
あらゆるジャンル音楽は、最も大きな音域と最も小さな音域の差を意味するダイナミックレンジを持っています。
ダイナミクスは音楽や創造的なプロセスに変化を与えるため、非常に重要です。この記事では、なぜダイナミックレンジが重要なのかを生演奏と録音の両方に関して説明します。
音楽のエッセンス
ダイナミックレンジは、メロディー、ハーモニー、リズムとともに、音楽を楽しく、魅力的に聴かせるために不可欠な要素のひとつです。最初から最後までほとんどダイナミクスが変わらない曲よりも、レベルが顕著に変化する曲の方が魅力的です。
曲のダイナミックレンジが広すぎると、静かな部分がはっきり聴こえず、大きな音は不快に感じられます。逆に、大きい音と小さい音の差が小さすぎると、音楽がつぶれて聞こえ、特に大音量で聴くと耳が疲れます。
音楽アーティスト、ソングライター、プロデューサーは、楽曲をドラマティックに聴かせるために、音量や強弱を変化させたアレンジをします。その変化は、小さな楽器編成の変更から、大音量のコーラスの後にほとんどの楽器が演奏を停止するブレイクセクションの挿入まで様々です。
ドラマーは、1拍ごとに音を変化させて、音楽性やリズム感を演出しています。同様に、歌い手も、大きな音と小さな音を駆使して、演奏に深みを持たせられます。
オーディオにおけるダイナミックレンジとは?
簡単に言うと、音楽制作におけるダイナミックレンジとは、最も大きなピークと最も静かな部分の差をデシベル(dB)で表したものです。したがって、ダイナミックレンジが広い曲は、最も大きな音と最も小さな音の差が大きくなります。

音楽を再生する再生メディアやオーディオ機器にも、音域(ダイナミックレンジ)があります。スピーカーやヘッドホンでは、その機器が出せる最も大きな音と、ノイズが聞こえるようになるまでの最も小さな音の比率です。
ダイナミックレンジはどれくらい聞き分けられるか
人間の聴覚は最大ダイナミックレンジ側によって制限されています。ヒトの聴覚のダイナミックレンジは約90dBで、30dB(ささやき声)から120dB(離陸する飛行機音)までの範囲です。このレベルを超えると、歪みによって苦痛が生じ始めます。
アナログオーディオの世界では、アナログ機器の最大ダイナミックレンジはおよそ50~60dBです。デジタルオーディオの場合、デジタル信号を20ビットに量子化したときの理論的なダイナミックレンジは120dBです。24ビットのデジタルオーディオ信号の場合、144dBのダイナミックレンジがありますが、ヒトの聴覚の限界は120dB程度であるため、その多くは感知できません。そのため、コンプレッションは快適なオーディオソースを作るための有効な手段となります。
ダイナミックレンジと信号対ノイズの違い
SNRはSignal-to-Noise-Ratioの略で、しばしばダイナミックレンジと混同されます。SNRは、デバイスの標準の再生レベルとノイズフロアの比率を表します。
ダイナミックレンジ(DNR)は、歪みのない可能な限り大きなピークと、ノイズ(一般的にはハムやヒス)が聞こえるようになる前の最も静かなピークの比率です。
さらに、ダイナミックレンジが広ければ広いほど、ヘッドルームも広くなります。ヘッドルームは、標準的な再生レベルを超え、歪みが現れる前のレベルです。

ダイナミックレンジはどのように変えるのか
コンプレッサーは、最も大きな音と最も小さな音の差を減少させ、それによってトラックの全体的な音とダイナミックレンジを変更できます。
録音された音楽やライブ音楽のダイナミックレンジを抑えると、明瞭度が向上します。そのため、録音したトラックをマスタリングする際、エンジニアはコンプレッサーやリミッターを使ってダイナミックレンジを整えます。コンプレッサーは、楽曲中の不明瞭な部分を浮き上がらせます。

広いダイナミックレンジにより、快適なリスニングに必要な音量が不足する場合があります。一方、ダイナミックレンジが非常に狭い場合は、元の音のエネルギーや音楽性が失われ、不愉快なほど大きな音になってしまう場合もあります。
音楽ジャンルとダイナミックレンジ
すべての音楽には本質的にレベル変動があり、ジャンルにより異なるダイナミックレンジを持ちます。ポップス、ロック、R&B、ヒップホップ、カントリーミュージックは、通常、比較的狭いダイナミックレンジ(通常10dB前後)です。エレクトロニック・ダンスミュージック(EDM)は、最も狭いダイナミックレンジ(6dB前後)でしょう。シンセサイザーやサンプラーによるほぼ無限の音色とテクスチャの配列によってコントラストを作り出してそれを補っています。
一方、ジャズやクラシックでは、静かな部分と大きな部分の差がかなり大きくなっています。ジャズでは、金管楽器で演奏される大音量のパートから、ピアノやベースの静かなソロまで様々です。2016年に実施されたさまざまな音楽スタイルのダイナミックレンジに関する調査では、ジャズのダイナミックレンジは一般的に13~23dBの範囲であると明らかになりました。
クラシックの録音は、あらゆるジャンルの中で最も広いダイナミックレンジを持っています。前出の研究では、録音されたクラシック音楽のダイナミックレンジは通常20~32dBであり、最も広いのは生の交響楽団のダイナミックレンジで、90dBにも達します。
ラウドネスと音楽の未来
過去30年の間に、1つのライブパフォーマンスやスタジオレコーディングで使用されるコンプレッションやリミッターの量は、間違いなく増加しています。ラジオやクラブのサウンドシステムで音楽を強く印象付けるために、エンジニアはトラックの平均音量レベルを可能な限り大きくするため、しばしば強めの圧縮で曲をマスタリングします。このため、「ラウドネス競争」が起こり、アーティストは本来の音を取り戻すべくエンジニアに改善を要請するようになりました。
幸い、ストリーミングサービスでは、楽曲のラウドネスに自動的に上限を設ける「ラウドネスノーマライゼーション」機能が導入されています。どんなに大きな音で録音しても、この上限を超えないように、自動的に音量が下げられます。その結果、ストリーミング用のマスタリングでは、音量を稼ぐためにダイナミックレンジを狭くする必要がなくなりました。その結果、ポピュラー音楽のダイナミックレンジは平均して10dB台となりました。
まとめ
音楽を忠実に再生するためには、スピーカーに優れたダイナミックレンジ能力が必要なのは間違いありません。スピーカーの能力を評価するには、音量が小さい部分と大きなピークを持つように録音されたドラム/パーカッション・トラックを使って、トラック全体がよく再現されているかどうかを評価します。どのような再生レベルでも歪みがなく、曲の全体にわたって微妙なディテールが明瞭でなければなりません。
音楽のレコーディングやライブパフォーマンスにおいて、楽曲の理想的なダイナミックレンジを見つけるための絶対的な方法はありませんが、オーディオ圧縮と信号への影響の関係を理解して、スイートスポットを見つけられます。
QSC TouchMixデジタルミキサーには、強力で非常に便利なコンプレッサーやリミッターが搭載されていますが、常に音楽性や情緒を意識して、これらを演奏や録音に役立てるようにしましょう。
この記事はQSCによるWhy is Dynamic Range so important?の翻訳です。