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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤とシンセ名盤の数々~ その81

2022-06-25

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」, 音楽全般

1981年Jポップの大名盤「リフレクションズ」
「ア・ロング・バケイション」のアレンジャー、井上鑑氏がアレンジ!

今回の鍵盤狂漂流記のテーマはJポップの名盤「リフレクションズ」です。といってもピンとくる方は少ないと思います。しかし、「ルビーの指輪」といえば、寺尾聡とお分かりいただけると思います。
その「ルビーの指輪」が入っているのが「リフレクションズ」なのです。
この「リフレクションズ」は前回に紹介した大瀧詠一の大名盤、「ア・ロング・バケイション」と同じ1981年に発表で共通項も多いです。今となっては大名盤の影に隠れた「幻の名盤」です。
「ロンバケ」と同じアレンジャー、井上鑑氏がアレンジを手掛けていますし、作詞者の松本隆氏も部分的に被っています。
また、このアルバムには新旧の「リフレクションズ」が存在するという珍しいアルバムでもあります。
今回は2つの「リフレクションズ」をご紹介します。

■ 推薦アルバム:寺尾聡『リフレクションズ』(1981年)

このアルバムは井上鑑氏が当時、走りだったクロスオーバー的な要素をアレンジに取り入れています。そのソースはラテンであったり、ボサノバであったりします。
井上氏の施す白眉な楽曲への化粧が、アルバムを洗練された内容に仕立てています。その代表格が「ルビーの指輪」であり「ハバナ・エクスプレス」です。
ジャケット写真は予算があまりなく、音楽スタジオの暗い廊下で寺尾氏がタバコの火で「Love」と書き、直後にストロボを2発焚いて撮影されたジャケットだそうです。アイディアがシャレていますよね。
井上鑑氏には以前、番組でインタビュー取材をしたことがあり、クールで聡明な方だったと記憶しています。

推薦曲:「ルビーの指輪」

「ルビーの指輪」のイントロはJポップ史上、稀に見る優れたイントロの1つです。
頭のキメの繰り返されるフレーズのバッキングのコードも同じかと思いきや全て違います。その後に来るテーマもミニモーグシンセサイザーが絶妙な音で唄います。
「ルビーの指輪」というドラマの始まりに用意された最高のイントロです。井上鑑さんのアレンジ力の高さが伺えます。
歌パートに入ってからのギターとベースのアンサンブルもこの曲に独自なグルーブを与えています。
ギター:今剛、ベース:マイク・ダン、ドラム:林立夫といったファーストコールミュージシャンの選択が楽曲の出来栄えをアップさせるのをアレンジャーは分かっていたのだと思います。

存在感半端ない音、ミニモーグ!

MiniMoog synthesizer

イントロのテーマを唄う、くぐもった太いシンセの音はミニモーグでしか出すことができません。アナログシンセサイザーを代表する音です。内省的な男のドラマを語るのが松本隆氏で、この音こそがこれから始まるドラマを想起させる機能を果たしています。
実際のライブで井上氏はミニモーグの進化形、ミニモーグボイジャーを使用しています。

井上さんではないキーボーディストによるライブでは、ミニモーグではなくヤマハのデジタルシンセサイザーDX7Ⅱを使って、テーマの音を出していましたがDXでは音が薄く、オリジナルのイントロの格調性が失われていました。DXではミニモーグの太い音は出せませんし、曲自体のムードが違うものになっていました。
DX7系、FM音源が得意とするのはエレピやスティール・ドラムなど、パーカッシブな音です。FM音源でミニモーグ的な音を出すのは、ほぼ不可能です。

もう1つ印象黄な箇所は1コーラス目の終了後、ブレイク後にビブラフォンによるキメのコードが入る部分です。直後のビブラフォンによるオブリガード…カッコよすぎます。3コーラス目前のイントロ部は最初のイントロが倍です。「♪~そして2年の月日が流れ去り」という歌詞に呼応しているのでしょうか?
1曲の中で同じことを繰り返さないというアレンジャーの矜持を垣間見ることができます。

■ 推薦アルバム:寺尾聡『リ・クール・リフレクションズ』(2006年)

収録曲は旧「リフレクションズ」と同じ。しかし、アレンジは全く異なっている。
「ルビーの指輪」はスタジオバージョンとは別の2トラックが収められている。
旧作より、15年という時間が流れている。新たな化粧をされた楽曲は趣は異なるが、楽曲の持つ設えに影響はなく、古さも感じない。聴き比べると面白い。

アルバム参加ミュージシャンは…

このアルバムのパーソネルも凄い。キーボードとアレンジが旧「リフレクションズ」を担当した井上鑑、絶頂期のウエザーリポートドラマー、パーカッショニストのアレックス・アクーニャ(Per)、チック・コリアとも共演したヴィニー・カリウダ(Dr)、ベースは高水健司、ギターは今剛、トロンボーンに村田陽一など国内外のトップミュージシャンが名を連ねている。前作に比べ、ヴィニー・カリウダのリズムの方が若干重めの(悪い意味ではありません)印象を受ける。「Re-Coolルビーの指輪」など、アレンジの違う演奏に起因しているかも知れない。

推薦曲:「Re-Coolハバナ・エクスプレス」

1曲目の「ハバナ・エクスプレス」は当時のクロスオーバーの匂いを残しながら見事なジャズフュージョンに仕上げている。
テーマに別のテーマが被り、高度なキメを伴う絶妙なイントロ…。このイントロだけでもこのアルバムを聴く価値がある。スティール・ドラムを全面に出したカリプソ的アレンジが秀逸。

推薦曲:「ルビーの指輪1981」

ホーンアレンジによる「Re-Coolルビーの指輪」とは別のオリジナル曲に忠実なバージョン。テーマを唄うミニモーグの音はより厚みが増し、僅かにポルタメントがかかっている。モーグの唄い方もよりタメが効いている。アウトロ部分での井上氏のエレピに注目して欲しい。遊びまくっている。必聴!

今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • 寺尾聡、井上鑑、ヴィニー・カリウダ、アレックス・アクーニャなど
  • アルバム:「リフレクションズ」「リ・クール・リフレクションズ」
  • 曲名:「ルビーの指輪」「Re-Coolハバナ・エクスプレス」「ルビーの指輪1981」
  • 使用機材:ミニモーグ、フェンダーローズ・エレクトリックピアノなど

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鍵盤狂

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 
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