく、ハーモニカだろうと賛同せずにはいられない。
ハーモニカソロはギターバッキングのテンポを倍にするなど、工夫が凝らされている。


今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲

  • アーティスト:ジョーイ・デフランセスコ、マッシモ・ファラオ、ジョー・ベックトリオ
  • アルバム:「ESTATE」「ブラジリアン・ドリーミン」
  • 曲名:「エスターテ」「夢見る人生」「愛の語らい」

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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