
アクティブ・スピーカーの機能と仕様は、様々な角度から説明されており難解です。しかし、仕様に使われている専門用語を理解すれば、購入しようとしているスピーカーが自分の求めるものであるかを確認することができます。パッシブ・スピーカーであれば、最大許容入力(W)は良い音質で安全に音を鳴らすのに、最も重要なパラメーターと言えます。
しかしながら、アクティブ・スピーカーにおいては、考慮しなければならないパラメーターがいくつかあります。これらのパラメーターの意味を明確にし、それらの関係について説明します。具体的には、「ワット(W)は音圧(SPL)とは違う」というような内容です。では、なにが違うのか理由を確認していきましょう。

ドライバー感度の意味
ドライバーとトランスデューサーは、共に電気的なオーディオ信号を音に変換するものです。ドライバーにはいくつか仕様があり、その中の1つが「感度」です。ドライバーの感度とは、電気的な出力とそれにより生成された音の大きさの関係を表すものです。感度は、1W(2.83V@8Ω)のパワーを掛けたときの音圧dB(スピーカーからの距離1m)により表されます。例えば、仕様に87dB(1W/1m)などと掲載されています。オーディオ業界で作られたこの標準規格により、ドライバーの感度が比較できるのです。
感度が高ければ高いほど、同じ入力パワーで再生したときの音が大きくなります。例えば88dB(1W/1m)が平均で84dB以下は感度が低いと言えます。92dB(1W/1m)クラスの高い感度は、需要が高いです。
ドライバー出力を3dB上げるためには、アンプのパワーを2倍にしなければなりません。6dBなら4倍にする必要があります。感度が88dB(1W/1m)のドライバーなら、91dB(1W/1m)を得るのに2W必要になります。
注意
ドライバーの感度は、ドライバーからの距離とアンプのパワーによって決まる音の大きさであり、音質の優劣には関連性がありません。
ドライバー効率
ドライバー感度と効率は関連性がありますが同じではありません。しかし、技術者以外からは、しばしば同じ意味で使われています。効率はアンプのパワーとドライバー出力の比率であり、パーセンテージ(%)で表されます。感度のほうは、ワット/メーター(W/1m)で表されます。
現実には、ドライバーがアンプのパワーを音に変換するときの効率はあまり良くありません。効率は通常0.1%~2%であり、アンプパワーのほとんどが、ドライバーにおいて機械抵抗、摩擦、熱などで失われ、音となるのは僅かです。
ドライバーの物理的な制限
この点において、メーカーがどうしてできるだけ感度が高いドライバーを作ろうとしないのか。その理由は、十分なレベルの感度を得るには妥協しなければならないことが数多くあるからです。例えば、コーン・ドライバーは感度を上げるために軽くすると柔らかくなり、歪みが起きやすくなります。また、ドライバーレスポンスの不要なピークを避けるために、感度を落とす必要もあります。適切な設計とは、あらゆる妥協点とのバランスの結果です。例えば、2つのパラメーターがドライバーのパワー変換能力に影響します。
熱による制限
過大なパワーはボイスコイルギャップ間で収縮を繰り返し、熱を帯びます。ボイスコイルは巻線コイルからできていて、流れる電流に応じてトランスデューサーのコーンを駆動します。熱は、ボイスコイルの変形や接着剤の軟化、絶縁皮膜の焼損などを起こします。さらに、トランスデューサーは、保護できる限界レベルまで駆動されると感度は通常3dB程度落ちます。この現象は「power compression」と呼ばれています。
機械的な変位
過大な入力はドライバーを大きく振幅させ、設計値を超えて動きます。これによりボイスコイルが規定以上に動いてしまい、元の位置に戻らなくなります。

変位が増えるとどうなりますか?
技術的には「点音源」と呼ばれている位置からの距離が離れていればいるほど、聞こえる音のレベルが下がります。空気を介した音は、距離に応じてエネルギーを失っていきます。一般的なルールは、距離を2倍にすると、サウンドレベルは1/4になります。数学的に表すと、無反射の状態で、点音源からのサウンドレベルは、距離を2倍にすると6dB下がります。この法則は「逆二乗の法則」と呼ばれています。
標準の「逆二乗の法則」で表すと、感度86dB(1W/1m)のドライバーをアンプ出力100Wで駆動するとき、1m離れた点で測るサウンドレベルは106dBです。2mにすると、106dBから100dBに落ちます。4mにすると、さらに6dB下がって94dBになります。
音圧(SPL)とは
音圧は人によって感じ方が違うために、客観的な数値で表現します。音圧レベルとはなにかを理解するために、まず「音圧」の意味を理解する必要があります。
0dB SPLは健康な若い人が1kHzの音を聴くことができる平均的な音圧レベルです。
スピーカーの仕様を見ると、2種類のSPLが記載されています。
- 最大SPL(Lピーク)
瞬間的な最大音圧 - 等価平均SPL
特定の時間間隔において測定された平均の音圧レベル
さらに、科学的根拠があり、再現性がある値にするために計測値とともに、測定条件の記載義務があります。
アクティブ・スピーカーの仕様
アクティブ・スピーカーシステムは周波数帯域別に割り当てた複数のドライバーから構成されます。それぞれ帯域専用アンプから出力された信号は、アクティブ・クロスオーバーフィルターを通り、低レベルオーディオ信号でも周波数帯域別に分離され、それぞれ帯域専用のドライバーから出力されます。
アクティブ・スピーカーシステムの仕様にはドライバー感度、効率、インピーダンスが表記されていません。なぜなら、アクティブ・スピーカーは包括的なシステムとして設計されていて、メーカーは各パワーアンプとベストマッチする最適なドライバー感度を選択しているからです。このシステムのために問題となる仕様はSPLです。つまり、ある距離において、どのくらい大きい音を再生できるかということです。
これまでの説明から、パワーアンプ出力のみならず、ドライバー感度、効率、インピーダンス、物理的制約が重要な設計要素であることがわかると思います。開発担当者は、目標である仕様(最大SPLと等価平均SPL)を実現するための適切な選択をしています。

結論
アクティブ・スピーカー設計において、同じSPLを技術的に実現するためのパワーアンプとドライバーの組み合わせは無限にあります。
低い感度のドライバーは大きいアンプパワーが必要であり、逆もまた同様です。インピーダンスが違うと必要な出力も変わります。
アクティブ・スピーカーにおいて、音に関連した最も重要な仕様はSPLです。最後に、アクティブ・スピーカーを選択するとき、注目すべき最も重要な指標は音質と原音に忠実なサウンドの再現性であることも忘れないでください。
この記事はQSCによるHow to Understand All Those Loudspeaker Specsの翻訳です。