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蠱惑の楽器たち 13.楽器の音色(共鳴)

2021-10-25

テーマ:音楽ライターのコラム「sound&person」

楽器の音色を語るうえで欠かせないのが共鳴です。管楽器の場合は、共鳴により音程を作りますし、ギターやピアノなどの弦楽器は、ボディが共鳴装置として働き、音量を確保しています。膜鳴楽器も弦楽器と似た構造といえます。

■ 管楽器は共鳴で音程を得る

金管楽器では、管の長さで共鳴できる音は決まります。適切な息を吹き込むことで唇が振動し、管との協調作業として音が鳴ります。管の長さが固定なら、倍音しか出すことができません。共鳴を利用した音程確保は管楽器の基本原理となります。管楽器は構造によって扱える倍音も変化します。

下はトランペットの管を短くしたときに共鳴ポイントとなります。青の基音は使いません。

■ 弦楽器は共鳴により音を拡大

弦楽器の音源は弦ですが、弦の振動だけでは空気を振動させるには不十分で、大きな音は出せません。楽器本体の多くの部分は共鳴による音量拡大装置として機能します。ただし弦の音をそのまま拡大することは出来ず、癖のある音となります。見た目は同じ形をした楽器でも楽器ごとに違う音がします。それだけ共鳴装置は音色に及ぼす影響が大きく楽器の優劣に関わってきます。アコースティック楽器の場合は、基本的に共鳴装置は箱形状になっています。箱の中で音は反響し豊かな音になります。箱の大きさによって、響きやすい音域が変わってくるため、楽器の音域に合わせたサイズとなるのが普通です。

また箱の材質によっても音色は変わります。多くの場合、伝統的な木材を使いますが、ギターでは、様々な材料が試されてきました。金属、グラスファイバー、カーボンファイバー等です。おもちゃのギターなどでは、安いプラスチックを使ったものもありますが、やはりチープな音になります。主な理由は音を吸収する内部損失が大きすぎるためです。逆に金属は内部損失が少ないのですが、材料が持つ固有のキンキンとした音になってしまって、あまり心地よくありません。定着したのはカントリーで使われるレゾネーター付のギターぐらいでしょうか。一部が金属で、音量を上げるのが目的の構造です。

内部損失が大きすぎず、小さすぎない材料を採用したのは、1960年代後半からです。オベーション社がギターのボディーバックにグラスファイバーを用いたギターを発表し、見た目も斬新で、世界中に広まりました。トップ板は木材を使うことで、大きく音質を変えなかったのが、成功した理由だと思います。人工材料のメリットは、ある程度音響特性もいじれるところと、安定した品質で大量生産できるところでしょう。より音響的、強度の面でも有利なのはカーボンファイバーですが、高価な材料がネックとなって、普及する兆しはありません。未だにギターの材料は木材が主流です。

■ 弦楽器のデッドポイント(ウルフトーン)

弦楽器のウィークポイントです。箱には共鳴しやすい周波数があります。その音と同じ音を出すと他の音程よりも大きな音が出てしまいます。ギターなどの場合は、大きな音が出るのは、まだよいとして、問題はサスティーンが得られないことです。音を鳴らした瞬間から減衰していくだけなので、デッドポイントの周波数によっては致命傷になりかねません。オクターブ関係の音も同じ現象が出ますので、必ずどこかにポイントがあります。問題があまりないように、1/4音のところに持ってくるなど、共振周波数をズラす微妙な調整をする場合もあります。
また鳴りの悪いギターほど、このウィークポイントは目立たない傾向にあります。目立たないからといって喜べないのです。

■ ブラスバンドでコントラバスの音が聴こえない

まずブラスバンドにコントラバスが存在していることがちょっと不思議です。管楽器主体で、しかも同音域にチューバがいるにもかかわらず、コントラバスもいるのですから。作曲者が弦特有の低音が欲しかったことから定着したのでしょうか。そんな紅一点のコントラバスですが、実際コントラバスの音は隠れて聴こえないことも多いです。ただ、それなりのホールで演奏する場合はちょっと違ってきます。コントラバスにはエンドピンという、ボディに接続する棒があって、これが床に接地させて演奏します。弦振動は、まず固体に伝達してきます。その固体が振動し、空気を振動させて音になるわけですが、エンドピンがあることで、床にも伝わって行きます。これによって、コントラバス本体だけでなく、ホールの床も楽器の一部として共鳴させられるという訳です。ちょうど音叉をテーブルに接地させた状態です。これによって弦楽器特有の柔らかい響きを空間に伝えることができます。ただコンクリートの床ではそうはいかないので、コントラバスはやはり聴こえないと言われます。様々な環境で演奏するならば、電気的な増幅もありだと思います。

■ エレクトリックギターのボディは不要?

主流のボディ構造はソリッドボディという、中身の詰まったボディで、箱ではありません。しかも音の入口のピックアップは、弦の振動を磁力で直接拾います。これを電気的に増幅するわけですから、アコースティックギターのようなボディによる音量拡大という役割が、そっくり電気に置き換わった状態と言えます。それでもボディの役割は音色を決定づける重要な要素とされ、軽視されることはありません。ソリッドボディならではの追及となるわけです。

■ 音叉の共振

ご存じのように音叉は、2本の棒の1本を振動させると対になって振動し純音が持続します。これは共鳴というよりは共振と言った方がしっくりきます。音叉の棒は平行になっていますが、鋭角から鈍角にしていくと、共振しにくくなっていきます。

鉄琴などは板を並べた構造ですが、あれをUの字、もしくは2枚を平行にして接続すれば、持続音が伸びるので、メリットはあると思うのですが、そういう楽器はなさそうです。すぐに純音になって面白味がない音色というのが存在しない理由かもしれません。

■ 共振の不思議

共振現象には、いろいろ面白いものがあります。音楽に近いということで、メトロノームの事例を紹介したいと思います。機械式メトロノームを100個並べて、同じ設定にして同時に鳴らすと、始めはばらつきますが、そのうち同期します。

きっとメトロノームからすると周りに合わせた方が楽なのでしょう。最後まで抵抗していたメトロノームの気持ちは気になりますが、全員シンクロすると気持ち良いというか、凄みすら感じます。これって合奏にも言えますね。


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あちゃぴー

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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