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蠱惑の楽器たち 14.ポリフォニック楽器

2021-10-25

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

世界には様々な種類の楽器がありますが、和音を出せるポリフォニック楽器は意外と少なく、ほとんどが単音を出すモノフォニック楽器となります。また和音が扱える楽器でも、自在にコードを弾ける楽器となると、鍵盤楽器と弦楽器が有利で、他の楽器はコードが弾けないか、かなり苦手とします。

具体的には以下のような楽器がコードを弾けるポリフォニック楽器となります。

  • ピアノ、オルガン、アコーディオン、電子楽器などの鍵盤楽器
  • ギターのようなフレットを持つ弦楽器
  • ハープのような多くの弦を持つ弦楽器

これ以外で、コードを弾ける楽器というのは、あまり一般的ではありません。ハープ人口もそれほど多くはないので、鍵盤楽器とギターが大多数を占めることになります。構造がシンプルなギターは昔から安価で入手しやすく、ギター人口はアコースティック鍵盤楽器を常に上回っていましたが、電子楽器が普及してからは、鍵盤も安く購入できるようになり、おもちゃまで含めれば現在では鍵盤が優勢かもしれません。

■ 完全楽器

1台でメロディ、ハーモニー、リズムの3要素を同時に演奏できる楽器を完全楽器と呼びます。鍵盤楽器は完全楽器で、中でもピアノの表現力は音域、強弱表現など他を圧倒しています。

ギターも完全楽器扱いされますが、鍵盤楽器ほどの自由度はありません。音域はそれほど広くなく、和音数も6本しか弦がないので6和音までです。奏法的にも左手で音程を指定して、右手で発音するので、自ずと限界が見えやすいです。同じ完全楽器でも鍵盤楽器とは雲泥の差があるのです。

■ 楽典などの和声の学習に適した楽器

和声を学習するためには、当然和音が出せる楽器が必要で、どんな楽器の奏者でも鍵盤を使って学習します。今のところ音楽の学習には鍵盤が欠かせないと考えてよいでしょう。

そんな中、ギターは自ら和音を出せるので、鍵盤に頼らなくても和音の学習が可能になっています。ただ多くの場合、鍵盤を使った学習方法で書かれているのでギターでは学習しにくいのが現状です。ギター人口を考えれば、ギターを使った学習方法が、もう少し充実していても不思議ではないのですが、現状ではギタリストも素直に鍵盤を使った学習をする方が良いように思えます。鍵盤的な考え方を知ることはギターを弾く上でも役立つはずです。鍵盤を知ると、ギターは「多少なら和音も弾ける」程度の楽器だということを認識することになります。

■ ポリフォニック楽器の未来

電子楽器の自由度を生かせば、様々なインターフェイスのポリフォニック楽器を作れるのですが、鍵盤の呪縛から開放されるのは難しそうです。ボタンひとつでコードを鳴らすような楽器もありますが、これだと和音の構造を理解することはできないので学習には向きません。仮に学習にも使える構造的に優れたインターフェイスを考案しても、現状の学習基準が鍵盤となっているので、やはり普及は難しい気がします。学習という意味では鍵盤というよりは五線譜こそが基準となっていますので、五線譜的なインターフェイスを持つ楽器があれば、いろいろ重宝されるかもしれません。

DAWにあるピアノロールは、名前の通り鍵盤を模したインターフェイスです。これに五線譜的な要素を加えると、学習にも使いやすいインターフェイスになるかもしれません。下図はピアノロールに五線譜を重ねたイメージです。キーが変わると五線譜の線の位置も移動するといった具合です。さらに工夫すれば楽譜との親和性も増すと思います。

ということで鍵盤がデファクトスタンダードとして、ポリフォニック楽器の王として君臨し続けそうです。

ギターは、たった6本の弦で、なんとかするという割り切った姿勢のまま、これからもポピュラーな楽器としての地位を貫くように思います。コストパフォーマンス重視で、音楽の学習用には不向きですが、ロックなどの新しいジャンルを築いてきた立役者でもあります。学習に不向きなギターだからこそ、既存概念にとらわれない発想が生まれ、新しい音楽文化さえも生み出せたともいえます。理想的な楽器だけでは音楽もつまらなくなってしまうかもしれません。少なくとも世の中に鍵盤楽器だけしかなかったら、音楽の多様性は生まれにくかったでしょう。

ポリフォニック楽器の鍵盤とギターに立ち向かえる楽器があるとしたら、おそらく既存楽器から離れたところからでしょう。音楽を切り出して再構成するリミックスなどは、ひとつの現れかもしれません。今後はAIなどを利用した自動生成技術が発展するでしょうから、AIに指示するだけで、イメージ通りのアドリブや、作曲などが出来るようになっていくはずです。文明の利器を使うことにより、本来地道に努力する部分を飛び越えるわけですが、基礎をしっかり習得した人との差が埋まるわけではありません。ただ今までにない手法が、新しい音楽文化をもたらす可能性は秘めています。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
blog https://achapi2718.blogspot.com/
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