
インイヤーモニターの使用については、好む人とそうでない人がいます。とはいえ、多くのミュージシャンはいずれインイヤーモニター(IEM)を使用しなければならない状況に直面するでしょう。例えば、特定のdBレベル以下に最大音量を制限する必要がある会場などです。
インイヤーモニターとフロアモニターの利点
最適な音量レベル
フロアモニターは、アンプを使った楽器とアンプを使っていない楽器の間でボリューム戦争を引き起こしがちです。シンガー、アコースティックギター、キーボード奏者は、アンプを使ったエレキギターやベースの音、さらにはドラムの音にかき消されて自分の音が聞こえない場合があります。そこで彼らは「もっと音を上げてくれない?」と頼まなければならなくなります。インイヤーモニターを使えば、ライブサウンドでもスタジオ・クオリティの音を実現でき、ミュージシャンは自分が聞きたい音を選べます。
自分でコントロール
ミュージシャンにとって、自分が聴く音を直接コントロールできるのは、インイヤーモニターの最も魅力的な点かもしれません。何かの音をもっと聴きたい場合は音量を上げ、逆に何かの音を減らしたい場合は音量を下げられます。
声帯の負担軽減
フロアモニターはステージミックスの音にかき消されて自分の声が聞こえない場合がよくあります。その結果、歌手は声を張り上げ過ぎて声帯を傷めてしまいます。インイヤーパーソナルモニターを使えば、歌手はステージノイズに負けずに自分の声を明確に聞くことができて、無理に声を張り上げる必要がありません。
フィードバックの排除
フィードバックは、スピーカー(主にフロアモニター)から増幅された音がマイクで拾われ、再び増幅されて発生します。インイヤーモニター (IEM) を使用すると、スピーカーが耳の中に密閉されるため、フィードバックループが途切れ、このような問題が解消されます。
クリーンな観客用ミックス
IEMを使用すると、シンガーにとってほぼ無音のステージ環境を作り出し、フロントオブハウスのエンジニアがハウスミックスを完全にコントロールできるようになります。エンジニアは大音量のフロアモニターから投げかけられる濁った音に対処する必要がなくなり、過度な音量で部屋を満たすことなしに他の美しいサウンドと共存するミックスを作り出せます。IEMを使用すると、硬い壁がある空間で起こる音の明瞭度に関する問題の約70%を解決できます。
IEMを使った経験がないミュージシャンにとっては、これは気が遠くなるようなプロセスかもしれません。わかります。インイヤーモニターを正しく設定し使用する方法を学ぶには、一定の教育と練習が必要です。以上を踏まえて、IEMを使用する際に必用な最善の方法について見ていきましょう。
ステレオで聴く
ステレオで聴くのは、インイヤーモニターを使用する際に最も自然で最適な方法です。私たちの耳はステレオリスニングに適しているため、ステレオミックスはより自然なリスニング環境といえます。ミュージシャンは自然な音響ミックスを聴けるようになると、音量を低く設定するようになります。これは長期的に見て耳の健康に良いでしょう。
多くのデジタルミキサーは、ステレオ・リスニング用に設定されたパーソナルモニターミキサーを提供しています。これらは各演奏者の位置に設置された独立型のミニミキサーです。ミュージシャンはデジタルミキシングコンソールからネットワークを通じて、簡単かつ迅速に自分のモニターミックスを調整できます。
デジタルミキシングコンソール自体から直接ステレオのインイヤーミックスを提供するのはもう一つの選択肢です。この場合、各インイヤーミックスにはステレオペアとしてリンクされた2つのAUX/バス出力チャンネルが必要です。多くのデジタルミキシングコンソールは、最初から一定数のステレオAUX/バスチャンネルがプリセットされています。プリセットがない場合は、ステレオペアを新たに作成する必要があります。以下は、私がQSC TouchMix 30 Proミキサーで行っている方法です。
最適なパンニング
ステレオ・インイヤーモニターのミックスを調整する際、楽器はステレオ・フィールド全体を考慮してパンニングされるべきです。パンニングによって楽器間の境界線を作り出し、ミュージシャンが必要なものを簡単に参照できるようになります。このビデオは、ミュージシャンがミックス内で楽器をどこにパンニングするかについて詳細な情報を提供します。最終的に、楽器がどこにパンニングされるかはミュージシャン自身が決定すべきです。こちらは、ミュージシャンにとってインイヤーモニターにおけるパンニングがどのように見えるかを図式化したものです。

観衆用のミックスを使用する
インイヤーモニターを使うと観客から隔離されたように感じるというのがミュージシャンからよく聞く最大の不満の一つです。多くのイヤホンは密閉されており、ミュージシャンが慣れてしまっている環境音を遮断してしまいます。この問題を解決するには、観客用のマイクをモニターとして使用します。
このマイクは、通常、ステージの左右に設置され、観客に向けられたコンデンサーマイクで、左右に大きく振り分けられます。ミュージシャンは、観客の存在感を感じ取り、聞き取るために、必要な音量でこれらの観客用マイクサウンドをインイヤーミックスに追加できます。
モノラルのインイヤーミックスが唯一の選択肢の場合
適切にセットアップして調整されたステレオのインイヤーモニターは、ミュージシャンにとって非常にありがたいモニターとなるはずです。しかし、機材の制約によりモノラルのインイヤーミックス(2つではなく1つのチャンネルから出力されるミックス)を使用せざるを得ない場合もあります。このような場合、ミックスは、楽器間の区別がほとんどない中央に集まった一つの音になってしまいます。私たちの聴覚はこのように音を処理するようにできていないため、モノラルのインイヤーモニターに慣れるのは難しいのです。モノラルミックスは、中央に集まった一つの音になり、楽器間の違いがほとんど認識できません。

モノラルのインイヤーミックスを使用する場合、演奏に必要なものだけを追加すべきです。モノラルミックスでは、耳の中で音をミックスできません。次のビデオでは、モノラルのインイヤーミックスを最適に設定する方法について説明しています。
聴覚を保護しましょう
モノラルミックスを使用しているミュージシャンの間で、片方のイヤホンを入れてもう片方を外している人がいます。これは周囲の環境音を聞くために行われますが、この方法は健康的ではなく、時間とともに聴力低下を引き起こす原因となります。
この方法でモニターするミュージシャンは、両方のイヤホンを使用している場合よりも、片方の耳に対する音量を6~10dB大きくする傾向があります。音の強度が10dB増加すると、音量が2倍になるのを忘れないでください。バンドが演奏している間に、もう片方のイヤホンを一瞬戻してみてください。これにより、実際の音量がどれほど大きいかを実感できるでしょう。痛みを感じるほどの音量だとわかるはずです。
適切なイヤホンの選び方
ドライバーはいくつ必要か?これは用途によります。標準的なシングルドライバーのイヤホンでは、全ての周波数帯域を再現する負担が一つのドライバーにかかります。非常に優れたシングルドライバーモデルもありますが、事実として、シングルドライバーには限界があり、特に低音域の再現性に制約があります。ボーカリストやアコースティックギター奏者はシングルドライバーのイヤホンで十分満足するかもしれません。
ドライバーの数が増えると、それぞれがクロスオーバー周波数によって分離され、特定の周波数帯域を担当するようになります。イヤホンにドライバーが多く詰め込まれるほど、各ドライバーの効率が向上します。たとえ同じ周波数帯域をカバーしていても、追加のドライバーがあるために負荷が広く分散され、それぞれがより最適に機能できるようになります。3~6、さらには8つのドライバーを搭載したIEMは、1~2つのドライバーしかないイヤホンよりも、低音(ベースプレイヤーやドラマーにとって最優先事項)、高音、そして中音域の明瞭さが優れています。
ユニバーサルフィットかカスタムモールドか?ユニバーサルフィットのイヤホンは経済的ですが、私は不快に感じる場合が多いです。通常、イヤホンにはさまざまなサイズのイヤーピースが付属しています。耳から外れないで最適なシールを見つけるために、いろいろ試してみる必要があります。

IEMを定期的に何時間も装着するのであれば、装着の快適さを得るだけでもカスタムモールドに投資する価値があるでしょう。この製作プロセスでは、耳の型を作るために聴覚専門医と予約を取り、型取り用の柔らかい材料を耳の中に挿入して硬化させ、型を作り、それを取り出してカスタムイヤープラグの形を決める作業を行います。カスタムモールドのもう一つの利点は、遮音性です。カスタムモールドのイヤーピースは外耳の内部にぴったりとフィットするため、ハウジング自体が遮音性を高め、ユニバーサルフィットのIEMでは提供できないレベルの遮音性を提供します。
IEMに移行する方法
フロアモニターに慣れ親しんだ人にとって、IEMへの移行には抵抗があるかもしれません。ライブで使用する前に、バンドで何度かリハーサルを行うべきです。それぞれのミュージシャンが最高のパフォーマンスを引き出すためのミックスを作るために、多くの調整が必要です。バンド全体が新しいリスニング環境に慣れるために、脳を再トレーニングする必要があり、これには時間と忍耐を要します。

ミュージシャンがパーソナルモニターミキサーやその他のデバイスを使って自分のミックスを調整する場合、機材の使い方だけでなく、ミックスを設定する際にどれを聴くべきかの学習が非常に重要です。IEMをバンドで使い始めるためのビデオを作成しましたので、ぜひご覧ください。
この記事はQSCによるBest Practices When Using In-Ear Monitors (IEMs)の翻訳です。