先日車を運転していた際、初めてタイヤのバーストを経験した筆者です。しかも代車で。暑かったために窓を全開にしていたので、バーストの瞬間の強烈な音がはっきりと聞こえましたし、まだ耳に残っています。いつトラブルに襲われるかわかりませんから、備えと対策は常にしておきましょうね。
今回はギターのヘッド裏の付け根にフォーカスしてみたいと思います。ひとまずこちらの写真をご覧ください。


右側の写真には出っ張りがあるのがわかりますよね。この部分を“ボリュート”と呼びます。
GibsonやIbanez、Martinでよくある角度付きヘッドのギターにおいて、形状にやや差異はあれど時折見られるものです。
なんとなく想像がつく通りこの部分の補強が主な役割となる出っ張りですが、このボリュートがどんな役割をしているのか、解説を入れながら掘り下げていきたいと思います。
① 補強のため
角度付きヘッドを横から見てみると、ちょうどナットの裏辺り、角度がついている部分の厚みがネックグリップよりも薄かったり、ほとんど変わらないのがわかると思います。これがどういうことかというと、例えばギターを倒してしまったとき、ヘッドから倒れた場合、衝撃は角度の支点になっているナット裏周辺に集中します。その部分が薄いので、簡単にヘッドが折れてしまうんです。本当にぽっきり折れてしまいます(気になる方は“ギター ヘッド折れ”などで調べてみてください)。この部分にふくらみを持たせることで、純粋に強度アップが見込め、衝撃を分散させ和らげる効果が期待できます。
また、角度付きヘッドはその構造からトラスロッドの調整口がヘッド側にある場合がほとんどです。トラスロッドの支点にかかる力もこのあたりにかかるため、これもまたダメージを大きくする原因です。
ナットで支える弦の張力とトラスロッドの力が常にこの部分にかかっていますから、衝撃に耐えられるほどの余裕がないってことは伝わったと思います。GibsonやIbanezなど多くのブランドがボリュートを採用する場合はこの理由です。
② 製作上の都合から
主にMartin、それも古いモデルにおいての話にはなってしまいますが、製作上の都合で採用に至ったケースも存在します。

Martinといえばこんなボリュートですが、これは昔、この部分でネック用の木材を継ぎ足していた名残になります。Martinの昔のモデルでは、ネック材を継ぎ足して組み合わせることで角度をつけていました。その際、接着するための木材の面積が不足してしまうことから、こういった構造を用いて接着面積を稼ぎ、強度を上げようとしたわけです。また、平板の木材を組み合わせて角度をつけることで、より歩留まり良く木材を使うことにもつながります。

このモデルはMartinではありませんが、ヘッドで木材を継ぎ足してあるとこんな感じになります。
③ 装飾として
これも主にMartinですが、②で見てもらった写真のように、かなり特徴的な見た目をしていますよね。これは装飾目的もあるためです。ピラミッドボリュートやダイヤモンドボリュートなんて呼ばれたりしていますが、Martinといえばこれ、という方もちょくちょくいるのでは?なんて思ってます。ギターの裏側にもそのブランド特有の特徴があるのって、なんだかかっこよくありませんか?
④ 採用による副産物
また、ボリュートを付けることでネック材を継ぎ足す際の接着面積が稼げるという話は、万が一の際に折れてしまった後にも多少のメリットをもたらします。
折れてしまったヘッドを修理する際、ヘッドからボディ方向に向かって溝を掘り補強材をはめ込むという方法をとります。その際、溝の位置によってはその補強材の接着面積を稼ぐ役割も果たせる場合があり、その点もメリットと言えるでしょう。
おまけ
Q. メリットが多いならなんで全てのモデルにボリュートを付けないの?
A. そのギターが最初に発売された当時はついていない仕様だったから
解説しますね。ここまでボリュートを付ける理由を解説しましたが、現在ではついているモデルもそうでないモデルも両方流通しています。メリットの方が多いならつける仕様に改良すれば良いはずなのにそうならない。それにはシンプルな理由があります。
例えばレスポールを例にとってみましょう。
EPIPHONE ( エピフォン ) Les Paul Standard '50s Metallic Gold
カッコいいですよね、ゴールドトップ。このモデルはボリュートなしのモデルです。それはなぜでしょう?
正解は商品名Les Paul Standard '50s Metallic Gold に隠れています。レスポールは1952年発売のモデルですが、1950年代当時、ボリュートは付いていませんでした。改めて商品名を見てもらうと分かる通り、このモデルは1950年代当時の仕様をリバイバルしています。したがってボリュートもないわけですね。
というわけで……
A. そのギターが最初に発売された当時はついていない仕様だったから
となるわけです。
まとめの一言: ギターは大切に扱ってね!!
Gibsonの棹物も取り扱い始めました。覗いてみてね!