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蠱惑の楽器たち 24.ギターのレギュラーチューニング2

2021-11-30

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

前回に引き続きレギュラーチューニングについて解説します。

■ 現代においてレギュラーチューニングは理想?

レギュラーチューニングに落ちついた理由は開放弦を使った和音を重視した結果だと思われます。それは響きの悪いアコースティック楽器で生音勝負という部分が大きいということです。

しかし、楽器を取り巻く環境は大きく変わりました。特に電気を利用した音量増幅は根幹を揺るがします。ジャズで使用するギターは、エレトクリックギターです。他の楽器に負けない音量が必要なのでアコースティックギターのままではジャズセッションに呼ばれることはなかったでしょう。またプレイスタイルは複雑になり、開放弦を多用した単純な和音はほとんど弾かず、指板上のあらゆるポジションでテンションを含む和音を弾いていくスタイルです。ロックでも似たような事情になっています。

そう考えるとレギュラーチューニングが有効なジャンルは、開放弦を使った和音を多用する弾き語りや、古典であるクラシックのようなジャンルということになります。テクニカルな現代的なプレイスタイルになればなるほど、レギュラーチューニングの必要性は薄れていきます。

■ 4度チューニング

4度チューニングは楽器として美しいチューニングと言えます。上記のようにジャンルによってはレギュラーチューニングの必要性も薄れています。しかし現在4度チューニングで演奏している人は、ほとんどおりません。有名どころでは、ジャズギタリストのスタンリー・ジョーダンが採用しているぐらいでしょうか。

単音でソロを弾く場合は、全弦メロディー弦と言える状態なので、圧倒的に4度チューニングにメリットがあります。スケールも弾きやすくなります。

和音演奏においても、開放弦や全弦を使った基本和音を多用しないのであれば問題は皆無です。全弦を弾く意味は生音で音量を稼ぐためなので、アンプを通すのであれば大きな支障はありません。また音色によっては濁りやすいので、一度に弾く本数は最小限の方が良い場合も多いと思います。

一度に弾く本数が減ることで、4度チューニングは、さらなるメリットが生まれます。覚えるコード等のフォームが激減するということです。1/2、1/3というレベルで学習コストが下がります。ジャズや、テクニカルなプレイをするギタリストには、本気で4度チューニングを勧めたいと思っています。

逆に4度チューニングのデメリットとしては、既存曲をそのまま演奏しにくくなるということと、今までレギュラーチューニングで習得してきたことの一部が無駄になったり、さらに新たに習得する必要があるということです。また教わるにしても、教えるにしても困ることは多いと思います。人によっては致命的なデメリットと言えます。

■ 5度チューニング

ついでに5度チューニングにも触れたいと思います。チェロはバイオリンと同じ5度チューニングです。チェロとギターの弦の長さは近いので、それほど無謀なチューニングとは言えないです。同ポジションで広い音域を演奏したい場合は有効ですし、和音においても、よりオープンボイシングな演奏に向いています。ギタリストのアラン・ホールズワースは一時期5度チューニングしたギターも並行して演奏していましたが、弦が6本なので、入手できる弦の太さや、糸巻の関係などから、きれいな5度チューニングではなく、最低音のFだけオクターブ上げていました。本人もインタビューでちゃんと使えるのは4本だけということを言っていました。5弦はブーミー過ぎる音色が気に入らなかったのでしょう。ちなみに6弦をオクターブ上げず5度チューニングするとベースの最低音の半音上の音(F)になりますので、いろいろ無理があります。5度チューニングでは5本が限界だと思います。

■ ウクレレの不思議

ギターから離れますが、ウクレレのチューニングはギターの1~4弦という感じで、下図のような並びになっています。ノーマルチューニングと呼ばれる張り方では、4弦は一番低い音ではなく、2弦よりも高い音です。4本しかないのに、ギターと同じように長3度が入っている不思議なチューニングです。普通に考えれば4本であれば迷わず4度もしくは5度チューニングをすればよいと思ってしまいますが、歴史的にもルネサンスギターの流れが入っているように感じます。このチューニングは考えようによっては、6コースリュートの1、6コースを省いたチューニングともいえます。1、2弦はメロディー弦で、3、4弦は伴奏弦という感じです。

また4弦がオクターブ上がっているところも違和感がありますが、伴奏楽器と考えれば、アップダウンが同じような雰囲気になるので、合理性はあります。また低音よりも煌びやかな高域を求めているのが分かります。低音が必要であれば低音楽器とアンサンブルすればいいという感じでしょうか。音域がどうのとか、そういうスペックの価値観とは違った、おおらかな雰囲気を楽器からも感じます。

■ 最後に

レギュラーチューニングは理想的というわけではなく、開放弦を多用した基本和音を全弦で弾くために、他を犠牲にした妥協の産物であるというのが個人的な見解です。エレクトロニクスが発展した現代においては、それほど優れたチューニングでもないのですが、デファクトスタンダードであり、その資産が膨大なので、何かと無難であることは確かです。

逆に4度チューニングは、ようやく日の目を見ることができる時代に突入したと言えます。(すでに準備が整ってから半世紀ぐらい経ちますが・・・)レギュラーチューニングからの変更も1、2弦を半音上げるだけなので、弦の張り替えも必要なくお手軽です。オリジナリティを追及したテクニカルなプレイをする人たちには、ぜひ試して欲しいチューニングです。気になるのは、個人的に最も進化したギタリストと思っているアラン・ホールズワースが、5度チューニングは試していても、4度チューニングで弾いているのを聞いたことがありません。彼が試さなかったというのは、何か重大な盲点があるのかもしれません。今のところ私的には盲点は見当たらないのですが。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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