
輪郭のはっきりしないミックスと、明瞭なミックスの違いは何でしょうか。その違いはEQ(イコライザー)にあります。
イコライザーは優れたSR(サウンドリインフォースメント)のために必須です。イコライザーの基本知識は、ミキシングコンソールを操作する上で重要であり、サウンドの問題点を修正、または音質を向上させ、まとまりのあるミックスを作ることができます。
パート1では、ほとんどのデジタルコンソールで利用可能なEQとその機能について学びます。
パート2では、特定の楽器、ボーカル、ライブSRのアプリケーションにEQツールを適用して、素晴らしいミックスを作成する方法を学びます。
ハイパスフィルター(ローカットフィルター)
ハイパスフィルターは、しばしばHPFと略され、選択した周波数以上の音声信号は通過させ、その周波数より低い音声信号、つまり低周波の音をカットします。

このフィルターは、楽器など多くの音素材に含まれる低域が重なっている場合、クリアで存在感のあるミックスを作成するために重要です。実際、多くのサウンドは、ローエンドの音域をあまり必要としません。2つの楽器が同じ周波数帯域で重なっている場合、片方をハイパスさせ、もう一方の楽器のためにスペースを確保できないか検討します。
すべての楽器は、特定の周波数帯域で演奏されます。ハイパスフィルターを使用すると、楽器が出さない周波数帯を除去できます。例えば、平均的なポップス歌手の男性の声は、約100Hzからですが、ハイパスフィルターを使えば、100Hz以下の周波数帯を取り除き、ボーカルの明瞭度を高めることができます。
ハイパスフィルターは、空調や風、交通騒音などの低周波や、飛行機の騒音など、増幅してはいけない不要なノイズを除去します。
マイクの中の「P」ポップ音は煩わしいですが、ハイパスフィルターを使用して、その影響を軽減できます。
マイクがスピーカーの音を拾うと、ハウリングが起きます。低周波(一般に200Hz以下)は指向性が弱いので、スピーカーをマイクから離して設置した場合、ハウリングを発生させる可能性が高いのは低周波です。ハイパスフィルターを使用すると、低域のハウリング防ぎ、ゲインを稼ぐことができます。
ローパスフィルター(ハイカットフィルター)
ローパスフィルターは、LPFと略され、選択した周波数より低い音声信号を通過させ、その周波数より高い音声信号をカットします。

例えば、フルートの刺すような鋭い高音をカットしたり、バイオリンの弓が弦の上を通過するときの甲高い音をカットしたりできます。
例えば、ドラムセットとアコースティックギター。この2つの楽器は、一見すると全く別の役割を担っているように見えますが、アコースティックギターはアグレッシブにかき鳴らすと、ハイハットやシンバルの音域に干渉します。そこで、ローパスフィルターを使って、ある楽器の音を別の楽器の邪魔にならないように調整します。
ハイパスフィルター、ローパスフィルターともに、調整するパラメータは2つです。
周波数
「カットオフ周波数」とも呼ばれ、フィルターが信号をカットし始める(レベルを下げる)ポイントです。
スロープ
減衰の割合を決定します。ほとんどのデジタルミキシングコンソールでは、この値は固定されているので、このコントロールは使用されません。
シェルビングフィルター
シェルビングフィルターは、シェルフ・フィルター、シェルフEQ、シェルビングEQなどとも呼ばれ、選択した周波数より低い、または高い周波数の音量レベルを増幅(ブースト)または減衰(アッテネート)させます。周波数の高域を増幅または減衰させるシェルビングフィルターは、「ハイシェルフ」と呼ばれます。一方、低域のシェルビングフィルターは、「ローシェルフ」と呼ばれます。イコライジングを視覚的に示すと、棚(shelf)に似ているので、このような名前が付けられました。

シェルビングフィルターには3つのパラメータがあります。
ゲイン(Gain)
増幅または減衰の量を調節します。
周波数(Frequency)
上の周波数(ハイシェルフ)、下の周波数(ローシェルフ)を増幅または減衰するポイントを定義します。
スロープ(Slope)
ゲイン変更が適用されるバンド幅です。多くのライブ用ミキシングコンソールでは数値は固定されており、このパラメータのコントロールはできません。増幅、減衰の最大値に達すると、ゲインの変化は周波数のトップまたはボトムまで一定に保たれます。
シェルビングEQはコントロール数が少ないため、ハイエンドの輝きやローエンドの重さを加えるなど、サウンドの基本的な音質調整のために使用します。
QSC/TouchMixミキサーのすべての入力チャンネルには、ローパスフィルターとシェルビングフィルターが搭載されています。
パラメトリックEQ
パラメトリックEQは、オーディオ信号の周波数成分を連続的にコントロールできるため、レコーディングやライブサウンドの主役として活躍しています。

一般的なデジタルミキサーのインプットチャンネルのパラメトリックEQは、4つの周波数バンドを備え、バス(Aux)やサブグループは、最大で7つの周波数バンドを提供します。
パラメトリックEQの各周波数帯域には、ゲイン、周波数、帯域幅/Qという3つのパラメーターがあります。
ゲイン
増幅または減衰される量を決定します。
周波数
どの周波数を中心に増幅または減衰するかを決定します。選択された周波数は「センター」または「EQセンターポイント」と呼ばれます。
帯域幅(Q)
影響を与える周波数帯域の幅を調整します。Qが広ければ広いほど、調整によって影響を受ける周波数も広く、狭ければ狭いほど、影響を受ける周波数は狭くなります。この帯域幅の調整によりオーディオ信号を狙い通りにコントロールします。
楽器やボーカルのチャンネルでパラメトリックEQを使用する場合、音の音色を操作する方法は2つあります。
Additive EQ
周波数をブーストして、欲しいサウンドを得る。
Subtractive EQ
不要な周波数をカットする。
スピードが求められるライブミキシングの世界では、目的のサウンドまで最短で到達できる方法を選びます。
例えば、狭い周波数を増幅または減衰させたい場合は、該当する(問題のある)周波数の調整をまず行います。
EQツールを実践に使用する準備をしよう
デジタル・ミキシング・コンソールのEQのコンセプトはほぼ同じです。どこにコントロールがあるのか分からない場合は調べて、EQにアクセスし、実際に操作する練習が必要です。お気に入りの音楽を聴きながら、EQコントロールをマスターしてください。
ライブミキシングの世界では、様々な個性を持ったミュージシャンに対して、限られたサウンドチェック時間内でミキシングを行わなければなりません。ミキシングコンソールを操作する人は操作方法をマスターし、即座にサウンドを作り上げる必要があります。
さて、EQツールの機能とその運用方法を理解したところで、次はそれらを応用して、クリアで明瞭、かつ存在感のあるミックスを作り上げましょう。
「EQツールを使ったクリアで存在感のあるミックスの作り方」のパート2にご期待ください。