
コンサートやショーなどのライブイベントで音が薄い、パンチやダイナミックさに欠ける、自分が動くと聞こえ方が変わるなどの経験をしたことはありませんか。サウンドシステムにおいて複数のスピーカーを重ねたり並べていたり、壁などの大きな垂直面で音がはっきりと反射している場合は、「コムフィルタリング」の影響を受けている可能性があります。
この現象を理解するのに位相干渉とは何か、さらに、逆位相干渉について知る必要があります。2つの波形が同じ大きさで、位相がちょうど180度ずれて現れた場合、完全に打ち消されます。2つの波形は合わされてゼロになり、これを逆位相干渉と呼びます。
コムフィルタリングはある波形に同じ波形が遅れて重なり、周波数が増幅、あるいは減衰する現象です。このコムフィルタリングが起こるには、信号のレベルが互いに10dB以内になければなりません。コムフィルターの周波数特性を視覚的に見ると、一定間隔にあいた波形の連続になり、ちょうど髪をとかす櫛のような形状になります。

この重ね合わせがオーディオ・スペクトラムにキャンセルと増幅を起こし、金属のような音を作ります。主要な周波数レンジの重要な部分が抜けていて、耳障りで鋭い音になります。
コムフィルターは音源(ミュージシャン/楽器)やマイクが演奏中やレコーディング中に動くことにより、反射される波形が連続的に変化し、コムフィルターがオーディオスペクトラム全体に影響します。この様に異なる周波数に対する減衰、増幅が時間的に変化することを「フェーザー効果」と呼びます。
時間によるコムフィルタリング効果
コムフィルターの形と強度は元の音に対する遅れにより決まります。一番強い反射が元の音に対して2msより短い時間に起きるなら、枠内にある高域周波数のみが影響され、あまり気になりません。遅れと反射が10msに近づくと、コムフィルターによるキャンセルと増幅の影響は聞き取りやすい周波数領域に入り、よりはっきり影響がわかるようになります。
最初の反射が20msより遅く到着する場合、人の耳は2つの音(直接と反射)を区別して聴くことができるようになります。2つの音が十分に遅れて届けば、コムフィルターの現象は完全に消えます。
しかし、反射音だけが、コムフィルタリングを起こすわけではありません。複数のスピーカーやマイクもコムフィルタリング効果を引き起こします。
音の反射によるコムフィルタリング
音は音源から放射され、近くの固い表面から反射します。例えば、スネアドラムのマイク録音では、放射された音はマイクに届くのと同様に、部屋の壁に到達し反射されます。テーブル表面、床、天井、さらに家具、窓などからも反射は起こります。
反射音は直接音よりさらに長い距離を伝わり、耳やマイクに遅れて到達します。両方の信号は同じですが、数ミリ秒遅れるためコムフィルタリングを起こし、周波数のいくつかはキャンセルされたり、増幅されたりします。
反射によるコムフィルタリングを避けるため、いくつかの方法があります。1つ目は、音響エネルギーが距離により急速に減衰することを利用して、マイクをできるだけ音源に近づける方法です。これにより、直接音のレベルは反射音よりずっと大きくなります。
もう1つの効果的な方法は、マイクに届く最初の反射音を吸収、または散乱させることで、マイクに入るエネルギーの量を明確に減衰できます。
複数のスピーカーによるコムフィルタリング
同じ信号が複数のスピーカーに送られるときは常にコムフィルタリングが起こる可能性があります。ステレオ音を生成するとき、通常は左右のスピーカーはリスナーから等距離に置かれます。両方の直接音が同時に、全ての周波数が同位相でリスニングポジションに到達すればコムフィルタリングは起こりません。
しかしながら、正確なリスニングポジションで聴くことができない環境、例えば一方のスピーカーに近づいて座っているなどの状況であると、ある周波数がキャンセルされたり、増幅されるため、コムフィルタリングが起こります。
上記のステレオ音における問題はライブサウンドでも起こります。アリーナなど大規模会場において大観衆に届けるために起こる、スピーカーの時間遅れの問題です。この用途では、スピーカーを複数用意する必要があり、メインスピーカーアレイを補助するためにバルコニー下にスピーカーを追加したりします。システムが正しく設置されなければ、メインスピーカーアレイからの音はバルコニー下のスピーカーに遅れて届き、コムフィルタリングが発生します。
この現象を抑える方法があります。大規模会場のライブサウンドに対して、全スピーカーの音を同期させるため、個々のスピーカーアレイに合わせてディレイ時間をセットします。
スピーカー間のディレイタイムの調整を一カ所のスポットで最適化するのも効果的な方法です。どのような場合でも何か妥協が必要で、複数の音源(スピーカー)を使用する場合、コムフィルタリングの問題は多少なりとも常に存在します。
もし、単一音源スピーカー(QSC CP、K.2、KWシリーズなど)を使用して広範囲をカバーしたいなら、まず、よくコントロールされた指向性を持っているスピーカーのモデルを選択しましょう。カバレージができるだけ重ならないようにしてスピーカーを配置すると、コムフィルタリングはほとんど起こりません。
例えば、公称カバレージが60度、本体側面角18度のKW152を2台使用しましょう。この2台を隣あわせに設置すると、2台の中心軸の角度は36度になり、音響エネルギーが重なっている所は、リスニングエリア内でコムフィルタリングの影響を受けます。スピーカーをより広い60度で設置すると、重なりは最小限になり、全体のカバレージ角は120度まで広がります。

より広い角度で設置して、干渉を最小限にし、全体のカバレージ角を広げる(右)
複数のマイクを使用することにより起こるコムフィルタリング
ステレオマイクのテクニックは、録音に臨場感を与えるのに最適な方法です。しかしながら、音が複数のルートを取ってマイクに伝わるとき、ルートが長くなることによる遅れで、特定の周波数がキャンセル、増幅します。ドラムキットを録るとき、様々なマイクが異なる位置に設置されています。そのため、ドラムの音が僅かに違う時間でマイクに到達し、コムフィルタリングを起こしているのです。
また、パネルディスカッションでは、複数のマイクが同時に働きます。各参加者が自分のマイクで話しても、隣のマイクに声が入って、混じり合ってしまい、それがコムフィルタリングを引き起こします。
この複数のマイクによるコムフィルタリングを防ぐいくつかの方法があります。例えば、3対1の法則では、あるマイクが音源から1mの場合、隣のマイクとは最低でも3m離します。
マイク間のリークを減少させるため、マイクを分離することができないなら、オートゲイン(QSC TouchMix30Proデジタルミキサーではオートミックス)を使用します。これは、自分のマイクに話しているときはゲインを上げ、使用していないときはゲインを自動的に下げる機能です。これにより、複数のマイクを使用することによるコムフィルタリングを大幅に減少させることができます。しかしながら、この方法は2本以上のマイクが同時にゲインが上がると効果的ではありません。
結論
コムフィルタリングは音の反射や複数のスピーカーやマイクを使用するとき起こる可能性があります。変化した音は、金属的で不自然、とげとげしく鋭い音になります。コムフィルタリングが起こると、原音における基本周波数の重要な部分が欠落します。私達の耳や脳は音の全共振部分と特定の音質を使って、各音の特性を脳に再現させます。もし、基本周波数が欠落し、再生され、録音されたりすると、音は原音の忠実さを失います。この場合でも、いくつかのヒントとテクニックに従うことによって、多くの異なるライブサウンドやレコーディング用途で起こるコムフィルタリングを最小限に抑えることができます。
ぜひ工夫して音を楽しんでください。
この記事はQSCによるWhat is Comb Filtering and how to avoid itの翻訳です。